特許法123条 特許無効審判
1.概要
特許無効審判は、特許権が間違って設定登録された後における、特許権を無効化するための制度です。同じような、特許権の見直しや、無効化の制度として特許異議申立(特許法113条)があります。
2.利害関係人
特許無効審判を請求するには、利害関係人であることが必要です(123条2項)。ただし、冒認出願と共同出願違反を理由とする場合は、利害関係人のうち、特許を受ける権利を有する者に限って請求することができます(123条2項)。
利害関係人とは、当該特許権などの存否によって法律上の利益や、その権利に対する法律的地位に直接の影響を受けるか、または受ける可能性のある者とされています。具体的には、利害関係人には、その審判にかかる特許発明(登録実用新案等)と同一の方法を実施、又は同一の装置若しくは物品を製造又は販売等をしている者を当然含むが、同種の方法を実施、又は同種の装置若しくは物品を製造又は販売等をしている者を含み、さらには同業者であればよいといえます。
この利害関係人の具体例が、審査便覧31-02に示されています。
すなわち、審判請求人が、これら(1)~(7)の類型のいずれかに該当するときは、通常は利害関係を有すると考えることができる。 また、これらは例示であって、利害関係を有する者をこれらに限定するものではない。利害関係を有する者であるかは個別事件ごとに判断されるべきものである。
(1) 当該特許発明と同一である発明を実施している/していた者
当該登録商標と同一又は類似である商標を同一又は類似の商品等に使用している/していた者 (裁判例①~③を参照)
(2) 当該特許発明を将来実施する可能性を有する者
当該登録商標と同一又は類似の商標を将来使用する可能性を有する者
ア 当該特許発明に類似する発明を実施している者
イ 当該特許発明の実施を準備している者(必要な機械や材料を購入したり、設備の建設や設計に着手しているなど) 当該登録商標と同一又は類似の商標の使用を準備している者
ウ 当該特許発明を実施できる設備を有する者 (裁判例④、⑤を参照)
(3) 当該特許権に係る製品・方法と同種の製品・方法の製造・販売・使用等の事業を行っている者 (裁判例⑥~⑨を参照)
(4) 当該登録商標により商品の出所の混同による不利益を被る可能性を有する者 (裁判例⑩を参照)
(5) 当該特許権の専用実施権者、通常実施権者等 当該商標権の専用使用権者、通常使用権者等 (裁判例⑪を参照)
(6) 当該特許権について訴訟関係にある/あった者又は警告を受けた者 当該商標権について訴訟関係にある/あった者又は警告を受けた者( 裁判例⑫~⑯を参照)
(7) 当該特許発明に関し、特許を受ける権利を有する者 (裁判例⑰~⑲を参照)
なお、上記類型(1)~(7)に該当するような場合であっても、当該特許権等について紛争の和解が成立した者については、和解の内容により、利害関係を有するとは認められない場合がある(裁判例㉒、㉓)。
審判便覧の(3)に示された「(3) 当該特許権に係る製品・方法と同種の製品・方法の製造・販売・使用等の事業を行っている者」に基づけば、特許権者がメーカーである場合には、同業種のメーカーであれば利害関係人に該当するはずです。
3.その他
・特許無効審判を請求された場合は、当該無効理由が成立しない旨の主張を答弁書(134条1項)にて行ってもよい
無効理由に該当することが明らかである場合には、実際に訂正審判を請求して訂正審判を請求していることを主張する必要があります。しかし、訂正審判請求の用意がある旨の主張のみでは、その後の実際の訂正の内容と実質的に異なる場合も生じる場合があります。このため、具体的な訂正内容(案)を記載した答弁書を提出しても良いです。
答弁書の主張では、当該訂正が126条の要件を満たすこと、また104条3の主張に係る無効理由が解消すること、そして、訂正後の特許発明の技術的範囲にも乙の製品等が属する旨の主張もあわせて行うべきです。
・認容審決確定前に特許権者が実施権者から受け取った実施料の取り扱い。
(1)契約内容に拘束される
(2)契約に明記されていない場合には、原則的には返還の義務なしと解する。
実施権者者は実施権により一定の利益を受けていたことから、特許権者は実施権者に損失を及ぼした者に該当しないからである。同じ理由で、保証金請求権の行使によって得た金銭も返還の義務無しと解する。ただし、特許権が実質上有名無実の場合には、返還の義務ありと解する。実施権者は期待した利益を受けることができず実施料は不当利得と考えられる。
