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西野葵のホラーの創り方

さて、わたし西野葵はTALESでこれまで多岐にわたって「西野葵のホラー短編集」と称し、いろいろなホラーを書いてきました。おかげさまで更新頻度は落としたものの、相変わらずホラーランキングの累計1位を維持させていただいています。ありがとうございます。


2025.12.20 11:50

もちろん、わたしより怖い話を書く人は世の中にごまんといますし、わたしが特別怖い文章が得意であることもないです。なんせ、過去に何度か言っていますが、わたし西野葵はもともとホラーが苦手な人です。怖がりです。

でも、怖がりが書いたホラーがなぜか1位になっています。怖いです。

というわけで本稿は、わたし自身を俯瞰して分析するためのアウトプットでもあり、同時に、ホラーが好きな人、ホラーを書いてみたい人、文章がうまくなりたいと心のどこかで思っている人に向けた、わたしなりの「ホラーの創り方」を言語化する試みです。

たぶん冗長です。
でも、冗長なわたしが削らずに語ると、ホラーはわりと作れます。
不思議ですよね。

ご興味ある読者様は、どうぞお付き合いくださりませ。
それでは始まり始まり。


1.西野葵のホラーは、何を怖がらせたいのか

わたしのホラーは、幽霊や呪いよりも、「日常が壊れる瞬間」を怖がらせたいタイプです。

もっと言うと、わたしが怖がらせたいのは怪異ではなく、読者の生活です。

コンビニ。マンション。スマホ。置き配。ゴミ捨て場。配信アプリ。
毎日見たり触ったりしているものが、ほんの1ミリだけ狂う。
すると、読者は勝手に想像して勝手に落ちます。

