妻たちは今日も共犯者。
最終幕 夫婦は最強のチーム
「重大発表があります。」
ある日の昼休み。
会社近くの喫煙所で、一馬が真剣な顔をして言った。
「何だよ、改まって。」
優吾が缶コーヒーを開ける。
一馬は胸を張った。
「俺、最近気付いた。」
「何に?」
「茉莉には勝てない。」
優吾は吹き出した。
「今さら?」
「いや、違う。」
一馬は首を振る。
「勝とうとしてた俺が間違ってた。」
「……。」
「結婚ってさ。」
一馬は少し照れくさそうに笑う。
「敵味方じゃないんだよな。」
その言葉に、優吾も静かにうなずいた。
「俺も同じこと思ってた。」
「里香に勝とうとか、主導権を握ろうとか。」
「そんなこと考えるから疲れる。」
「そう。」
「一緒に笑って帰れる家があれば、それでいい。」
二人は顔を見合わせる。
「……夫防衛同盟。」
「解散だな。」
「異議なし。」
ジョッキではなく、缶コーヒーを軽くぶつけ合う。
秘密結社は、あっけなく解散した。
その日の夜。
「茉莉。」
夕食のあと、一馬が神妙な顔で切り出した。
「ん?」
「話がある。」
「どうしたの?」
「実は。」
一馬は深く頭を下げた。
「今まで、ごめん。」
茉莉は驚いた。
「仕事を言い訳にしたり。」
「家のこと任せっぱなしだったり。」
「ちゃんと感謝も伝えなくて。」
「一馬……。」
「でも。」
一馬は顔を上げる。
「これからも失敗はすると思う。」
「うん。」
「だから、その時は一緒に笑って教えて。」
茉莉の目に涙がにじむ。
「そんなこと言われたら……。」
「うん。」
「私も謝らなきゃ。」
「え?」
茉莉は照れくさそうに笑った。
「私も怒り方、下手だった。」
「そうかな。」
「もっと素直に『寂しかった』って言えばよかった。」
一馬は優しく笑う。
「それなら、すぐ帰ってきた。」
「嘘。」
「……半分くらい。」
「もう。」
二人は笑い合った。
同じ頃。
優吾の家。
「里香。」
「なあに?」
「実はさ。」
優吾は頭をかいた。
「俺。」
「うん。」
「お前に教育されてた。」
里香は目を丸くした。
「気付いてたの?」
「途中からな。」
「怒ってる?」
「いや。」
優吾は首を横に振る。
「むしろ感謝してる。」
「え?」
「俺、一人じゃ変われなかった。」
里香は少し照れくさそうに笑った。
「私も。」
「え?」
「優吾が少しずつ変わるから、私も優しくなれた。」
二人は自然に手をつないだ。
「これからもよろしく。」
「こちらこそ。」
翌週。
駅前のカフェ。
茉莉と里香は、いつもの席に座っていた。
「作戦会議も今日で最後ね。」
「そうね。」
茉莉はバッグから一冊のノートを取り出した。
表紙には大きく書かれている。
『妻同盟・極秘作戦ノート』
里香は笑いながらページをめくる。
『第一回・連絡を忘れる夫』
『第二回・ありがとうを言わない夫』
『第三回・家事をしない夫』
『第四回・夫防衛同盟対策』
どのページにも、笑い話のような思い出が詰まっていた。
「終わりかぁ。」
「寂しい?」
「少しだけ。」
茉莉は微笑みながらノートを閉じる。
「でも。」
「うん。」
「もう必要ないもの。」
二人は顔を見合わせる。
そして――。
ビリッ。
「えっ?」
里香が驚く。
茉莉は迷いなくノートを破り始めた。
「もう?」
「うん。」
「卒業。」
里香も笑って手伝う。
細かく破られたノートは、小さな紙吹雪のようになった。
「お疲れさま。」
「お疲れさま。」
二人は最後にコーヒーカップを合わせた。
カチン。
その音は、「妻同盟」の解散を告げる、小さな祝福の鐘のように響いた。
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