セイウチに歯ブラシを売る方法
きみの担当は北極圏
氷の帳をくぐり抜け
セイウチの前に立つと
彼はあくびをひとつ
牙が白く光った
「おくちのケア、大切です」
きみはスライドをめくる
マーケットデータはゼロ
ニーズもペインも不明
それでもきみは語る
「本商品は握りやすく、毛先はフィンにも優しいんです」
——セイウチは、黙って見ている
何度通っても
彼は一言もしゃべらない
ときどき鼻をふがふが鳴らす
それがYesなのかNoなのか
上司は言う「おまえのプレゼンが弱い」
同僚は言う「セイウチの文化を理解していない」
氷点下の帰り道
ため息が白く伸びる
こんなに難しいカスタマーは初めてだ
訪問をやめた日の午後
注文書が届いた
B品番・毛の硬さふつう
希望カラー:ピンク
宛先:セイウチ
きみは泣いた
ピンクを選んだ理由は聞けなかった
