神のみぞしる神の味噌汁
Xで、椿屋珈琲の春限定「いくらと海老の生海苔クリームソース」が神の味だと絶賛されていた。
パスタが大好物のわたすは、午前中からすっかりと生海苔とクリームソースの舌になっている。
オフィス近くのイタリアンで、生海苔とクリーム系のパスタランチがあったはず。わたすの胸は高鳴る。心臓はいつもとまらない。
しかし。わたすの思っていたその店のパスタは海苔こそ入っていたが、なんとオイル系。オカシイナ。今日のわたすの舌はぜったいてきに、生海苔とクリーム。
必死に検索をかけるわたす。
なんとしても、生海苔とクリームのパスタをたべたい。
しかし。神様は試練をお与えになる。
そんなときに限って、なかなかみつからないのだ。
生海苔とクリームパスタ。家にはちっとも減らない開封済みの牛乳がある。そして生ではないが、磯海苔ならある。こちらもちっとも減らない。両方を掛け合わせれば、それは立派なSDGs。フードロス、へらす。とナイスな思い付きをするも、いや、だめだ。クリーム感をだすためには、生クリームがきっと必須。そしていまから帰ってつくるのはめんどうがくさすぎる。
しかたない。最終手段にでる。秘技。家の近所の椿屋に直帰だ(nimaさん、お仕事は?)。NR(No Return)と、颯爽とオフィスをでるわたす。オフィス街を闊歩するさまは、まさにこれから椿屋に春限定パスタをたべにいくひと、そのもの。わたすにも、遅咲きの春がやってきた。
すみませんね、ちょっとたべたくなっちゃって。わたすはミュージカル女優のように、丸ノ内で盛大にダンスをする— わけもなく、そそくさと地下鉄に飛び乗る。だってお腹すいてるんだもの。
ただ、ここで問題が生じる。腹をすかせたわたすが、無事に地元の駅までたどり着けるのか。お腹をすかせすぎて、発狂してしまうのではないか。
まずい。だれか。わたすに。ごはんを。しかし。わたすも。もはや。立派な。40歳。ちゃんと。我慢も。できるはず。絶え間なく鳴りつづける腹の音を永遠と呼ぶ前に辿り着く。椿屋。我が地元の椿屋まで。せわしくなく走り出すー柔らかな風が吹くこの場所で。途中から、心の声が、灰色の駄菓子菓子になってしまうほど、わたすの心は恋焦がれているようだ。ま ず い 。このままではグロリアスになってしまう。STOP。いまはカラオケをしている場合ではないの。腹がへっているの。余計なカロリーをつかってはだめ。自分に言い聞かす。食欲を抑えるには、まずどうしたらいいの。無。そうよ。無よ。
目を瞑ってわたすに言い聞かせる。聴こえていますか。いまあなたの心に直接話しかけています。いいですか。眠るのです。手っ取り早く眠るのです。しかし、腹がへっていると、ひとは眠れないのである。腹が満たされていないと、ひとは眠りにつけない。これは真理である(あの、わたくす、現在『チ。』に影響を受けております。感動したのであります)。まずい。このままでは、暴れてしまう。わたすのなかのわたすが。狂気を放つ。こ わ い 。手っ取り早くこの場を収めるにはどうしたらいいの。わたすの胃が空っぽなの。ムカムカしてるの。ご存知ですか。お腹がすいてるときほど、ひとは余裕がないの。これもきっと真理。抗えない欲求。だって、お腹がすいてるのだもの。
しかし、平日の昼間。電車はなんと平和なことか。そのなかでただひとり、武者震いをしている女がいる。わたすである。
オナカスイタ。早くタベタイ。食ワセロ。タベモノヨコセ。もはや、猛獣か妖怪の類である。よもや、よもや。平日の昼間の電車はおそろしい。変人奇人の巣窟である。これもたぶん、真理である(やめなさい)。そう。それはわたすだけ。こんなにあたたかくて気持ちのいい晴れの日に、いまにも暴れ出しそうな狂犬はわたすだけ。もし、もうひとりわたすがいたら、狂犬病予防の注射をすると思うの。ヤヴァイ女がいる、と。もはやお腹がすきすぎて、まったく意味がわからない。お腹がすいてなくても、意味がわからないのに。気絶。わたすは血糖値が足りんくて気絶。そうか。お腹がすいているときの文章というのは、まったく意味がわからないのか。あぁ、もうやめたい。人間やめたい。この世の苦しみから抜け出したい。一気にネガティヴになるわたす。お腹がすくということは、生命の危機なのである。
そして、時は満ちた。わたすのなかのわたすが、ついに暴れ出したのである。
ねえ、もう椿屋じゃなくてよくない? 生海苔のクリームパスタじゃなくてもよくない?
なんたる傍若無人。いままでのわたすはなんだったの。この数十分を全否定。水の泡にするつもり? しかし考える。この数十分なんぞマッジでクソみたいな時間でしかない。名案だ。わたすは次の駅のランチを検索する。決 め た 。
なんのはなしですか。
あの、
おしまい。
