特許法78条 通常実施権
1.条文解説
一般的に言われている特許のライセンスが通常実施権です。複数の人に同時に通常実施権を「許諾」できます。
なお、通常実施権は「許諾」ですが、専用実施権は「設定」です。
・論文試験対策として、①一機関の要件は覚えてください。また、②独占的通常実施権者が差止請求権を行使できるのは、極めて例外的な場合です。論文試験では、原則である差止請求権を行使できない点を先に説明してください。
・通常実施権は、債権的性格を有する権利であり、通常実施権者の特許権者に対する不作為請求権であるとも言われます。言い換えれば、通常実施権というのは、特許権者から特許権を行使されない権利です。また、通常実施権は許諾によって発生しますが、専用実施権は登録が効力発生要件です。
・独占的通常実施権、完全独占的通常実施権、そして非完全独占的通常実施権
独占的通常実施権とは、契約の相手以外には実施契約をしない旨の特約を伴う通常実施権です。完全独占的通常実施権とは、契約の相手以外には実施契約をせず、特許権者自身も以後実施しない特約を伴う通常実施権です。特許権者の実施を留保している場合は、非完全独占的通常実施権といいます。
・一機関 (契約、指揮監督、全数引き渡し)
通常実施権者と特許製品製造の請負契約を締結した請負者が特許製品を製造する場合、
(1)通常実施権者との間に工賃を支払って製作する契約が存在し、
(2)製作について原料の購入、製品の販売、品質についての通常実施権者の指揮監督があり、
(3)製品を通常実施権者に全部引き渡し、他へ売り渡していない場合、
請負者は通常実施権者の一機関とされ、請負者の特許発明の実施は特許権の侵害を構成しません。
2.その他
2.1.侵害に対する訴権の有無(大阪高裁S61/6/20)
(1)差止請求
固有の権利としての差止請求は認められないと解する。独占的通常実施権といえども債権的権利にすぎず、排他性がない。ただし、特許権者が契約において第三者の実施を排除して独占的な実施を確保することを契約上の義務として明示的に負担している場合には、民法の債権者代位の転用の考え方を類推して特許権者の差止請求権を代位行使することは可能(民法423条)である
(2)損害賠償請求
認められると解する。独占的通常実施権者は、市場独占に必要な実施料を特許権者に支払っており、市場、利益を独占できる地位、期待を得ている。独占的通常実施権者は、権原無き第三者による特許発明の実施により、その独占的通常実施権者の地位を害され、その利益を奪われているから。
2.2.損害賠償における故意・過失の要件(大阪高裁H12/12/01)
(1)103条(過失の推定)は類推適用される。
103条の過失推定の根拠は、特許発明の存在及び内容が公示されていることに基づくものであって何人の権利であるかが公示されていることに基づくものではない。
(2)102条2項(損害額の推定)は類推適用される。
102条2項の規定は、権利者に客観的に妥当な逸失利益の回復を得させるという政策目的、特許権者と侵害者とが同じ販売実績を上げ得るという社会的事実の認定が前提となっており、これらについては独占的通常実施権者であってもなんら変るところがない。※102条1項も同様の考え方で良いと思われる。
(3)102条3項は類推適用されない。
特許権者に対して実施料相当額を最低限度の損害の額として法定した規定であり、かかる性質からすれば、他人に特許発明を実施許諾する権原を有しない独占的通常実施権には類推適用できないと解する。
2.3.通常実施権の制限について(大阪高裁H05/05/27)
現実の通常実施権設定契約において、原材料の購入先,製品規格,販路,標識の使用等について種々の約定がなされる場合がある。これらは特許発明の実施行為とは直接関わりがなく、いわば、それに付随した条件を付しているにすぎず、その違反は単なる契約上の債務不履行となるにとどまると解する。
3.独占的通常実施権が許諾された例
2019年08月01日の発表によると、株式会社ヘリオスさんは、国立研究開発法人理化学研究所さんから、iPS 細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞に関する特許及びノウハウにつき、全世界において独占的にその実施許諾を受け、日本国内においては大日本住友製薬株式会社と共同開発を実施しているようです(情報元)。
通常実施権は、登録が不要なので、表に出ることが少ないです。しかし、グループ会社の間などでは、通常実施権の許諾が行われることが多いです。
(参考)なお、ライセンス契約の際に、他社からライセンスを受けないような制限を課すことは、独占禁止法上、問題となる可能性があります。
https://www.jftc.go.jp/dk/soudanjirei/h13/h12nenmokuji/h12nen06.html
・特許法78条
(通常実施権)
第七十八条 特許権者は、その特許権について他人に通常実施権を許諾することができる。
2 通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を有する。
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