読書手術 #毎週ショートショートnote
図書館の奥に、ひっそりと「読書手術室」がある。
予約制。
対象は“読めなくなった人”だ。
今日の患者は、大学生の青年。
かつては本の虫だったが、最近は一行も頭に入らないという。
「文字が、ただの模様に見えるんです」 彼はそう言って、目を伏せた。
白衣を着た司書が、静かに頷く。 「では、始めましょう」
青年はベッドに横たわり、目元に薄い読書灯が当てられる。
司書は彼の胸元に一冊の文庫本を置き、ページをそっと開いた。
すると、文字がふわりと浮かび上がり、彼の胸に染み込んでいく。
「これは、あなたが初めて泣いた物語です」 司書の声が響く。
青年の目に、うっすらと涙が滲む。
忘れていた感情が、文字とともに蘇る。
手術は十五分で終わった。
青年はベッドから起き上がり、文庫本を抱きしめた。
「読めます。ちゃんと、心に届きます」
司書は微笑んだ。 「読書は、心の手術ですから」
(376字)
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