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deepstar6
浮気清浄機(最終モデル) #毎週ショートショートnote
「ねえ、これ買ったの」
彼女が置いたのは、真っ黒な箱だった。以前の白いモデルと違って、妙に重く、光沢もない。浮気清浄機 Ver.「終」とだけ刻まれている。
「前のは不完全だったの。浮気の痕跡しか消せなかったから」
嫌な予感がして笑えなかった。
「今回は違うよ。発生源から除去するの」
スイッチが押される。音はしない。ただ、部屋の温度だけがすっと下がった。
ランプは最初から真っ赤だった。
「ちょっと待て、俺なにも――」
言い終わる前に、体の奥が引き裂かれるような感覚。記憶でも感情でもない、選ぶ力みたいなものが、ごっそり抜き取られていく。
好きになる衝動、目移り、後ろめたさ――そういう曖昧なもの全部。
膝から崩れ落ちた俺を見下ろし、彼女は満足そうにうなずく。
「これで大丈夫。浮気という選択肢が消えたから」
声を出そうとしても、もう何も浮かばない。誰かを好きになる理由も、彼女を選んだ理由さえも。
ただ命令を待つみたいに、空っぽのまま立ち尽くす。
彼女はそんな俺の頬を軽く叩いた。
「いい顔。やっと理想の彼氏になったね」
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
新しい男が入ってくる。彼女は振り返り、少しだけ困った顔をする。
「ごめんね、これ試作品だから」
そして黒い箱に目をやって、静かに言った。
「次の人で完成させるね」
(541字)
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