営業パーソン「舐められない」マニュアル
愛嬌は必要。でも、軽く扱われてはいけない。
営業は、お客様に好かれた方がいい。(あたりまえですよね…。)
感じがよくて、話しやすくて、相談しやすい。
相手の事情を理解し、気持ちよく会話ができる。愛嬌のある営業は、それだけで大きな武器を持っています。
しかし今日はここに「待った」をかけます。

コンサルティングセールスやエンタープライズセールスの推進、いわゆる大型商談を生み出すには、「好かれる・いいやつ」だけでは足りません。
人柄はいい、話しやすい、嫌われてもいない。。。
それなのに、メールの返信は後回しにされる。
アポイントは簡単に変更される。
お願いした資料はなかなか送られてこない。
何度も追加提案を求められるのに、意思決定者には会わせてもらえない。
最後には「他社はもっと安いですよ」と、当然のように値引きを要求される。
これらは、少し乱暴な表現を使えば、舐められているのです。
このテーマは、営業において非常に重要であるにもかかわらず、あまり正面から語られません。
お客様視点ではなく、言葉が尖って聞こえるからです。
「お客様に寄り添いましょう」「相手の立場に立ちましょう」「お客様第一で考えましょう」。どれも正しい教えです。
しかし、その正しさの陰で、営業が必要以上にへりくだり、相手に迎合し、いつの間にか「何でも言うことを聞く御用聞き」になっていることがあります。
舐められないことは、威張ることではありません。相手を威圧することでも、マウントを取ることでもありません。
目指すべきは、「感じがいいのに、雑には扱えない営業」です。親しみやすいのに、一目置かれる。愛嬌があるのに、仕事にはほどよい緊張感がある。顧客視点を持ちながら、必要な場面では自分の意見を言い切る。そんな営業です。
私は営業に携わって約20年になります。これまで数え切れないほどの営業パーソンと商談を見てきましたが、舐められない人には、いくつかの共通する振る舞いがあります。今回は王道から邪道まで、できるだけ生々しく書いてみます。
大前提。営業であることに負い目を持たない
服装や髪型、言葉遣い、値引き交渉の話をする前に、まず最も重要なことがあります。
堂々とすることです。

営業パーソンの中には、商談が始まる前から申し訳なさそうにしている人がいます。「お忙しいところすみません」「営業のご連絡で申し訳ありません」「大したお話ではないのですが」「少しだけお時間をいただければ」「もしご迷惑でなければ」。
相手への配慮のつもりなのでしょうが、言葉を重ねるたびに、自分の価値を自分で小さくしています。
時間をいただいたことへの感謝は必要です。しかし、感謝と謝罪は違います。
こちらは悪いことをしに来たわけではありません。相手の課題を理解し、必要かもしれない情報を届け、まだ見えていない選択肢やリスクを示し、よりよい意思決定を支援するために来ています。
それなのに、営業であるというだけで最初から謝ってしまう。
売ろうとしていることを見透かされたくない。
相手の時間を奪っている気がする。自分の提案に本当に価値があるのか自信がない。
その負い目は、必ず態度ににじみます。
声が小さくなる。語尾が消える。質問を言い切れない。相手の意見にすぐ同意する。少し強く言われると、すぐに価格を下げる。「検討します」と言われた瞬間に、追いかけることを遠慮する。
そして、相手もそれを感じ取ります。「この営業自身が、自分の提案に確信を持っていない」と思われた瞬間、対等な商談は難しくなります。
営業が負い目を持つべきなのは、営業をしていることではありません。
準備不足のまま相手の時間をもらうこと。価値のない話を自分の都合で押しつけること。分からないのに分かったふりをすること。約束したことを守らないこと。こちらには、しっかりと負い目を持つべきです。
しかし、十分に準備し、相手の成功を考え、提供できる価値に確信を持っているなら、申し訳なさそうにする必要はありません。
お客様と営業は、持っているものが違います。
お客様は、自社の事情や課題、意思決定の権限を持っている。
営業は、専門知識、他社事例、選択肢、解決に向けた技術を持っている。立場や役割は違っても、人格に上下はありません。
