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溜め息~ショートショート #風まかせ文芸部

夕暮れのオフィス。蛍光灯の白さが妙に冷たく感じる中、僕はパソコンの画面を閉じ、深く息を吐いた。
「はあ……」
机の上に落ちたその溜め息は、思いのほか重たく響いた。
隣の席から、同僚の佐伯さんが顔を上げる。
「またため息? 運、逃げちゃうよ」
冗談めかして言う声に、僕は苦笑するしかない。
「そんなに簡単に逃げられる運なら、最初からなかったんじゃないかな」
そう言いながら、心の奥でひっそりと焦っていた。
最近、仕事もうまくいかず、私生活も空回り気味だ。
気づけば、溜め息ばかりが口から零れている。
そのとき、佐伯さんが僕の机の上に指を伸ばし、空中をつまむような仕草をした。
「はい、キャッチ」
「……何を?」
「あなたの溜め息。こうやって捕まえて、外に捨ててくるの。運が逃げないように」
そう言って、彼女は立ち上がり、窓の外へ向かって手を放った。
ビルの谷間へと消えるように、ぱっと広げた。
馬鹿げている、と笑いそうになったが、不思議と胸が少し軽くなる。
「ほら、また一つ逃さずに済んだ」
佐伯さんがそう言って笑うから、僕もつられて小さく笑ってしまった。
その日以来、僕の溜め息は、彼女の手のひらに捕まえられては、空へ放たれていく。
そして気づけば、溜め息よりも笑い声のほうが、少しずつ増えていた。

#風まかせ文芸部
#溜め息

こちらの企画に参加させていただきました。

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