こんなにある「憲法の不備」 新聞通信調査会編集長 一ノ瀬英喜がズバリ!

◎憲法記念日に考える-②

令和8年(2026) 5/28
一ノ瀬英喜
 戦後81回目の憲法記念日を迎え、2回目となる本稿では、現憲法の条文、規定が明らかに現実と乖離している点や、必要性が指摘されながら放置されている問題、さらに、本来明記されてしかるべき項目などについて、考察したい。
▼私学助成を行える環境整備を
 最初に条文の文言と実際の運用がかけ離れている例を挙げたい。事実上、憲法違反とも言える行為が公然と行われていると指摘されてきたのが憲法89条だ。そこには「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」ことが明記されている。かみ砕いて説明すると、憲法89条は公の財産の支出について書かれている条文で、憲法20条に記されている政教分離の原則を、財政の面でも制限していることを裏付けている。この条文を普通に読めば私学助成は明らかに憲法違反の行為だとの見方が大勢だ。このため、89条を改正して私学助成ができることを憲法上、明記する必要がある。
 また、政教分離とは、国家と宗教が分離され、政治的な権力と宗教的な信仰が分離されている社会のことを指しており、国家が宗教に対して中立的で、宗教による政治的な支配や介入がない状態を意味する。歴代首相の玉ぐし料の問題が政教分離の原則に違反するかが問われてきたのが有名な例だ。一方で、国民の税金から支払われる政党助成金は、創価学会を支持母体とする公明党にも支払われているが、厳密に解釈すると憲法に抵触しているのではないかという議論が長らく続いていたことも指摘しておきたい。
▼憲法裁判所の設置で司法の役割強化を
 次に憲法改正問題をめぐり、必ず浮上するのが憲法裁判所の設置の是非だ。憲法81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定している。しかし、実際の訴訟では、最高裁は憲法に関わる問題について、判断を回避する傾向が顕著だった。訴訟件数が膨大であることで手が回らない事情も理解できるが、一方で、内閣の一部局に過ぎない「内閣法制局」が憲法解釈に関する判断に大きな影響力を持っていることを問題視する声があるのも事実だ。内閣法制局は国民の信託を得ていないし、頑迷固陋な判断が時の政権の手足を縛ってきたという批判も根強い。内閣法制局の役割は重要だし、存在を否定するわけではないが、憲法と現実を擦り合わせて時代の即した解釈を積み上げることは、本来司法の役割だ。このため、憲法裁判所を設置して「法の番人」として司法の役割を強化することも検討すべきではないだろうか。
▼不断の見直しができる環境整備を
 憲法96条は憲法改正に関する規定があり、国会の発議・審議を経た後に国民投票を実施する規定が盛り込まれている。しかし、憲法改正のための国民投票を実施する法律が未整備だったため、憲法改正が事実上不可能になっていた。2007年になってようやく「日本国憲法の改正手続に関する法律(憲法改正国民投票法)」が成立したが、最近の議論では、改正手続き自体のハードルが高すぎるのではないかという声も根強くある。憲法改正の手続きとして「国会で衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成を経た後、国民投票によって過半数の賛成を必要とする」と明記されているが、衆参それぞれの選挙結果から、改憲勢力が3分の2に届かない時点で憲法改正の議論がストップする状況が当たり前のようになっていたことは否定できない。憲法は「不磨の大典」ではないが、高いハードルのために現行憲法は世界的に見ても最も改正に抑制が効いた憲法と言われている。今後、改正手続きをめぐる議論が活発化する可能性がある。
 このほかにも憲法に盛り込まれていない規定が指摘されている。まず国家元首が明記されていないこと。今、衆参両院の憲法調査会で議論されているが、緊急事態条項の規定もその一つだ。戦後まもなく制定された現行憲法は、時代の変化に応じて環境権やプライバシーなど新たな概念に基づく条項を盛り込むべきだという意見もある。
 2回にわたって憲法改正問題の「現在地」や現行憲法が抱える問題点、時代状況とかけ離れた条文などを検証してきたが、憲法改正問題イコール憲法9条の改正問題ではない。条文を細かく読み込めば、憲法89条の例を見るまでもなく、すぐにでも検討を進め、改正に向けた手続きに着手すべき項目があることは疑いない。憲法改正に向けた議論の先には、長期的な視点に立って「国の在り方」を再考し、時代状況や政治、経済、国際環境といった事象に適応した統治システムを不断に見直していくプロセスがあることを押さえておく必要がある。理念やイデオロギー対立の象徴となっている憲法9条の問題が足かせとなって、そのほかの喫緊の課題がストップしてはならない。そのためにも憲法改正が発議できる国会で、与野党が憲法改正を政争の具にすることなく、国民に分かりやすく真摯に議論を深め、国民の前に論点を提示していくことが求められる。

一ノ瀬英喜  共同通信元編集委員 / 公益財団法人・新聞通信調査会編集長
 共同通信入社後。大津、高松、和歌山支局、大阪支社社会部を経て本社政治部。政治部では旧経世会(竹下派)を担当。野党キャップ、国会長、外務省キャップ、防衛庁キャップ、首相官邸キャップを歴任。小泉純一郎首相の訪朝では同行記者団の団長を務める。その後、社長室で法人改革を担当。放送報道局長として民放、ラジオ、FM局との窓口を担う。東京五輪ではオリンピック・パラリンピック室に在籍。その後、共同通信事業局委員(放送報道担当)と務める傍ら、2023年5月から新聞通信調査会の編集長。大手メディア出身の中にあってリアルで独自の視点は注目。

*次回の「ニッポン+(プラス)」は菊地幸夫の担当で6/4(木)夜、掲出予定です。


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