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3・26 光る海

 瀬戸内の陽光が恋しくなるとき、私は電車に乗る。
 
 2019年。姫路暮らしも5年目に入っていた。仕事では、親会社からの株式買取、いわゆるMEBOを進めていた時期で、神経のすり減る毎日だった。そんな張り詰めた平日を癒すために、週末は監視人殿と共に、瀬戸内海を眺めながらランチを楽しむのが習慣となっていた。
 
 今回は、そんな休日の記憶から、二つの光る海の物語を。
 


播州赤穂のイタリアン(2019年4月)
 
 春の陽気に誘われて、播州赤穂にあるイタリアン「さくら組」へと出かけた。ここは関西で人気のレストランで、予約困難なことで知られている。だが、テラス席だけは予約不可。だからこそ、早めに行けば席を取れるというわけだ。
 
 姫路から電車とバスを乗り継ぎ、11時前には現地に到着。無事、海に面した特等席を確保することができた。目の前には瀬戸内の穏やかな海。数キロ沖には小島が浮かび、その向こうに連なる水平線が霞むように続いていた。

さくら組テラス席

 波に陽が差し込んで、無数の小さな星々が海面に瞬いている。ときおり小魚が水面を跳ね、空には鳶が弧を描く。そんな景色の中、マルゲリータと海鮮ピッツァを注文。私は地ビール、監視人殿(妻)はマンゴージュース。ピッツァは大皿からはみ出すほどの大きさで、もちもちとした生地が絶品だった。
 
 食後は近くの丘を登って、カフェの窓辺で再び海を眺めながら休憩。春の陽気と海の静けさに心を溶かした、贅沢な一日だった。
 


明石の「光る海」(2019年5月)
 
 吉永小百合がかつて歌っていた「光る海」――。まさにそれを目にしたのは、10月初めの土曜日だった。
 
 JR新快速に乗って姫路から東へ。朝霧駅で降り、海沿いを10分ほど歩くと、予約していたイタリアンレストランに到着した。運良く、海に面したカウンター席へ。
 
 眼前には一面の瀬戸内海。正面には淡路島、左手には明石海峡大橋がそびえ、その下の海面がキラキラと輝いている。太陽の角度に合わせて、波の反射も移動していく様は、まるで光の道が海の上を滑っているようだった。
 
 ピザ・マルゲリータを頼んだが、味の方は正直、まあまあ。ただ、その味すらもどうでもよくなるほど、景色がすべてを凌駕していた。
 
 時間が経つにつれ、光る波はさらに広がり、船が静かに行き交い、空には大きな鳥が二羽、旋回していた。気づけば、まるで青春のただなかに戻ったような心地になっていた。

明石の光る海

 2時間近く、ただただ海を眺めて過ごした。席を立つのが惜しかったので、帰り際に翌日のランチの予約を入れた。次は何を食べようか…そんな悩みもまた、海のように心を豊かにしてくれる。
 


 瀬戸内の海は静かに、しかし確かに、心を照らす。
あの「光る海」は、仕事に追われた日々に、小さな奇跡を与えてくれていたのだと思う。
 

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