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鏡の国(2)


『NEXT ARTIST、THE ABSOLUTE QUEEN... QueenK!!』

ついに本番を迎え

アナウンスとともに、会場の空気が一変した。

地鳴りのような大歓声がドームを揺らし、

無数のペンライトがQueen Kの色であるピンクとゴールドに染まる。

スモークが焚かれたステージ中央から、

光を浴びて現れたのは、イ・サヤを筆頭としたQueen Kのメンバー。

彼女たちの登場は、まるで女王の帰還のようだった。

「ARE YOU READY? AWARDS!!」

サヤの挑発的な掛け声とともに、重低音のビートが爆発した。

米ビルボードトップ10入りを果たした

彼女たちの代表曲「THE QUEEN’S REIGN」。

イントロが流れた瞬間、観客のボルテージは最高潮に達した。

サヤの、低く力強いラップ。

チェ・ミレの、空を切り裂くようなハイトーンボイス。

パク・セリンの、しなやかでキレのあるダンス。

3人のパフォーマンスは、完璧に計算し尽くされていた。

一糸乱れぬフォーメーションダンス、寸分の狂いもない歌声、

そして、観客を圧倒するオーラ。

それは、まさに「絶対王者」のパフォーマンスだった。

ステージを縦横無尽に駆け巡り、観客を煽る彼女たち。

その一挙手一投足に、会場全体が熱狂した。

「すごい...!」

舞台袖でQueen Kのパフォーマンスを見つめるGrand Fleurのメンバーは、

その圧倒的な実力に言葉を失った。

彼女たちがこれまで培ってきた実力と、

世界で磨かれたパフォーマンスは、想像を絶するレベルだった。

「これが...世界...」

翆は、震える手でマイクを握りしめた。

Queen Kのパフォーマンスは、

彼女たちに「壁」の高さを改めて思い知らされた。

しかし、その瞳には、恐怖ではなく、闘志が宿っていた。

(絶対に負けない...!私たちの音楽で、あの大歓声を塗り替えてみせる...!)

Queen Kのパフォーマンスが終わり、

会場はスタンディングオベーションに包まれた。

万雷の拍手と歓声が、彼女たちの勝利を称えているかのようだった。

「 Grand Fleurの皆さん、移動お願いします!」

スタッフの叫び声に背中を押され、

翆たちは暗く狭い上手側の舞台袖へと足を踏み入れた。

一歩入った瞬間、肌を刺すような重圧が三人をおそう。

極彩色のレーザー照明が舞台袖の暗闇を時折赤く、青く切り裂く。

巨大なスピーカーから響く低音は重低音の振動となって床を揺らし、

足裏から心臓へとダイレクトに伝わってきた。

そして何より――巨大なドームを埋め尽くす何万人もの観客が放つ、

怒号のような熱気と歓声。

「すごい人……」

凛花が小さく息を呑み、衣装の裾をきゅっと握りしめた。

手足は氷のように冷たくなっている。

横を見ると、美緒もまた目を閉じ、

極限の緊張を押し殺すように深く、何度も深呼吸を繰り返していた。

直前のサヤたちの言葉が、頭の中で何度もリフレインする。

『あなた達のゴミみたいなファン』

(――負けない。絶対に、負けるもんか……!)

