【国際法でみる海上保安】沿岸国の管轄権
※この記事は国際法の専門家が書いたものではなく、法学部生によって書かれたものです。多少の誤りがあるかもしれませんが、あたたかい目で読んでください。いい勉強になりますので、誤りについてはご指摘いただければうれしいです。
※この記事は特定の国や人物たちを批判する意図で書かれたものではありません。
沿岸国の執行管轄権の原則
国家が海洋における自国の管轄権を設定するための基準として、国家が一方的行為により海岸に沿って引く線を基線といいます。

まず、沿岸国は、基線の内側にある内水に対して主権を有し、領土と同様に取り扱うことができます。船舶の内水への出入りの可否は沿岸国が決定します。典型的な内水としては、港湾、湾、内海、入江、河口、湖、沼、河川、運河などが挙げられます。ただし、湾全体が内水と認められるためには、湾口の幅が24海里以内である必要があります。
また、本来は内水に該当しない水域であっても、沿岸国が歴史的に長期にわたり平穏かつ継続的に主権を行使し、他国の異議がない場合には、慣習国際法上、内水として扱われることがあります(いわゆる歴史的内水)。この例として、日本の瀬戸内海やアメリカのチェサピーク湾が挙げられます。
もっとも、内水においても外国船舶に対する旗国の管轄権が完全に消滅するわけではなく、当該船舶内で発生した事件について旗国が管轄権を行使する余地は残ります。他方で、沿岸国がどの程度関与できるかについては学説上争いがありますが、沿岸国は入港自体を拒否することが可能であるため、実務上は外国船舶への管轄権行使を抑制する傾向にあります。

次に、領土または内水に接続し、基線から12海里までの水域である領海においては、沿岸国は主権を有し、資源の利用に関する権利や法令の制定・適用権限を包括的に行使することができます。他方で、外国船舶には無害通航権が認められており、沿岸国はこれを妨げてはなりません。もっとも、通航が無害でない場合には、沿岸国は必要な措置を講じることができます。
また、外国船舶内の犯罪に対する沿岸国の刑事管轄権は、以下の場合に限り行使することができます。すなわち、①犯罪の結果が沿岸国に及ぶ場合、②犯罪が沿岸国の平穏または領海の秩序を乱す場合、③船長または旗国の領事官から援助の要請がある場合、④麻薬等の不正取引を防止する必要がある場合です。
さらに、基線から24海里まで設定することができる接続水域においては、沿岸国は、自国領域における通関、財政、出入国管理または衛生に関する法令違反を防止・処罰するために必要な限度で管轄権を行使することができます。接続水域は本来公海の一部であるため、沿岸国に認められる権限は限定的であり、包括的な管轄権は認められていません。
排他的経済水域(EEZ)
基線から200海里まで設定することができる排他的経済水域(EEZ)においては、沿岸国は天然資源の探査・開発・保存および管理に関する主権的権利と、海洋の科学的調査や海洋環境保護等に関する管轄権を有します。これら以外の事項については公海の自由が原則として適用されますが、他国はEEZを利用するにあたり、沿岸国の権利および義務に対して妥当な考慮を払う義務を負います。
公海
いずれの国の管轄にも属さない公海においては、航行の自由、上空飛行の自由、海底電線および海底パイプライン敷設の自由、人工島等の建設の自由、漁業の自由、科学的調査の自由などが認められます。
また、公海上では旗国が船舶に対して排他的管轄権を有します。ただし、例外として、①海賊行為、②奴隷取引、③無許可放送、④無国籍船の場合には、旗国の同意がなくても他国が臨検を行うことが認められています。特に海賊行為については、拿捕・逮捕・訴追まで行うことが可能です。
追跡権
沿岸国は、自国の管轄水域において外国船舶による法令違反を発見した場合、当該船舶を継続的に追跡している限り、公海上においても臨検・拿捕を行うことができる追跡権を有します。追跡開始にあたっては停止信号を発する必要があり、また追跡は中断なく継続されなければなりません。さらに、当該船舶が他国の領海に入った場合には追跡権は消滅します。停船を確保するための必要最小限度の実力行使は許容されますが、過剰な実力行使は違法となります。
この例として、日本のEEZ内で発見された不審船を海上保安庁が追跡した2001年の九州南西海域不審船事件が挙げられます。
解釈上存在の法理
解釈上存在の法理とは、沿岸国の管轄水域外に存在する船舶Xと、水域内に存在する船舶Yが共謀して法令違反を行っている場合に、船舶Xについても水域内に存在するものとみなし、沿岸国の管轄権の行使を認める理論です。従来は母船・子船関係が典型例とされていましたが、近年では、両船が共同して犯罪を実行している場合には、必ずしも支配関係を要しないとする見解が有力です。
<参考文献>
【書籍】
・加藤信行 萬歳寛之 山田卓平 編『概説国際法』(有斐閣、2024年)第7章「海洋法」Ⅱ「水域区分と航行規則」171-180頁。
・兼原敦子、酒井啓旦、西村弓編『国際法判例百選〔第3版〕』(2021年、 有斐閣)XV「平 和と安全の維持」「「武力の行使」と「実力の行使」との区別-ガイアナ対スリナム海洋境 界画定事件」216-217頁。
・萬歳寛之編『海洋法』第1部「海域区分」12-57頁。
【論文】
・石井由梨佳「瀬取りによる大量密輸等の海上犯罪への対処-沿岸国の執行管轄権を中心に」 奥脇直也、坂元茂樹編『海上保安法制の現状と展開 : 多様化する海上保安任務』( 2023 年、有斐閣)150-164頁。