感謝はする。敬意も払う。愛嬌も持つ。しかし、謝る必要のない場面では謝らない。縮こまらない。媚びない。自分の価値を、自分から安く扱わない。
営業であることを恥じている人の提案を、顧客が誇りを持って選ぶことはできません。
すべての「舐められない技術」は、この堂々としたスタンスの上に成り立ちます。
舐められると、提案の中身まで軽く扱われる
舐められることの最大の問題は、相手の態度が悪くなることではありません。こちらの提案が、正しく評価されなくなることです。

人は、提案内容だけを純粋に見て判断しているわけではありません。「誰が言っているのか」「この人は信頼できそうか」「この人の話に時間を使う価値があるか」というレッテルを先に貼り、そのレッテルを通して提案を見ています。
「この人は詳しそうだ」「よく準備している」「軽々しく適当なことを言わなそうだ」と思われていれば、同じ提案でも真剣に聞かれます。一方で、「若そうだ」「経験が浅そうだ」「頼めば何でもやってくれそうだ」「情報収集に使えそうだ」と思われてしまえば、扱いは変わります。
だからこそ、営業は第一印象を甘く見てはいけません。
勝負は提案を始める前から、もっと言えば、会議室に入る前から始まっています。
1.前髪を上げる。営業は自己表現ではなく、信頼表現である
まずはいきなりルッキズムじみたお話からいきます。
最初から賛否が分かれそうですね。
しかしです、結局見た目はかなり印象に影響するのです。
特に男性営業であれば、基本的にはおでこを出した方がいいと思っています。
前髪を下ろした髪型が悪いわけではありません。似合う人もいますし、プライベートでは自由です。しかし、営業の場では「自分がどうしたいか」より、「相手にどう見られる必要があるか」を優先した方がいい。
前髪が目にかかっている。話しながら何度も髪を触る。うつむくたびに表情が隠れる。それだけで、幼い、頼りない、自信がなさそう、という印象を持たれることがあります。
「前髪を下ろしたい」という本人側の理由が100個あったとしても、商談相手にどう受け取られるかという視点が抜けているなら、営業としては一理なしです。営業は、自分の好きな髪型や服装を発表する場ではありません。
営業は自己表現ではなく、信頼表現です。
営業における「品」とは、センスのよさではありません。自分の好みを、目的のために律する力です。
2.スーツは値段ではなく、サイジングを見る
高級なスーツを着れば舐められない、という話ではありません。むしろブランドが前に出すぎれば、相手によっては逆効果です。大切なのは価格より、サイズです。
肩がストンと落ちているジャケット。袖が長すぎて、シャツがまったく見えない。腰回りがダボついたパンツ。反対に、細すぎて太ももの線がくっきり出ているスラックス。首元が浮いたシャツ。結び目が小さすぎるネクタイ。ベルトの剣先が妙に余っている。
一つひとつは小さなことですが、人は細部から全体を判断します。
服に隙があれば、仕事にも隙がありそうに見える。持
ち物が散らかっていれば、頭の中も散らかっていそうに見える。
営業本人は「そんなところまで見られていない」と思うかもしれません。
確かに、相手も一つひとつを意識的に採点しているわけではありません。
しかし、無意識には受け取っています。
特に気をつけたいのが、商談中の机の上です。
派手な色のノート、キャラクターのついたペン、端がめくれた資料、充電コード、イヤホン、スマートフォン、交換した名刺がぞんざいに扱われる・・・。これだけで、商談の空気は少し淀みます。

小物は迷ったら、「黒」を使えば間違いありません。
黒いペン。黒のノート。主張の少ない名刺入れ。余計な装飾のないバッグ。黒を選べば必ずおしゃれになるわけではありませんが、情報量が減り、落ち着いて見えます。
舐められないことと、品は関係します。
そして、品とは高価なものを身につけることではありません。
品とは、自分を律していることです。
3.最初の10秒は、内容より動きを見られている
第一印象は、挨拶の言葉だけでは決まりません。