(3)将来無効になることを認識しつつ契約していた場合には、当然、返還請求はできない。
・認容審決確定前に受け取った損害賠償金の取り扱い
返還の義務ありと解する。実施料と異なり他人に及ぼした損失であり、不当利得に該当。
・認容審決確定前での差止請求権の行使により相手方に損害を与えた場合の取り扱い
原則的には適法な権利行使であるので、損害賠償の責任なしと解する。ただし、特許が無効になる蓋然性が極めて高いにもかかわらず差止請求権を行使した場合は、故意又は過失があったものとして損害賠償(民709条)の責任ありと解する。
・認容審決確定前に受け取った和解金の取り扱い
返還の義務なしと解する。和解は民法の契約であって、法律上の原因に基づいて受け取った金銭は、民法703条、704条の不当利得に該当しないからである。また、互譲の精神によって争いを終止させるという和解の趣旨を考慮すると、返還の義務ありとするのは妥当ではない。
・差止仮処分を執行後に認容審決が確定した場合
適法な保全処分を執行したものとして不法行為責任を問われるかが問題となる。この場合には、特許権者に過失があったものと推定し、過失を否定すべき特段の事由があると認められるか否かによって判断されるべきである。
・同一事実、同一証拠で2つの無効審判が請求された場合
一方に無効排斥審決が確定しても他方に一事不再理効は働かない。
他の請求人が自己の固有の利益のために追行してきた手続きを無に帰せしめるのは不合理です。特に、一部の請求人の主張が不適切だったことが原因で無効排斥審決が確定した場合、一事不再理効を働かせると無効にされるべき特許権が無効にされないことになります。また、無効排斥審決確定後に無効審決がなされても特許の効力が失われるだけであり、審決の矛盾、抵触により法的状態に混乱は生じない。
・通常実施権者等は、実施権に係る特許権に対して無効審判を提起できる
通常実施権者は特許権を有効なものとみなしていたから、実施許諾を受けたといえる。それにもかかわらず、特許無効審判を請求するのは信義則に反するとし、通常実施権者は信義則上不争義務を負うとも考えられる。しかし、契約締結後に無効理由を発見した場合にも、実施料の支払いを継続させるのは酷である。そのため、例えば、無効理由の存在することを知りながら、あえて実施許諾を受けた場合や、無効審判請求後に請求取下げの合意が成立した場合を除いては、信義則に反するとはいえず、無効審判請求は可能と解される。
・無効審決から訂正請求までのながれ(簡潔版)
特許権者は、無効審決を取り消すために、審決取消訴訟を提起すべきである。その際、審決の謄本送達日から30日以内に提起すべき点(178条3項)、相手方を被告とすべき点(179条但書)に留意する。なお、特許権が共有の場合は、共有者の一人が単独で審決取消訴訟を提起することもできる。特許権の消滅を防ぐ保存行為と解されるからである。
また、特許権者は、審決取消訴訟の提起後90日以内に訂正審判を請求するか(126条2項)、その意思がある旨を訴訟において主張すべきである。
これにより審決取消決定(181条2項)が確定すれば、無効審判の審理が再開され、訂正の機会を得ることができるからである(134条の3第2項)。
無効審判の審理が再開された場合、特許権者は、審判長に指定された指定期間(134条の3第2項)に、訂正の請求をすることができる。この際、訂正の請求がされない場合、訂正審判の請求書に添付した書類をもって、訂正の請求がされたとみなされる点に留意が必要である(134条の3第5項)。
・特許無効審判と拒絶査定不服審判の審理手続きの比較
特許法においては、審査主義のもと、審査官の過誤により瑕疵ある特許権が成立する場合がある。このような瑕疵ある特許権の存在は権利者には過剰な保護となり、第三者には不利益となるため、特許権を遡及的に消滅させるために特許無効審判(123条)が設けられている。
以下、特許無効審判の審理方式、手続について拒絶査定不服審判との違いを述べる。
(1)当事者
特許無効審判では、請求人と被請求人(特許権者)が主張し合う当事者対立構造採用する。また、参加制度(148条)も採用されている。いったん成立した特許権は対世的効力を有するため、第三者の不利益も考慮したためである。それに対して、拒絶査定不服審判(121条)では、拒絶査定を受けた者のみが当事者となり、参加制度は採用しない点で相違する。
(2)審理方式
