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NHK俳句「薔薇全部 貪り食いたい ほど孤独」」

 先日、日曜日の「NHK俳句」は、選者・高野ムツオさん主宰の句会だった。高野さんは現代俳句協会会長、俳句界の大御所である。ちなみに私と同年代だ。

 句会は、参加者全員が兼題で一句を詠み、互いに選を入れ合う形式。特選二点、並選一点で得点を競うが、自作には投票できない。

 参加者は、俳人の今井聖さんと大高翔さん、ゲストは芸人の古坂大魔王さんとシンガーソングライターのかわにしなつきさん。高野さんを加えた五人が、それぞれ句を読み解いていく。

 今回の兼題は「薔薇」。日本の薔薇は、もともと白い野薔薇だったが、明治になって現在の西洋薔薇が入ってきて主流になった。梅雨入り前の、華やかな季節を思っての兼題だそうだ。

 詠まれた句は、薔薇と人の感情が複雑に絡み合い、読む側の想像を大きく膨らませる。作者自身も思わなかったような深読みが飛び出すこともあり、毎回感心させられる。

 特に興味を引いた四句を紹介したい。


薔薇全部 貪り食いたい ほど孤独 (高野ムツオ)
 
今回はこの句が最高点の五点を獲得した。
 作者の高野さんは、次のように述べている。
 「私だって孤独になることはある。暗い気持ちになった時、薔薇のような深紅の生命力を自分の体の中に入れたいという思いがあって、それをそのまま素直に俳句にした。」

 過去をたどれば、高校生時代には、どこにもやり場のない孤独感に悩んだことがある。訳の分からない文学書を読み漁り、悩むこと自体に酔っていたような気もする。そういうところがある年ごろだったのだろう。

 二十五歳で結婚してからは精神的にも安定し、高野さんのように、薔薇を食べてしまいたいほど孤独だった記憶はない。しかしこの先、一人にならないとも限らない。その時は、私も薔薇を食べたくなるのだろうか。


武装解く 薔薇一本と 引き換えに (今井聖)

 大高さんは、「一本の小さくて美しいものと、『武装解く』というスケールの大きい恐ろしいものとの対比が鮮やか。そのインパクトにひかれた」と述べている。

 一方、かわにしさんは、「喧嘩している二人の話だと思った。素直になれない自分に、仲直りの印として薔薇一本を渡してくれたのかなと。私も薔薇一本渡されて『赦して』と言われたら、許しちゃうかなと思った」と語った。

 これに対し作者の今井さんは、「いま世界のあちこちで戦争が起きている。だから『武装を解く』という願いは、少し常識的すぎる気がした。むしろ男女の喧嘩と読むと、急に日常感や臨場感が出てくる」と述べた。

 さらに高野さんも、「私も最初は軍隊しか思い浮かばなかった。でも、男女のこととして読むと急に面白くなる。武装を解くのが男性なのか女性なのか、それもまた面白い」と応じていた。

 私も最初は、軍隊の武装解除としか思わなかったので、かわにしさんの男女の喧嘩という解釈には意表を突かれた。幸い、今まで監視人殿(妻)に武装解除を求められたことはないから、薔薇を差し出したこともない。この先も、それで済むことを願うばかりだ。


薔薇に雨 言い訳だけ止む 気配無く (古坂大魔王)

 この句は、古坂さんが実際に見た光景だという。
 「若いカップルの待ち合わせで、男が遅れてきて、『この雨で電車がうんぬんかんぬん』と言う。すると女が『いま雨は止んでいるけど』と返す。そんなやり取りが可愛かった。二人ともニコニコしていて、のろけているみたいだった。」

 言い訳をされ、それをまた楽しんでいる。横から見ると微笑ましくもあるが、「勝手にやってくれ」という気分にもなりそうだ。


悲しみは糧 薔薇の白 あふれしむ (大高翔)

 かわにしさんは、
 「白い薔薇には『純粋』という花言葉がある。悲しいことや辛いことがあっても、それを糧にして新しい自分で進んでいく。哀しいことがあったからこそ、新しい私でスタートできる――そんなふうに応援したい気持ちになった」
と語っていた。

 これに対し高野さんは、
 「句のリズムもよく、端正な作りで欠点がない。ただ、欠点がないところが少し気になった。もっと延々と哀しんでいる句の方が、私は面白い」
と評していた。

 俳句として見れば、高野さんの言う「もっと悲しんで欲しい」という批評はよく分かる。しかし人生の上では、延々と悲しみ続けることは難しい。何年か経てば、人は少しずつ持ち直し、結果として悲しみが糧になることも多いのではないかと思う。

 人間には、「慣れる・諦める・忘れる」という三つの能力があるから、生きていけるのかもしれない。


 句そのものも面白いが、それ以上に、人によって読みがこんなにも違うことが面白い。

 句会を見ながら、自分の現在を考え、遠い過去まで思い起こされる。高野さんの句会を、私は毎回楽しみにしている。

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