和解劇場 #毎週ショートショートnote
町はずれの小さなホールには「和解劇場」と看板が出ている。
演目はいつも同じ、「仲直り」だ。
ケンカや行き違いを抱えた人がここに来て、観客の前で思いを語り合う。
拍手とともに幕を下ろすのが決まりだった。
この日登場したのは、老夫婦。
結婚五十年、しかし最近は些細なことで言い合いばかりだという。
舞台の中央で、妻は震える声で言った。
「あなたが新聞ばかり読んで、私の話を聞いてくれないから…」
夫はしばらく黙っていたが、やがて絞り出すように答えた。
「耳が遠くなってな…聞き取れなくて、つい避けてしまった」
観客席は静まり返り、やがて小さなすすり泣きが混じった。
妻の目から涙が落ちる。
夫は不器用にその手を握った。
「ごめんな。これからは補聴器もつけるし、ちゃんと聞く」
「私も、もっと大きな声で話すわ」二人の影が舞台のライトに重なる。
幕が降りると、観客は総立ちで拍手を送った。
和解劇場の出口で、夫婦は寄り添いながら歩いていった。
長い歳月のすれ違いさえ、舞台の光の中で少しやわらかく溶けていた。
(433字)
たはらかにさんの企画「#毎週ショートショートnote」に参加させていただきました!
いいなと思ったら応援しよう!
読んでくださってありがとうございます! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます。