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溶ける鉄、沈む思想。サノヤスHDは海を捨てたのか。

■海を渡る鉄と、溶ける私


【前回までのあらすじ】
夢の国に侵入した私は、札束にぶたれ、己のハピネスを見つめ直し、夢遊病となった。
イマジネーション。

▼気になる方はこちら

思えば無敵の人だった私は、ゴミムシと感謝の間を往復しながら、数字を求め彷徨う不審者となり、夢まで見始めた。
だいじょうぶ。まだ合法だ。

夢の中で壁は見えない。でも現実ではちゃんと痛い。
当たり前だ。
鉄は叩けば強くなるが、私はぺちゃんこになるばかりである。
叩かれる前に、私は一度溶ける必要があるのかもしれない。

不純物を取り除かれた鉄のように固ければ、私もまっすぐ生きられたのだろうか。
そこで今回は鉄の生き方を学ぶべく、
サノヤスホールディングス株式会社(7022)を覗くこととする。
海を渡った鉄は、いま何を運んでいるのだろうか。



■売られていた100年の魂

サノヤスのことを少し調べてみた。

「…2021年には100年以上続いた祖業の造船事業の売却…」

鉄の魂、売られてた。

そういえば鉄も曲がる。
小学生でも知っている。
夢ばかり見ているから現実も見えなくなるのである。

どうするんだ。もう航行は始まっている。
鉄の生き方を学べると思っていたのに、さっそく難破である。

しかし、沈没船にはお宝があるのがつきものだ(?)。
私は鉄の扉(2026年3月期 第3四半期決算書)を開くこととした。


■「船なんかいらんかったんや」という、残酷な正解

造船業を売り払った同社はいま、
製造業向けの産業機械設備や部品、
建設業向けの建設機械の製造、
そしてレジャー事業向けに、遊園地の乗り物等を製造している。
祖業を売っても鉄の魂は受け継がれていそうだ。

業績を見てみよう。
2025年4月1日~2025年12月31日までの業績は、

・売上高:189.7億円(前年同期比 18.9%増)

純利益:7.5億円(前年同期比 約4.4倍

……船なんかいらんかったんや。
化粧品を作る機械や、観覧車さえ作れば、安全航行となるのだ。

もっとも、資金繰りはパッと見、まだ舵を強く握っておく必要がありそうではある。
銀行依存度は31.5%と安全圏。
ただ、流動比率は118%とまだ喫水線が浅いとは言えない。
月商倍率(※有利子負債÷平均月商)も5.1倍。
鉄はまだ、重そうだ。


■100万円の船と、40億円の痛み

さて、魂だの船だの、いらなかったと言ってきたが本当にそうだったのだろうか?(違ったら怒られそうである)

造船事業の、売却直前の決算資料(2020年3月期 有価証券報告書)を見てみよう。

・売上高 498億円
・純損失 ▲22億円

内、造船業
・売上高     299億円
・セグメント損失▲27億円。

……やっぱり、
いらんやないか。

苦戦していた理由はいくつかの要因が重なっていたようだ。
中国・韓国勢の競争に圧されたこと。
コロナ禍という凪のような経済停止。
エネルギー問題という終わらない波。

荒波の中で必死に舵を取っていた姿が、目に浮かぶ。

そして翌年、サノヤスは長く航行してきた船を100万円で株式譲渡した。
株式売却損は40億円でたが、
船が背負っていた多額の借金も引き継がれた。

こうして今のサノヤスは、海を捨てて陸に立った。二度と戻らない覚悟で。


■生きるために思想を殺すか

一度溶けて攪拌機や観覧車を回す選択は、
きっと当時懸命に働く従業員や、陰で支える利害関係者を慮っての決死の決断だったことだろう。
ただ伝統は、海を渡るのに重くなりすぎたのかもしれない。

ところで、創業者の佐野川谷安太郎氏は草葉の陰で、いや、岩礁の陰で、この状況をどう見ていたのだろうか。

氏は、「船を造るために生き、船を造るために死ぬ」
そう言い続けていたそうだ。
おそらく、氏ならば最後まで海に残ったのではないだろうか。

生きるために思想を殺すか。
思想のために死ぬか。

潮目は変わりはじめ、2026年現在では円安の後押しや、日本政府による「造船業再生ロードマップ」(官民合わせ1兆円の投資規模)など、造船大国日本へ復活の兆しを見せている。
もしかすると、あと少し耐えれば海で生き続けられたかもしれない。
もちろん、結果論である。


■溶けて残った“まごころ”

“あと少し”を支払える企業は、そう多くはない。
ましてや上場会社ならば、株主利益最大化に努めるべきである。

サノヤスの船は死んだ。しかし鉄は生きている。
同社の社是は「まごころをこめて船を造る」から、
「確かな技術にまごころをこめて」へと替わった。
溶けて残った確かな鉄は、「まごころ」だった。

サノヤスの航海をみて、今日はとてもドラマチックな話しになった。
正直、むず痒い。
錆び付いた夢ばかり見ている私には少し溶解度が高いようだ。

本当は当時の株主構成推移も調べて、より粘度の高い塩水のような記事にしたいと思っていたが、海の藻屑とされそうなのでやめておく。(有料記事で書いてみようか)

不純物だらけの私には、サノヤスの物語は少し磯臭すぎたようだ。
思想も現実も捨てられそうにない。
重くて沈むならば、海底を歩いていこう。

いつかこの記事が浮上することを夢見て(しない)今日はこのあたりで錨を下ろそうと思う。

叩かれる前に溶けた鉄は、強くなれたのだろうか。


■参考資料

・サノヤスホールディングス株式会社「2026年3月期 第3四半期決算短信」
・サノヤスホールディングス株式会社「2020年3月期 有価証券報告書」ほか

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