翆は震える右手を胸に当て、

トレードマークの胸のブローチをギュッと握りしめた。

客席を見ると、広大なアリーナの一角に、

Grand Fleurのイメージカラーであるピンク色のペンライトが、

小さく、けれど固い絆のように身を寄せ合って輝いているのが見えた。

海を渡って、自分たちを信じて駆けつけてくれた大切なファンだ。

「ふたりとも」

翆の低く澄んだ声に、美緒と凛花がハッと顔を上げた。

翆はふたりに向かって、今まで見せたこともないような凛とした、

力強い眼差しを向けていた。

「怒りで頭が破裂しそうだった。……でも...Queen Kの言う通り、私たちのステージで全部証明するしかないんだよ」

「……翆」

「悔しさも、恐怖も、ファンみんなへの大好きな気持ちも……全部、最初の第一声にぶつけよう。私たちが積み重ねてきた固い絆を、あの大舞台で見せつけてやろう!」

翆が前に差し出した手に、凛花が力強く自分の手を重ねた。

「当たり前でしょ! あんな高飛車な奴らに、うちのファンを馬鹿にされたまま帰れるわけないじゃん!」

その上に、美緒が静かに、けれど固く手を重ねる。

「……うん。溜めも走りの懸念も、もう要らないね。私たちの全力をぶつけよう」

三人の手が重ね合わされ、キュッと力がこもる。

恐怖はもう、完全に「覚悟」へと変わっていた。

『――Next artist, from JAPAN! Grand Fleur!!』

英語の重厚なアナウンスが会場に轟き、万雷の拍手と歓声が爆発した。

ステージ中央を照らすピンスポットライトが眩しく輝き、

暗転した舞台への扉が開く。

「行こう!」

翆の声を合図に、三人は光の中へと一歩を踏み出した。

翆たちは圧倒的な実力差を感じながら必死の笑顔とパフォーマンスで歌い踊った。

けれど、QUEEN Kが作り出した絶対的な歌唱力と実力の前では、

彼女たちのパフォーマンスは全く歯が立たず、

リーダーの翆は焦りを感じた。

客席を埋め尽くしていたはずの日本のファンすらも、

QUEEN Kの次元の違う圧巻のステージに圧倒され魅了され続けていた。

ペンライトの色を次々とQUEEN Kのイメージカラーであるピンクへと変えていく。

翆が必死に目を合わせようとしても、

客席から返ってくるのはかつての熱狂ではなく、冷ややかな反応だった。

両者のパフォーマンス終了後、

視聴者・会場投票結果が巨大モニターに映し出される。

『QUEEN K:98.7%』
『Grand Fleur:1.3%』

結果が映し出された瞬間、

大歓声の客席とキャー!と背後で喜ぶクイーンKのメンバー、

それとは対照的に青ざめ、

「....うそ..でしょ?」

そう言い足元から崩れ落ちたグランフルールのメンバー達。

それは歴史的な惨敗。画面に躍る数字は、残酷なまでの「結果」だった。

「……それでは、両者の約束に基づき、敗者には勝者の言うことを聞いてもらいます!」

司会者の冷淡な声が響く。

TVカメラと数万人の観客が見つめる中、

翆たちGrand Fleurのメンバー全員が、

ステージ中央に力なくひざまずかされ、

その背後にはクイーンKが立っていた。

「さあ、センターの高嶺翆さん。こちらを読み上げてください」

マイクを押し付けられ、

翆の目の前にあらかじめ用意された原稿が会場に映し出された。

翆たちは涙で視界を歪ませ、声を震わせながら、

事前に用意されたであろうハングル語に日本語でフリガナを振られた原稿を読み上げるしかなかった。

「....ウリドゥレ……『アイドゥル』ヌン……(私たちの『アイドル』は……)」

ポロポロと溢れ落ちる大粒の涙。

「...カッチャヨッスムニダ……。スキルモ、アラムダウムド・オプシ……(偽物でした。技術も美しさも
なく……世界に通用しない日本のアイドルでごめんなさい)」

屈辱的なハングルでの謝罪を言わされ、ボロボロと泣き崩れる翆。

すると、QUEEN Kのメンバーたちが冷笑を浮かべながら近づいてきた。

「ねぇサヤ!なぁに今の?なんて言っているか全然わからなかったわ」

そう笑いながらQUEEN Kのメンバー、セリンが言った。

サヤもクスクスと笑いながら、

ひざまずく翆たちの頭上から蔑むような視線を送ると、

翆の頭の上にブーツを乗せ地面に押し付けた。

「ほら!固い絆で結ばれた日本ファンゴミどもに謝るんでしょう?!もっと頭を下げたら?!」

きゃっ!小さく悲鳴を上げたと翆に会場は大きな歓声を上げた。


これにはさすがに日本から来たファンたちも

「やりすぎだ!」や「ヒドイ!」などの怒声が上がったが、

クイーンKのリーダーサヤは意にも介さず

「...それにしても..」

と流暢な日本語で、

「いくら何でもお前たちのアイドルの投票結果が1.3%って低すぎじゃない?」

「まさか固い絆で結ばれたお前たちが裏切ったりしてないよね?」

そう言い日本のグランフルールファンに視線を向け一瞥した瞬間

図星をつかれたのか急に静かになってしまった。

それを見届けたサヤはフッと鼻で笑い、翆達に視線を戻すと

「これに懲りたら二度と島国から出てこないことね」

そう笑いながらQUEEN Kの3人はGrand Fleurのメンバー達の

頭の上から用意されたシャンパンを浴びせた。

こうして世界との圧倒的な「差」と

屈辱的を味わったグランフルールはその後、解散を余儀なくされた。


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