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🟦カターレ富山|「NO CHOICE BUT J1」赤字予算の覚悟はどうやってつくるのか

60クラブ分析シリーズ「僕が見た60クラブ」、今回はカターレ富山を見にいきます。

カターレ富山の代表取締役社長は、左伴繁雄氏。 マリノスやエスパルスでの社長経験があり、25年にわたりサッカークラブの経営に携わってきた方です。 富山に着任してからも、クラブの変化を一手に引っ張ってきた存在です。

左伴社長は2026/27シーズンの方針について、約50分間の動画で全部語っています。 財務の数字、強化費の根拠、リスクと覚悟まで、全部です。

時間がある方はぜひ動画を見てほしいです。 時間がない方には、この記事の中に重要な要素を入れているので、こちらを読んでいただければと思います。


1. まず数字から

財務状況を確認したときに、目を引いたのは、収入の上昇率の高さです。

J3を10シーズン過ごして、2025シーズンに11年ぶりのJ2復帰を果たしました。

J2 1年目の決算報告では、収入が前年から52%増えて13.96億円に達しました。 スポンサー収入、入場料収入、物販収入、ファンクラブ会員数。 全てにおいて、過去最高でした。

J2に上がるだけで、ここまで売上規模が変わります。

だからこそ「昇格すること」「残留すること」の重みが、数字として見えてきます。 頭でわかっていても、実数を見ると、より強く感じます。


2. 10年間のJ3時代

2014年、カターレ富山はJ2の最下位(22位)でJ3に降格しました。

そこから10シーズン。2015年から2024年まで、ずっとJ3にいました。

2022年には費用を大きく積んで昇格に賭けた年がありました。 それでも昇格できず、赤字は1億6000万円に膨らみました。

この失敗の記憶が、後の経営判断に影響していることが、左伴社長の話を聞いているとよくわかります。

ようやく2024年シーズン、J3 3位でフィニッシュ。 昇格プレーオフを勝ち上がって、11年ぶりにJ2の舞台が戻ってきました。


3. J2 1年目の「貯め方」

J2 1年目、成績は最終戦で残留を決める展開でした。

競技面では苦しんだものの、事業面では、上述の通り、全てが増えた年でした。

試合平均入場者が5900人。予算(目標)は5000人ちょっとで組んでいたそうなので、それだけでも大きな増加です。 J2に上がった途端に、スタジアムの空気が変わりました。

J2 1年目は最終的に6000万円の黒字で着地できました。 昇格による事業面でのプラスにより、黒字が増え、これを翌シーズンの予算として使うことができます。


4. 赤字予算を組むということ

2026/27シーズンのカターレ富山の予算は、赤字です。

売上予算が14億9500万円。 強化費を含む総コストが15億5000万円。 差し引き5500万円の赤字。

強化費は7億円。前年(2025シーズン)の5億5000万円から1.5億円積みました。

普通の会社は、赤字予算は基本的に組みません。
どうしても赤字予算を組む場合は、新しい市場を開拓する、大規模な設備投資をするなど目的が明確で、かつ、その投資による将来のリターンが見えている場合のみ実施します。

普通の企業なら、お金を使った結果が「何か」残ります。 工場も、機械も、ブランドも、開拓した顧客も。

ただ、今回のカターレの赤字予算は、昇格のために、強化費に投資するというものです。

サッカークラブが強化費に使ったお金の行き先は、そこには残りません。
選手はいつか移籍します。すぐに怪我をする可能性もあります。勝ち点は翌年リセットされます。 昇格できなければ、同じJ2でまた戦うだけです。

リターンは期待できるものの、その確度は高いと言えません。

それでも赤字予算を組みます。

J1昇格のためには、勝ち点70が必要です。 そして効率的に勝ち点を稼いでいるクラブは、勝ち点1あたり1000万円程度の強化費をかけている計算になります。 なので単純計算で、7億円の強化費が必要です。

