見出し画像

NHK俳句「七夕」、その1「鍵の音」

  今日のNHK俳句は、高野ムツオさん主宰の句会だった。参加者は俳人の加藤右馬さん、片山由美子さん、芸人・音楽プロデューサーの古坂大魔王さん、シンガーソングライターのかわにしなつきさんの四人。兼題は「七夕」で、それぞれが一句を持ち寄り、互いに評価し合う句会形式である。
 
 二句が五点を獲得して一位となったが、その一つが俳人・加藤右馬さんの作品だった。
 
七夕や 隣の部屋の 鍵の音  (加藤右馬)
 
 この一句をめぐって、四人の受け止め方は実にさまざまだった。
 
古坂さんは、「隣の人の鍵の音を聞くだけで、その人の生活ぶりや年齢、暮らしまで想像してしまう。情景は見えているのに、肝心なことは何も書いていない。それがすばらしい」と絶賛した。
 
 片山さんは、「これは恋の句」だという。隣に住む人のことは分からないが、今夜は二人なのだろう。中で何が起きているかは一切書かず、読者に想像させるところが魅力だと評した。
 
 一方、かわにしさんは、「これは孤独の句」だと受け止めた。七夕の夜、一人で部屋にいると、隣の住人が帰宅して鍵を開ける音が聞こえる。「一人なのは自分だけではない」と感じ、孤独が少し和らぐ気がしたという。
 
 高野さんは、「出掛けるところなのか、帰ってきたところなのか。それだけで幾通りもの物語が生まれる」とまとめた。
 
 作者の加藤さんも、「読む人によってさまざまに受け取ってもらうことを狙った」と話していた。まさに作者の思惑どおりの一句だったようだ。
 
 私は、この句を恋の句というより、一人暮らしの静かな孤独を詠んだ句として読んだ。
 
 大学を卒業して就職した頃、父は広島勤務だったので、私は東京のマンションで一人暮らしをしていた。仕事は忙しく、女性と付き合う余裕もない。休日も一日中一人で過ごすことが多く、専門書を読んだりして時間をつぶしていた。
 
そんな日曜日、廊下の外から人の気配や物音が聞こえてくると、一人でいるのは自分だけではないような気がして、少しだけ気持ちが和らいだことを思い出す。あの頃は気づかなかったが、人は案外、人の気配に支えられて暮らしているものなのかもしれない。
 
 実は、それも二十五歳で結婚した理由の一つだったのかもしれない。もちろん、そんなことは今まで誰にも話したことはない。
 
 
 もう一つ五点を獲得した句も、まったく違う魅力を持つ作品だった。それは明日紹介したい。

いいなと思ったら応援しよう!