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妻たちは今日も共犯者。

第二幕 第一の矯正ミッション

「作戦名は?」

休日の昼下がり。

駅前のカフェ。

茉莉が手帳を開くと、里香が真顔で答えた。

「『怒らない作戦』。」

「採用。」

茉莉はペンを走らせる。

『第一回・夫矯正ミッション』

ターゲット――連絡を忘れる夫。

作戦内容――怒らない。

「これだけ?」

「これだけ。」

里香は自信満々にうなずいた。

「怒られると思って帰ってきたところへ笑顔。」

「うん。」

「ご飯もない。」

「うん。」

「説教もない。」

「うん。」

「……逆に怖い。」

二人は顔を見合わせる。

「きっと効く。」

「絶対効く。」

カップを合わせ、小さく乾杯した。


その日の夜。

「悪い! 今日も少し遅くなる!」

一馬は取引先との食事が決まり、慌ててスマホを取り出した。

送信。

『今日は二十二時くらいになりそう。ごめん!』

送信ボタンを押した瞬間、一馬は目を丸くした。

「……送った。」

同僚が首をかしげる。

「何が?」

「いや、嫁に連絡。」

「普通じゃない?」

「普通か?」

「普通だろ。」

一馬は少し照れくさそうに頭をかく。

「なんか照れるな。」

「何年夫婦やってんだ。」

「三年。」

「今さら?」

「今さら。」

同僚は笑い転げた。


一方その頃。

茉莉のスマホが震える。

『今日は二十二時くらいになりそう。ごめん!』

「来た。」

茉莉は思わず笑みをこぼした。

『了解。気を付けて帰ってきてね。』

送信。

すぐに既読が付く。

『ありがとう!』

茉莉はその画面を見つめ、嬉しそうに微笑んだ。

「……たった一通なのに。」

心が軽くなる。

怒りではなく、安心が胸に広がる。


同じ頃。

優吾は上司と居酒屋にいた。

「じゃ、二軒目行くぞ!」

「はい!」

勢いよく立ち上がった優吾だったが、不意にスマホを見る。

「……あ。」

「どうした?」

「連絡。」

「嫁?」

「はい。」

「しとけしとけ。」

「え?」

「帰り待ってる人がいるなら、それだけで幸せだぞ。」

上司は照れくさそうに笑った。

「昔、それで何回怒られたことか。」

店内に笑いが起きる。

優吾は苦笑しながらメッセージを打った。

『二軒目行くことになった。終電までには帰る!』

送信。

数秒後。

『楽しんできて😊』

「……え?」

怒られない。

責められない。

優しすぎる。

「逆に怖ぇ……。」


翌朝。

「おはよう。」

茉莉が朝食を並べる。

「お、おはよう。」

一馬は恐る恐る席に着く。

「昨日はありがとう。」

「え?」

「ちゃんと連絡くれて嬉しかった。」

茉莉は味噌汁を差し出した。

「安心して待てたよ。」

「…………。」

一馬は何も言えなかった。

怒られなかった。

それどころか、

感謝された。

「……そんなことで?」

「そんなこと、じゃないよ。」

茉莉は優しく笑う。

「私が欲しかったのは、連絡だけ。」

一馬は味噌汁を飲みながら、小さくうつむいた。

「……ごめん。」

「もう謝らなくていい。」

「え?」

「次から気を付けてくれたら、それで十分。」

その言葉が、一馬の胸にじんわりと染み込む。


昼休み。

「優吾。」

「ん?」

「昨日、連絡した。」

「俺も。」

二人は顔を見合わせた。

「怒られた?」

「いや。」

「俺も。」

「褒められた。」

「俺も。」

沈黙。

「……なんか。」

「怖いな。」

「怖い。」

「絶対裏がある。」

「ある。」

二人は同時にうなずいた。

「でもさ。」

優吾がコーヒーを飲みながら笑う。

「連絡一本であんなに喜ぶなら。」

「うん。」

「今まで俺たち、手抜きしてたのかもな。」

一馬は少し考えてから笑った。

「そうかもしれない。」


その夜。

カフェでは、茉莉と里香が報告会を開いていた。

「どうだった?」

「成功。」

「うちも。」

「連絡、ちゃんと来た。」

「優吾も。」

二人は小さくガッツポーズをする。

「第一ミッション。」

「クリア。」

「でも。」

茉莉が微笑む。

「まだ始まったばかり。」

里香も悪戯っぽく笑う。

「次は?」

茉莉は手帳をめくる。

そこには、次の作戦が書かれていた。

『第二回・夫矯正ミッション』

ターゲット――

『ありがとうを言わない夫』

「これは難敵ね。」

「でも、燃える。」

二人は楽しそうに笑いながら、再びコーヒーカップを合わせた。

夫たちはまだ知らない。

自分たちが少し成長するたびに、妻たちがこっそり祝杯をあげていることを。

そして、「妻同盟」の作戦は、まだまだ続いていくのだった。

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