映画『ハムネット』感想 - クロエ・ジャオの哲学と、死と再生の死生
1,この映画に惹かれる理由 / 作品より先に、クロエ・ジャオという人に惹かれている
映画ももちろん、いいのだけど。
わたしは、監督クロエ・ジャオという生き様に惹かれる。そして、彼女の生き様から生まれた映像にずっと流れる、またまた大好きな、マックスリヒターの音楽に。
この映画の底にあるのは、
死 ♻️ 再生のループ、魂の在り方みたいな、ある意味とても本質的なもの。
2, クロエ・ジャオが見つめているもの / 死に寄り添う学びと、内面の探求
ジャオ監督についてまず知っておきたいこと。
クロエ監督は映画制作の傍ら、「デス・ドゥーラ」- 看取り士- という訓練を英国で受けている 。(*日本でも、民間資格で、看取り士(みとりし)というのがある)
人が死ぬ瞬間に寄り添い、その場に立ち会うことを学ぶ実践。
彼女はまた、植物療法によるセラピーも体験したそうです。
具体的に何かは触れていないけど、おそらく幻覚剤のサイロシビン(マッシュルーム)かアヤワスカじゃないのかな、とわたしは思っている (あくまで推測 ☘️)。
3, 『ノマドランド』の後に訪れた「中年の危機」
そして、ノマドランド (2021年アカデミー賞受賞)の成功後、約4年間の、恐怖をともなう「中年の危機」を経験したと、ジャオ監督は語っている。
その時期について、彼女の言葉。
「芋虫が蝶になる前のドロドロに分解されるような、堆肥になるような過程」
「外に動きまわるのではなく、自分自身の本質に回帰するプロセス」
この痛みを伴った内面的な探求が『ハムネット』の準備期間となったそう。
4, (わたしたちの)恐れの正体も「分離の幻想」なのかもしれない
彼女にとって恐れの根源は、「分離の幻影」にあったとのこと。
自分が宇宙や他者から切り離されているという感覚、それが恐怖を生む。
逆に言えば、神聖なものや地球とのつながりを感じることができれば、恐怖は薄れていく。
これは、今、わたしたち多くの現代人が直面していることなのかもしれない。
ワンネスってちょっと怪しいスピリチャル用語にきこえるかもしれないけど、でもワンネス体験みたいなものなのです。
森羅万象みたいな万物との一体感をハートで観じる、 あのかんじ。
映画の『ハムネット』で描かれる死は、恐ろしいものではなく、ちゃんと希望につながっているよ ♡
5, 『ハムネット』が描く、死と再生の循環
「自然からあらわれ、そしてまた、永遠へと戻っていくサイクルの一部」
それが、わたしたちの 魂の存在。
土に還り、また別の命として循環する。
わたしたちは、ほんとは自分じゃない何かのお陰でここにいるんじゃないかな?
そして、ここにいる間、少しでも誰かの前を向けるきっかけに使ってもらうこと、そんなことが生きる本当の意味だったりするんじゃないかなと思う。どうだろう?
6, アグネスという存在/ 薬草、身体感覚、そして「森の言葉」
映画のヒロイン、アグネスには不思議な力がある。薬草に精通し、動物と交信し、見えないものを感じとる、いわゆる賢い女。
ジャオ監督はアグネスの人物像を語るとき、「森の言葉で語る存在」と表現する。
子供の病気に薬草を すりつぶして使うシーンが、わたしには個人的に、とっても懐かしかった。昔、祖母が、ヨモギとか、オオバコとか、そういった田舎道に生えているものをつんで、煎じてくれたことを思い出す。
自然の植物には、今もそんな力があることも多くの人は忘れ始めているけど、薬草は、懐かしくて優しい、地球のメディソン🌏✨
7, ロゴスでは届かないもの/ 現代社会が失いつつある叡智
ロゴスとは、理屈や論理、言葉で説明できる世界のこと。
けれど人間には、もっと古くて、でもちゃんと伝わりわかりあえる 身体に近い感覚や叡智があるのです
ジャオ監督は、現代社会がロゴスに偏りすぎている、という。
論理と効率の中で、「神秘的なこと」が居場所を失ってしまったこと。万物との「一体感」が、どこかに忘れられていること..。
主人公のアグネスという人物は、その失われた叡智を表す存在として映画の中にいる - 監督はそう位置ずける。
8, 赤と茶色 - 命と土の哲学
ジャオ監督は、アグネスの衣装に「バーガンディ(赤褐色)」を選んだ。その色について聞かれて、彼女はこう答える。
「経血のさまざまな色合い」「傷口のかさぶた」「鼓動する心臓」。