特許無効審判は原則として、口頭審理により審理される(145条1項)。当事者が相対して主張し合う方が争点の理解が容易となるからである。また、審理は審判の公正を図るために公開される(145条5項)。拒絶査定不服審判においては、書面審理を基調とする点で相違する。
(3)審理手続
特許無効審判は当事者対立構造のもと、請求書が被請求人に送達され、答弁書の提出機会が与えられ、被請求人は答弁書提出(134条1項)や訂正請求(134条の2)を行うことができる。拒絶査定不服審判では続審主義のもと(158条)、拒絶理由通知や意見書提出の手続きが行われる点で、相違する。しかし、職権主義(150条~153条)を採用する点で共通する。
4.無効審判等の予告登録
無効審判等がなされると、予告登録がされます。
予告登録は、無効審判等によって特許権等が無効になる可能性が生じた場合、そのことを第三者に通知・警告する目的でなされる登記です。
例として、ある特許に無効理由があることが判明し、特許無効審判が請求される場合を考えます。この場合、最終的に無効審決が確定すると、その特許権は遡及的に消滅します。
このため、このような状況を知らずに、第3者が特許権譲渡交渉やライセンス交渉に入ると、不測の不利益を被る可能性があります。
このような事態を防止するため、予告登録により、第三者への通知・警告を行うことにしています。
なお、特許異議申立に対して訂正請求がなされた場合は、予告登録はされません。これは、特許異議申立がなされた時点で予告登録はなされているので(特登令3条3項)、第三者は明細書等の訂正が請求される可能性を予測できるためです。
・特許法123条
(特許無効審判)
第百二十三条 特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。
一 その特許が第十七条の二第三項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く。)に対してされたとき。
二 その特許が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三十八条又は第三十九条第一項から第四項までの規定に違反してされたとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされた場合にあつては、第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
三 その特許が条約に違反してされたとき。
四 その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとき。
五 外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。
六 その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
七 特許がされた後において、その特許権者が第二十五条の規定により特許権を享有することができない者になつたとき、又はその特許が条約に違反することとなつたとき。
八 その特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正が第百二十六条第一項ただし書若しくは第五項から第七項まで(第百二十条の五第九項又は第百三十四条の二第九項において準用する場合を含む。)、第百二十条の五第二項ただし書又は第百三十四条の二第一項ただし書の規定に違反してされたとき。
2 特許無効審判は、利害関係人(前項第二号(特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。
3 特許無効審判は、特許権の消滅後においても、請求することができる。
4 審判長は、特許無効審判の請求があつたときは、その旨を当該特許権についての専用実施権者その他その特許に関し登録した権利を有する者に通知しなければならない。
・特許登録令3条
(予告登録)
第三条 予告登録は、次に掲げる場合にするものとする。
一 登録の原因の無効又は取消しによる登録の抹消又は回復の訴えが提起されたとき。ただし、登録の原因の無効又は取消しをもつて善意の第三者に対抗することができる場合に限る。
二 特許法第七十四条第一項の規定による請求に係る訴えが提起されたとき。
三 特許異議の申立てがあつたとき。
四 特許無効審判、延長登録無効審判又は訂正審判の請求があつたとき。
五 再審の請求があつたとき。
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