【国際法】国家管轄権
※この記事は国際法の専門家が書いたものではなく、法学部生によって書かれたものです。多少の誤りがあるかもしれませんが、あたたかい目で読んでください。いい勉強になりますので、誤りについてはご指摘いただければうれしいです。
※この記事は特定の国や人物たちを批判する意図で書かれたものではありません。
一般国際法上、国家の管轄権行使がいかなる限度まで認められるかが問題となることがあります。国家管轄権の行使範囲は、国家実行を背景として発展してきたものであり、特に刑事法と競争法の分野で実行の蓄積がみられます。もっとも、国家管轄権の行使の限度に関する規律は、個々の法分野の特性に基づいて発展してきた側面があるため、特定分野における実行の蓄積が直ちに普遍的な国際法の形成に結びつくわけではない点に注意が必要です。
属地主義
国家の管轄権行使の許容範囲に関する基本原則は、属地主義です。属地主義とは、国家は自国領域内の事象について排他的に管轄権を行使し、域外国による管轄権の行使は原則として認めないとする立場です。特に、物理的強制力を伴って法令の内容を実現する作用である執行管轄権は、最も権力的性格が強いため、厳格に属地主義が適用されます。
これに対し、立法管轄権(規律管轄権)は、法の規律対象を定めるにとどまり、直ちに他国領域内での権力作用を伴うものではないため、属地主義を基礎としつつも拡張的な行使が認められる余地があります。ただし、規律対象者が立法措置国の領域内に入った場合には執行管轄権が及び得ることから、そのような拡張的行使には一定の合理的根拠が求められます。
また、私人による越境的な活動や犯罪行為の増加に伴い、立法管轄権および裁判管轄権の拡張が図られてきました。自国で開始され外国で完成した犯罪について管轄権を認める立場を主体的属地主義、外国で開始され自国で完成した犯罪について管轄権行使を認める立場を客観的属地主義といいます。
効果主義
効果主義とは、自国に対して「直接的・実質的かつ予見可能な効果」を及ぼす場合に、当該行為に対して管轄権を行使し得るとする立場であり、主として競争法の分野で発展しました。これは米国が主張し始めたものですが、当初は諸外国から過剰な管轄権行使であるとして批判されていました。しかし、その後、主要国もこれを採用するようになっています。
日本においても、最高裁判例において独占禁止法の域外適用が効果主義に基づき認められていると解されています。
属人主義
属人主義とは、自国籍を有する者の行動に対して管轄権を行使し得るとする立場です。特に刑事法の分野で問題となり、他国において自国民が犯罪の加害者となる場と、自国民が被害者となる場合とがあります。日本では、前者について刑法3条(国民の国外犯)が規定し、後者については刑法3条の2がこれを認めています。
保護主義
保護主義とは、国家の重大な利益の保護を根拠として管轄権の行使を認める立場です。例えば、内乱罪のような国家の存立に関わる犯罪については、たとえその行為が国外で行われた場合であっても、犯罪地国が十分な取締りの関心を有しないことが多いため、保護主義に基づく管轄権行使が許容されます。
普遍主義
普遍主義とは、国際社会全体の共通の価値を保護するため、行為地や行為者・被害者の国籍にかかわらず、すべての国に管轄権の行使を認める考え方です。代表例として海賊行為の取締りが挙げられ、公海上においてはいずれの国も海賊を拿捕し、裁判権を行使することができます。
また、一部の条約では、航空機不法奪取や麻薬取引などの重大犯罪について、当該犯罪者が自国に存在する場合には「引渡しか訴追か」の義務を締約国に課しています。これは、すべての国ではなく関係国に限って管轄権を認める点で、伝統的な普遍主義とは区別され、準普遍主義と呼ばれることがあります。日本刑法4条の2は、条約上の普遍主義的な刑事管轄権行使を可能にするために、「条約による国外犯」を規定しています。
執行管轄権の域外適用
国際法上、国家の執行管轄権は強制的な物理力の行使を伴うため、原則として他国領域内では行使することができません。もっとも、関係国の同意や国際法上の特別の制度に基づき、例外が認められる場合があります。例えば、サイバー犯罪条約では、公開データまたは権限者の同意がある場合には、条約により被アクセス国の同意があると解され、他国領域内のデータへのアクセスが認められています。また、越境犯罪に関する条約では、「引渡しか訴追か」の規定により、執行管轄権の行使が補完されることが多いです。
さらに、海洋においては旗国主義が原則とされますが、旗国の同意に基づく取締りや追跡権などの例外が認められます。また、解釈上の理論として、域内での違法行為と共同実行関係にある場合には、域外の船舶にも管轄権行使が及び得るとされています。
総括
国際法上、国家管轄権の拡張的行使については明確な一般規則が存在しない場合も多く、そのような場合には、明らかに過剰なものでない限り「対抗関係」の問題として処理され、必ずしも一義的に合法・違法の評価がなされるわけではありません。したがって、各国の反応の在り方が重要となり、異議を唱えなかった国との関係では、そのような拡張的管轄権行使の有効性を主張し得る余地があるといえます。
<参考文献>
【書籍】
・加藤信之、萬歳寛之、山田卓平編『概説国際法』(2024年、有斐閣)第4 章「国家」、Ⅳ「国家管轄権」104-110頁。
【論文】
・黒崎将広「サイバー犯罪条約-デジタル化社会の分権的領域秩序とデータの所在地消失」『法学教室』520号(2024年)35-40頁。
・坂本茂樹「中国海警法制定後の海上保安-武器の使用基準をめぐって」奥脇直也、坂元茂樹編『海上保安法制の現状と展開 : 多様化する海上保安任務』(2023年、有斐閣)206-225頁。