つまりホラーって、驚かせる前に、生活に入り込むことが重要なんだと思っています。

怖がりのわたしがホラーを書ける理由も、たぶんそこです。
大きな恐怖は扱えない。だから、身近な違和感だけを扱う。
その結果、日常に近いぶん刺さる。
怖いです。


2.材料は「身近な違和感」だけでいい

ホラーの材料って、何も特別な事件である必要はないです。
むしろ「特別すぎる事件」は、読者が安全圏から読めてしまう。

おすすめは、こんな材料です。

  • 毎日している行為

  • 毎日見る画面

  • 毎日通る場所

  • 毎日聞く音

その中に、ほんの少しだけ異物を混ぜる。

ここで重要なのは、いきなり大怪異を出さないことです。
最初は、いつもの生活のルールを丁寧に書く。
読者が安心しきったところで、ルールを1回だけ破る。

それだけで、十分に怖くなります。


3.西野葵式、ホラーの基本構造

わたしがやっていることを、雑に言語化するとこの3手です。

 Ⅰ.日常のルールを先に提示する
 Ⅱ.そのルールが1回だけ破れる
 Ⅲ.理由が分からないまま、日常に戻る

この順番です。

理由を説明しないまま、日常に戻る。
ここがいちばん効きます。

理由を説明してしまうと、恐怖は理解に変わります。
理解に変わった瞬間、読者は安全圏に戻れてしまう。

だから、戻れないまま戻す。
矛盾みたいですが、そういう作りにします。


4.作品例で見る「ルールが1回だけ破れる」瞬間

ここからは、実際にわたしが書いたホラーの題材から、どこをどう使っているのかを見せます。
ネタバレというより、調理法の話です。

例1.置き配

置き配って便利です。注文して、玄関前に置いてもらって、受け取る。
この「いつものルール」が読者の頭に入った状態で、次のように破ります。

  • 置いた覚えのない荷物がある

  • 配達完了の写真が、自分の玄関ではない

  • 写真が自分の玄関なのに、撮影位置がおかしい

  • 受け取った瞬間に「受け取りました」が先に通知される

ここでのコツは、荷物の中身をいきなり説明しないことです。
読者が知りたいのは中身ですが、そこを焦らします。

代わりに、画面を見せる。

「配達完了」
「置き配」
「写真」
「受け取り済み」

このUIは、現代の読者にとって共通言語です。
だからここに異物が混ざると、読者の身体が先に反応します。

ホラーは怪異より先に、画面が怖い。
わたしはそう思っています。

例2.マンションのゴミ捨て場

ゴミ捨て場は、毎日同じ場所にあって、毎日同じ行為をする場所です。
つまり、日常のルールが強固です。

だからここは、ほんの小さな破れがよく効きます。

  • 昨日捨てたはずのゴミ袋が、今日もある

  • 分別シールが、見たことのない色で貼られている

  • 他人のゴミ袋なのに、自分の家の匂いがする

  • カラス対策ネットが、内側から結ばれている

そして最後に、日常に戻す。
戻すんですが、戻り方が最悪だといい。

例えば「管理人が何事もなかったように掃除している」とか、
「掲示板にだけ張り紙が増える」とか。

張り紙の文言は便利です。

「ルールを守りましょう」
「悪質な場合は通報します」
「防犯カメラ作動中」

こういう言葉は、日常側の言葉なのに、急に脅しの音色になる。
日常が恐怖の顔をする。
この瞬間が好きです。怖いけど。

例3.座談会

配信アプリの座談会をホラーにするときの強みは、閉鎖空間が画面上に作れることです。
声だけ。アイコンだけ。通知だけ。ログだけ。

ホラーにするなら、破るべきルールはこれです。

「配信は終わる」

終わったはずの配信が終わらない。
終わっているのに、通知が来る。
アーカイブが勝手に増える。
参加者一覧に、自分のアイコンが残っている。

そして決定打が「接続終了済み」です。

接続が終わっているのに、喋っている。
喋っているのに、自分は喋っていない。

この矛盾は、説明すると弱くなります。
説明しないで、画面に置く。

「接続終了済み」
「退出できません」
「聞いてるのは0だけ」

文章の怖さではなく、UIの怖さで落とす。
これもまた現代ホラーの強みだと思います。


5.文章で怖がらせる小技

ここからは、わたしがよく使う小技を並べます。
すぐ真似できるものだけ。

音を書く

ぷつ。ざざ。ぶぶぶ。ことん。
音は、読者の身体に直で届きます。

怖さを説明するより、音を置く。
音を置くと、読者が勝手に怖がります。

形容詞で済ませない

「怖い」「不気味」って便利ですが、これで済ませると怖さが逃げます。
代わりに、読者が怖いと感じる材料だけ置きます。

例えば「手が震えた」なら、それを見せる。
指先が小さく震える描写、骨の奥が鳴る感じ、呼吸が浅くなる感じ。
そういうところを丁寧に書く。

情報を全部言わない

一番怖いのは、分かりそうで分からない状態です。
分かる手前で止める。
答えを言わない。
だから読者が落ちる。

これは、怖がりにとっても助かります。
わたしは怖いものを最後まで見たくないので、書くときも最後まで見せません。
結果として、読者にも見せない文章になる。
怖いです。

固有名詞は少しだけ

現実に寄りすぎると、読者は怖がる前に気を遣います。
だから、分かる人だけニヤリできる程度に、ぼかす。
ぼかした方が、結果として怖さが純粋になります。


6.推敲チェックリスト

ホラーは書くより、直すほうが怖くなります。
なので、わたしが推敲で見ている項目を置いておきます。

  • 日常のルールが最初に書けているか

  • ルールが破れる瞬間が1回、はっきり入っているか

  • 怖さを説明していないか

  • 怪異を言い切っていないか

  • UIや音など、身体に届く材料があるか

  • ラストは日常に戻っているか、戻れないまま終わっているか

これをチェックするだけで、怖さはだいぶ整理されます。


7.今日から書ける練習問題

せっかくなので、読者がそのまま書けるお題を置きます。
コメント欄で一緒に遊べたら嬉しいです。

お題

「いつも見ている画面に、1つだけ見慣れない表示が混ざる」

条件は2つだけ。

  • いつものルールを先に書く

  • 破れた理由は説明しない

参加方法は2コースです。

コースA:コメント欄に300文字ホラー

300文字くらいで、超短編をそのままコメントに書いてください。
短くてOKです。音やUIが入ると強いです。

例文をひとつ置きます。

朝、スマホのロックを解除すると、通知が1件だけ残っていた。
「睡眠の記録 0時間」
寝落ちしたのにおかしい。
睡眠アプリを開くと、昨日の波形が真っ黒で埋まっている。
再生ボタンが押せる。
ざざ。
自分の寝息が流れた。
途中で、誰かが笑った。
画面には小さく「同室 1名」と表示されていた。

コースB:1000文字短編を書いてリンクを貼る

1000文字くらいの短編を、ご自身のnoteやTALESなどに投稿して、コメント欄にリンクと一行あらすじを貼ってください。
わたしが読みに行きます。


おわりに

わたしはホラーが苦手です。怖がりです。
だからこそ、怪異を大きくせず、日常を1ミリだけ歪ませる方向に寄っていきました。

たぶんその歪みは、誰にでも作れます。
あなたの生活にも、あなたの画面にも、あなたの音にも、材料は転がっています。

ホラーは才能ではなく、設計です。
そして設計は、今日から真似できます。

では、あなたのホラーが生まれる瞬間を、楽しみにしています。

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