魚は夜、眠っているのか――まぶたでは分からない、水の中の休み方
ふつうに考えれば、夜は寝る時間。
では、水面の下にいる魚は――魚も、寝るの!?
魚を研究し、「釣りを科学する」記事を書いてきた私にとっても、これは身近なのに、きちんと整理したことのない問いでした。
前回は、夜の水辺に立つと、仕事や予定でいっぱいだった頭が少し静かになることを書きました。では、私たちがそうして過ごしているあいだ、魚は眠っていたのか。餌を待っていたのか。それとも、こちらには見えない場所で動き始めていたのか。
今夜は、人ではなく、魚の側の夜をのぞいてみます。
魚が眠っているかは、どう分かる?
答えを先に言えば、少なくとも一部の魚には、行動から「睡眠」と確かめられた状態があります。ただ、多くの魚は人間のようにまぶたを閉じません。では、何を見れば眠っていると分かるのでしょう。
私たちは眠りと聞くと、目を閉じ、横になる姿を思い浮かべます。魚にはその目印が使えないからこそ、眠りは一つのしぐさではなく、いくつもの変化の組み合わせとして確かめられます。
水槽の底で魚がじっとしていても、それだけで眠っているとは言えません。流れを避けて休んでいるのかもしれない。外敵をやり過ごしているのかもしれない。餌が近づくのを待っている可能性もあります。
そこで研究者は、複数の手掛かりを組み合わせます。
一日のリズムに沿って、まとまった時間、活動が低下する
その魚に特有の姿勢や場所で休む
普段なら気づく刺激への反応が鈍くなる
刺激を受ければ、また活動できる
休みを邪魔された後に、休息が増える
最後の変化は、私たちが寝不足の後に眠りを取り戻そうとするのと少し似ています。休めなかった分を埋めるように、後から休息が増えるのです。

もちろん、これはどんな魚にもそのまま使える万能チェックリストではありません。すべての手掛かりを一度に調べた魚種はまだ多くなく、研究によって睡眠の判定基準も異なります。一定時間の活動停止を主な基準とする研究もあるため、休息、低活動、睡眠を分けて考える必要があります(Norman et al., 2024)。
人間の眠りとまったく同じ物差しを当てるのではなく、「いつ、どこで、どんな姿勢になり、周囲への反応がどう変わるか」を重ねて見る。その積み重ねによって、ただ動かない状態との違いが少しずつ見えてきます。
「動かない」は、魚の眠りを考える入口ではあっても、答えそのものではないのです。
ブラウントラウトが教えた「魚の眠り」
この区別を、釣りでも身近な魚で確かめた研究があります。
2024年、北海道の川で捕まえたブラウントラウトの幼魚を、一匹ずつ水槽で観察した研究が発表されました(Furusawa & Koizumi, 2024)。
底に体をつけて静止しているあいだ、魚は外からの刺激への反応が鈍くなりました。さらに休みを邪魔すると、後で休息が増えました。研究者は「止まっている」だけでなく、姿勢、反応、寝不足後の変化を重ねて、行動としての睡眠と判断したのです。
ただし、自然の川底で眠る魚をそのまま観察した研究ではありません。野外で採集した魚を、水槽内で調べた実験です。川の流れ、外敵、餌、ほかの魚との関係がある自然環境では、休む時刻や場所が変わる可能性があります。
さらに興味深いのは、43匹の時間の使い方が一様ではなかったことです。夜に活動が偏る個体もいれば、昼夜を通じて動く個体も、その中間もいました。
魚の活動時間は、季節、成長段階、光、温度、餌、捕食される危険などによって変わり得ることが、以前から多くの魚種で整理されています(Reebs, 2002)。ただし、ここで主に見ているのは「いつ動くか」です。「いつ眠るか」とは同じではありません。
同じ種なら、全員が同じ時刻表で過ごす。そう単純に決められないところにも、魚の夜のおもしろさがあります。

