特許法178条 審決等に対する訴え
簡単にいうと、気に入らない審決が出たら、裁判所に取り消してくださいと出訴できますよ、という話です。
前提として、三権分立の原則(憲法)より、行政機関は終審として裁判を行うことができず、一切の法律上の争訟は裁判所の終局的な判断を受けます。
特許庁における審決、決定も行政処分であり、それについての訴えは行政事件訴訟法の適用を受けるのが原則です。しかし、特許事件の性質上、同法の規定をそのまま適用することは必ずしも適当とはいえません。そこで、特許法は、179条から184条までの規定(行政事件訴訟法の特則)を設けています。
なお、(1) 特許庁での審判手続が準司法的手続によって厳正に行われる以上、さらに三審級を重ねることはいたずらに事件の解決を遅延させること、(2) 事件の内容がきわめて専門技術的であるため、特許関係の専門し家によって行われた審判手続を尊重してよいことから、一審級を省略して東京高等裁判所を管轄裁判所としています。
・特許権者は審決についての直接の不服はないが、訂正審判を請求して特許無効理由を解消することができると判断した場合には、審決取消訴訟は訂正審判を請求するための手段として形式的に提起することとなる。
一方、審決の違法性について直接争う時は、訂正審判を請求することなく、審決取消訴訟において本格的に争うことができる。
・原告適格を制限した理由
特許権のように対世的な権利に係る訴訟においては、利害関係がある第三者の範囲は著しく広汎になり、これらの者すべてに原告適格を認めると裁判渋滞の原因となるおそれがある。その一方で、当事者だけに適格を制限すると、憲法32条との関係上問題がある。そこで、妥協案として本条のような制限を設けた。
・専用実施権者、通常実施権者、質権者の原告適格
参加を申請していれば、参加人、または参加申請を拒否された者として出訴できる。
・不変期間
不変期間とは法定期間のうちで法律が特に不変とするものをいう(対:通常期間)。
・附加期間
附加期間とは不変期間について、公平の要求にもとづき、職権または請求によって附加する期間をいう。
・訂正認容、特許無効の審決の場合に、審決取消訴訟で訂正できる範囲
訂正前の請求項に基づいて判断する。訂正の請求の確定効は無効審決の確定によって生じるからである。
・共有に係る特許権の無効審決に対する審決取消訴訟は単独で提起可能(参考:最高裁H14/2/22)
(1)無効審決の取消訴訟は特許権の消滅を防ぐ保存行為に該当する。
(2)他の共有者の協力が得られない場合があり、単独での訴えは不適当であるとすると不当な結果となり得るため、固有必要的共同訴訟ではなく、類似必要的共同訴訟と解する。
(3)単独で提起できると解しても、(i)認容判決が確定した場合には、再度特許庁で共有者全員で審判手続きが行われる(181条4項、5項)。(ii)また、棄却判決が確定した場合は、特許権は遡及消滅する(125条)ため、いずれの場合でも合一確定の要請は満たされることとなる。
・特許を受ける権利が共有の場合の拒絶審決に対する訴えの提起は単独で提起できない(最高裁 H07/03/07)
この場合の審決取消訴訟は、共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解すべきである。
思うに、当該訴訟における審決の違法性の有無の判断は共有者全員の有する一個の権利の成否を決めるものであって、当該審決を取り消すか否かは共有者全員につき合一に確定する必要があるからである。特許法が、特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは共有者の全員が共同で請求しなければならないとしている(132条3項)のも、これと同様の趣旨であると解される。
・審決取消訴訟における審理範囲(最高裁 S51/03/10)
法が、審決取消訴訟を東京高等裁判所の専属管轄とし、事実審を一審級省略しているのは、当該無効理由については、審判において、十分な審理がされていると考えたためと解される。これによると、特許無効審決に対する取消訴訟においてその判断の違法が争われる場合には、専ら当該審判手続きにおいて現実に争われ、かつ、審理判断された特定の無効理由に関するもののみが審理の対象とされるべきものであると解される。そして、法167条との関連を考慮すると、たとえ同じく発明の新規性に関するものであっても、引用する公知事実が異なれば、別個の理由をなすものと解さなければならない。
・無効審決の取消を求める訴訟係属中に特許請求の範囲を減縮する訂正審決が確定した場合の無効審決の取り扱い(最高裁H11/03/09)
この場合、通常は、無効審判において対比された公知事実のみならず、その他の公知事実との対比を行わなければ無効理由の有無を判断することができない。そして、このような審理判断を、特許庁における手続きを経ることなく、裁判所において第一次的に行うことはできないと解すべきであるから、訂正後の発明が無効理由を有するかどうかは、無効審決を取り消した上、改めてまず特許庁における審判の手続によってこれを審理判断すべきと解する。もっとも、同一の公知事実により無効とされるべき場合もあり得るが、この場合、いわゆる独立特許要件(126条5項)を満たしておらず、123条8号の無効理由が存在することとなるため、改めて特許無効審判により無効とすべきである。
・特許法178条
(審決等に対する訴え)
第百七十八条 取消決定又は審決に対する訴え及び特許異議申立書、審判若しくは再審の請求書又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。
2 前項の訴えは、当事者、参加人又は当該特許異議の申立てについての審理、審判若しくは再審に参加を申請してその申請を拒否された者に限り、提起することができる。
3 第一項の訴えは、審決又は決定の謄本の送達があつた日から三十日を経過した後は、提起することができない。
4 前項の期間は、不変期間とする。
5 審判長は、遠隔又は交通不便の地にある者のため、職権で、前項の不変期間については附加期間を定めることができる。
6 審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ、提起することができない。
