23歳の秋、私たちは漢字で通じ合っていた。あの日までは。
「漢字」って、
つくづく効率のいい文字だと思う。
たった一文字で、
ものすごい量の情報を相手に叩き込める。
しかも読める人間には、
わりと容赦なくダイレクトに伝わる。
イギリス・ブリストルへ留学していた頃、
私はその“漢字の威力”を身をもって
体験したことがある。
当時23歳。
人生で初めて、髪の色を変えた。
担当してくれたのは、
同じ専門学校に通っていた香港人の男の子。
本国ではすでに美容師として働いていたらしく、手際もセンスも抜群だった。
仕上がりはかなり満足で、
鏡を見ながら内心ちょっと浮かれていた。
「え、なんか垢抜けたかも♪」
そんなテンションで翌日、
英語のクラスへ行った。
すると、中国人の女の子が私を見るなり
駆け寄ってきた。
「すごく似合ってる! 前よりいい!」
彼女は普段、英語もペラペラ。
なのにその日は珍しく、
「えーっと……なんて言うんだっけ……」と
単語に詰まっていた。
そこで私は軽い気持ちで言った。
「いいよ、漢字で書いてみて。私たち、
それできるじゃん」
留学中、彼女とはたまにこういう“筆談”をしていた。この筆談で、私たちは英語という
言語の壁をいくつも乗り越えていた。
英語が出てこなくても、
漢字を書くとなんとなく伝わる。
東アジア圏の便利すぎる裏ワザである。
すると彼女は「あっ、それだ!」
という顔をして、
ノートにサラサラと一文字書いた。
そこに書かれていたのは、
「老」
……えっ?
23歳の秋。
異国の教室で、
私は漢字一文字にフリーズした。
「ちがうちがう!!」
私の顔を見た彼女が、慌ててフォローする。
「“Old”じゃないの!“Mature”! “成熟した”って意味!」
「あの💦、落ち着いた感じ! 大人っぽくなったってこと!」
あ~、なるほど。言いたいことはわかる。
わかるけど。
もっと他になかった?
いやほんと、漢字って便利なんですよ。
一文字でニュアンスまで伝わるから。
でも時々、その情報がダイレクトすぎて
こちらのメンタルが耐えきれない時がある。
ブリストルの薄曇りの空の下。
私は新しい髪色を触りながら、
「老」という漢字の持つ破壊力について静かに考えていた。
23歳には、ちょっと刺激が強かった。
🍡💇🍁
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