暗くても食べられる魚は、夜に活発なのか?
ここで、睡眠と釣りをつなぐうえで大切な区別が見えてきます。
ブラックバスの一種、ラージマウスバスを使った実験では、月明かりに相当する弱い光でも、餌となる小魚を捕らえる成功率は95%を超えていました。星明かりほどの暗さでは62%に下がり、完全な暗闇では、ほとんど捕らえられなくなりました(McMahon & Holanov, 1995)。
この結果だけを見ると、「バスは夜でも活発な魚かも」と考えたくなるかもしれません。しかし、この実験が示したのは、弱い光でも小魚を見つけて捕らえられる能力です。野外で、いつ最も動くかを測った研究ではありません。
一方、2026年に公表されたカナダの研究では、ラージマウスバス17個体に小型タグを付け、体の動きを測りました。平均では明け方に動きが大きく、夜間には小さくなっていました。ただし、夜にまったく動かなかったわけではありません。この値は睡眠や食欲、釣れやすさを直接示す数字でもありません(Hlina et al., 2026)。
水槽実験と野外研究の結果は、矛盾しているわけではありません。一方は暗い場所で捕食できる能力を、もう一方は実際の水辺での動きの大きさを見ています。別の問いに答えているのです。
暗くても食べられる。けれど、その時間に動いているとは限らない。
食べる気があることも、ルアーに反応することも、また別です。

魚がいることと、食べることは違う
夜の釣り場では、魚の姿が見えているのに、餌やルアーへ反応しないことがあります。そのとき、「魚がいるのだから食べるはずだ」と考えると、反応がない理由を一つに決めたくなります。
けれども、そこにいることは、位置を示しているだけです。魚は低活動なのかもしれない。休息しているのかもしれない。餌を待っていても、目の前のものを追う状態ではないのかもしれません。もちろん、単にこちらの餌へ関心がない可能性もあります。
これは、今回紹介した研究が釣り場で直接証明した結論ではありません。魚が見えるのに反応しない場面で、区別して考えたい複数の仮説です。睡眠研究が釣りへ与える一番大きなヒントは、「魚がいるか」だけでなく、「今、どんな状態にあるのか」と問い直すことだと思います。
釣れる時刻を一つ覚えるより、魚の状態が切り替わる条件を見る。睡眠研究から釣りへ持ち帰れるのは、そんな見方です。
同じ夜でも、過ごし方は一つではない
少なくとも一部の魚には、行動から確かめられた睡眠があります。けれど、暗くなればすべての魚が同じ時刻に休むわけではありません。同じ種の中でさえ、活動と休息の時間配分に違いがあります。
夜は眠る時間だと言われます。でも、このマガジンに集まる皆さんがご存知のように、同じ夜でも過ごし方は一つではありません。人と魚を同じものとして語ることはできませんが、同じ暗がりが、すべての魚に同じ状態をもたらすわけでもないのです。
魚の側の夜を調べてみると、私たちのほうが「暗くなれば休む」「夜なら動く」と、時刻だけで決めつけていたことに気づきます。魚の夜は、そんな単純な二択ではありませんでした。
だから私は、よく釣れる時刻を一つ当てるより、魚が今どんな状態にあるのかを分けて見たいと思います。「魚も眠るのか」という素朴な疑問は、私が「釣りを科学する」うえで大切にしたい見方へつながっていました。
夜は、魚たちを一斉に眠らせるベルではありません。
水の中にも、それぞれの夜があります。
次回は、その夜を月や街灯がどうつくり変えるのかを考えます。
References
Furusawa, C., & Koizumi, I. (2024). Behavioural sleep in salmonid fish with flexible diel activity. Animal Behaviour, 209, 43–52. https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2023.12.013
Hlina, B. L., Rous, A. M., Piczak, M. L., Midwood, J. D., Brownscombe, J. W., Portiss, R. J., Sciscione, T. F., Wells, M. G., Doka, S. E., & Cooke, S. J. (2026). Seasonal effects on the acceleration of largemouth bass and Northern Pike in Toronto harbour. Animal Biotelemetry, 14, Article 5. https://doi.org/10.1186/s40317-026-00444-6
McMahon, T. E., & Holanov, S. H. (1995). Foraging success of largemouth bass at different light intensities: implications for time and depth of feeding. Journal of Fish Biology, 46(5), 759–767. https://doi.org/10.1111/j.1095-8649.1995.tb01599.x
Norman, H., Munson, A., Cortese, D., Koeck, B., & Killen, S. S. (2024). The interplay between sleep and ecophysiology, behaviour and responses to environmental change in fish. Journal of Experimental Biology, 227(11), jeb247138. https://doi.org/10.1242/jeb.247138
Reebs, S. G. (2002). Plasticity of diel and circadian activity rhythms in fishes. Reviews in Fish Biology and Fisheries, 12, 349–371. https://doi.org/10.1023/A:1025371804611