その数字根拠を持って、左伴社長は、取締役会で「赤字で出発させてください」と言い切りました。

「僕が経営者の立場だったら、この判断を取締役会に持っていけるか」と考えました。 なかなか、自信はありません。

過去に「5000万の赤字で組んだら1億6000万の実赤字になった」という失敗があります。 その記憶がある上で、それでも踏み込みます。 そこにどれだけの重さがあるかは、想像するしかありません。


5. 「NO CHOICE BUT J1」——勝負時を決める軸

2026/27シーズンのポスターのコピーは「NO CHOICE BUT J1 6・70」。 6位以内、70勝ち点。目標を数字にしてそのままポスターに載せました。

左伴社長は動画でこう語っています。

「信じてもらえるかどうか分かりませんけども、僕ね、富山に来た時にね、頭にポーンと思い浮かんだ言葉がこれです。J1上がる時は絶対このコピー使うぞって思って、ずっと温めときました」

決断のきっかけは、2025シーズン最終戦のあとでした。

アウェーの仙台戦を終えて、夜10時すぎに富山駅の改札を出たところ。 サポーターが並んで、拍手で出迎えてくれました。

「僕25年サッカーの経営者としてやってきて、こういう光景を見たのは初めてです」

翌日、J1を狙いにいくことを公言しました。

ただ、ここで立ち止まって考えてみたいことがあります。

今季はJ2昇格後わずか2シーズン目です。 J2の平均事業規模は約23億円。 カターレ富山の2025シーズン事業規模は約14億円で、J2平均の約60%にあたります。 J2主要クラブとの差はさらに大きく、決して上位ではない規模感で昇格争いに挑みます。 もう数年待って事業規模を上げてから勝負することも、選択肢としてありえます。

それでも「今年だ」と決めました。

経営者には、「いつが勝負時か」を決める軸が必要。

今季の勝負が正解かどうかは、シーズンが終わってからわかります。
昇格できなければ、赤字が膨らむ可能性もあります。
批判も受けるでしょう。

でも、批判を引き受けてでも挑戦できる判断軸を持っていること自体が、経営者として必要なものじゃないかと思います。

判断する自分の感覚と、それを支持してくれる組織づくり。
これを持つことが重要です。


6. ホームタウンと選手編成

クラブ理念には「サッカーを通じて、青少年の健全育成やスポーツの振興、地域活性化などに貢献し、ふるさと富山が一層元気になることを目指します」とあります。

この理念が、ピッチの外でも動いています。

2024年1月に起きた能登半島地震に対しては、復興支援ボランティアツアーを企画するなど、クラブとして地域の課題に向き合ってきました。 J2に上がった後も、スタジアムの外の富山と向き合い続けています。

選手編成でも、富山にゆかりのある選手が増えています。 ピッチの上でも、地域の底上げを体現しようとしているように見えます。


7. 僕が盗みたいもの

サッカークラブの一番の価値は、「世界一のクラブになるためのストーリー」だと僕は思っています。

サービスでも、設備でも、勝率でもなくて、ストーリーです。

「このクラブとともに地域が世界に出ていく」という夢を、一緒に追いかけられるかどうか。 その物語に乗れるかどうかが、サポーターや企業がクラブに関わる動機になります。

カターレ富山の場合、左伴社長が自らそのストーリーを語っています。

50分の動画で赤字の数字を出しながら、「それでもJ1を狙いにいく」と伝えます。 失敗したら批判される覚悟を含めて、ストーリーとして発信しています。

都合のいい数字だけを出してリスクを隠すのではなく、全部見せた上でステークホルダーを巻き込んでいく。 こういう発信をするクラブは、なかなかないと思います。

「このクラブのストーリーを追いたい」と思わせられるクラブが、強いです。 勝ち続けているかどうかよりも、一緒に歩きたいと思えるかどうか。

富山の話を読みながら、自分が関わるクラブのことをずっと考えていました。

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