体内にある、あらゆる赤のグラデーションの表現。
単にヴィジュアル的に美しいか、そうでないか?ではなくて。女性の身体に宿る生命のリズム。
痛みと再生。怒りと情熱。
アグネスが感情のどこにいるかを、色に語らせているのだと。
そして、もうひとつの色が茶色。
ジャオ監督は「茶色が一番好きな色」だと公言している。彼女はそれを「運命の色」と呼ぶ。
運命とは、自分が生まれついたものへの回帰。
土の色。
すべての命が最終的に戻っていく場所の色。悲しみや、そして、豊穣があるところ。
赤い命は、堆肥として茶色い 土になって、大地へと還っていく。
この二つの色を、クロエ・ジャオは自分の哲学そのものとして、映像に溶かし込んでいる。
9,ユング、夢、ソマティックな瞑想/ クロエ・ジャオの創作の土台 「内なる内戦」を終わらせること
カール・ユング
「世界に平和をもたらす前に、まず自分の中の内なる内戦、二つの相反する力の対立、を終わらせなければならない」
無意識・元型・個性化の概念を打ち立てた、スイスの精神科医・心理学者
彼女はカール・ユングの信奉者でもある。
「世界に平和をもたらす前に、まず自分の中の内なる内戦、二つの相反する力の対立、を終わらせなければならない」
この思想は、映画の作り方にも反映されている。ジャオ監督は撮影現場に「ドリームワーク(夢の探求)」や「ソマティック(身体的)な瞑想」を持ち込んだ。
主演俳優たちは、毎朝自分の見た夢を書き出し、シェアすることから始まる。
映画を、シェークスピアの人生の記録としてではなく、「詩(ポエトリー)」として完成させるために…、俳優が自分の潜在意識と対話し、計算できない偶然を、”場が” 生み出せるように。
劇場のシーンで、観客と舞台の境界が溶けていく場面がある。
そこにはジャオ監督が、セラピーや瞑想の中で体験した「万物との繋がり(Oneness)」が、視覚的な言語として映し出される瞬間。
10, マックス・リヒターの音楽が、この映画を魂の体験に変える
その圧巻のクライマックスで流れはじめるのは、マックス・リヒターの、「On the Nature of Daylight 」
ここは、涙腺決壊の、大団円
もう 泣くしかない😭😭😭
この曲 は、映画・Arrival にも使われていることで有名。とにかく、マックスリヒターの音楽は、センスがよくて、本当に美しい。感覚を通して内面とつながるきっかけになる、そのものだと思う。
(Arrival = 邦題・メッセージ。
原作は、テッド・チャン。「あなたの人生の物語」)
11, 見終わった後に残るもの/ 悲しみの奥にある、希望
この映画を観ると、魂のどこかが ずっとゆさぶられている感じ。
いまも・・・。
そして。
主人公が、亡くした子供の死を受け入れ、魂から湧き上がる希望の笑みを浮かべる場面の余韻は、時間がたつほど鮮明に濃くなる。
愛する誰か(動物さんも含めて)を失って、苦しみを受け入れていく長い時を通過した経験のある人がわかる、穏やかであったかい、「あの」希望の笑み。
観音さまの、ふわっとした、「あの」魂の笑み。
あるいは、ゆさぶられる理由は。
“自分”. がいつかいなくなるという、ふだんは目を逸らしている事実だったりもするのかもしれない。そうであっても、同時に、その気持ちの中に、不思議な安堵みたいなものも、あったりする。
肉体の死は、森羅万象という宇宙の循環の一部。
土に還り、また別のかたちで続いていく。そんなことを直感的にはわかっているから感じる安心みたいなもの。
12, 『ハムネット』は、 死を通して「どう生きるか」を問いかける映画
シェイクスピアは、息子を失うという絶望(ドロドロ堆肥の状態)から『ハムレット』という芸術作品を「錬金術(アルケミー)」のように生み出し、自らの魂を救った。
クロエ・ジャオは、自分自身の再生の物語をハムネットに重ねて、わたしたちにみせてくれている。
生きていれば誰もが体験する絶望やどん底を、「ほらね あなたも こうやってサナギから蝶になること、 も 、できるんだよ」って ✨ 🦋✨
ハムネット予告編
https://youtu.be/E4TURh4rU_Y?si=ByhFHsVWMnqbYTaG
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