入室する速度、ドアの閉め方、椅子の前に立つ位置、名刺を出すタイミング、バッグを置く場所、資料を机に並べる動き。最初の10秒で、相手は驚くほど多くの情報を受け取っています。
できる営業は、動きが速い。ただし、せかせかしているわけではありません。動きに迷いがないのです。
会議室に入り、どこに座ればよいか分からず、バッグを持ったままキョロキョロする。名刺を出そうとして一度バッグを開け、見つからず、別のポケットを探す。パソコンを出してから充電がないことに気づき、ケーブルをゴソゴソと探す。こうした小さな詰まりが続くと、「段取りが悪い人」という印象が積み上がっていきます。
反対に、「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」と相手の目を見て、十分に聞こえる声で言う。
案内された席へ迷わず進む。
バッグは足元に置く。
名刺はすぐ出せる位置にある。
着席後、机の上にはパソコン、ノート、ペンだけ。この程度でも、印象は大きく変わります。
営業では、能力の前にテンポやリズムを見られます。
声が小さい。語尾が消える。返事が遅い。動きがもたつく。この状態では、立派な提案をしても、相手の頭に内容が入ってきません。
若い営業が、無理に老けて見せる必要はありません。必要なのは、「若いのに、思ったよりもしっかりしている」という加点をつくることです。
4.ホームページを見るだけでは、準備したことにならない
「商談前の準備が大切です」。これだけなら、どの営業書にも書いてあります。大切なのは、何をどこまで調べるかです。
大型商談の前に、企業のホームページやIR資料を見るのは当然です。採用ページも読む。経営者や担当役員のインタビューも探す。登壇動画があれば見る。相手がnoteやXを使っていれば、過去の発信も確認する。
しかし、これだけでは「ちゃんとした営業」の範囲を出ません。
その他大勢と差をつけるなら、もう一歩踏み込みます。
例えば、Googleマップを開く。道順を確認するためだけではありません。
ストリートビューで会社の周辺を歩きます。どんな場所に会社があるのか。本社ビルは新しいのか、歴史があるのか。周辺に工場や倉庫が多いのか。
飲食店が多いのか。駅から社員が歩く道はどこか。地方企業であれば、駐車場の広さや大型トラックの出入りまで見ることがあります。
知人にその会社を知っている人がいれば、連絡をします。
「以前、取引したことはありますか」「どんな社風ですか」「社長はどんな話を好みますか」「現場と本社の距離感はありますか」。噂話を集めるのではありません。公開情報だけでは見えない、その会社の体温を知るためです。
ある企業との商談前、その会社の周辺を調べていると、駅前で大規模な再開発が進んでいることに気づきました。商談の冒頭で「駅前がずいぶん変わっていますね。採用や通勤にも影響はありますか」と尋ねると、相手は少し驚いて、「そこまで見てきたんですか」と笑いました。
重要なのは、再開発について詳しかったことではありません。
「自分たちの会社を、そこまで理解しようとしてきたのか」と感じてもらえたことです。
商談の序盤で、「よく知っていますね」「そこまで準備してきたんですか」と言われたら、空気が変わります。こちらは単なる商品説明員ではなくなります。話を聞く価値のある人へ、一段上がるのです。
人は、自分たちを理解しようとして準備してきた人を、雑には扱えません。
5.受付に着いてからも、情報収集は終わらない
私が営業パーソン時代に、商談場所には、時間ぎりぎりで入りません。
※最近はちょっとやばいシーンもチラホラ…反省
早すぎて相手に気を使わせる必要はありませんが、少なくとも会社の近くには15分から20分前に着きます。
遅刻を防ぐためだけではありません。息を整える。汗を引かせる。鏡で髪とネクタイを見る。靴の汚れを確認する。名刺をすぐ出せる位置に移す。スマートフォンをマナーモードにする。余計な通知を切る。
そして、受付に入ってからも観察します。
壁に何が飾られているか。表彰状が多いのか。歴代商品の写真が並んでいるのか。創業者の言葉が掲げられているのか。受付の人の挨拶は明るいか。通り過ぎる社員は来客に会釈をするか。若い社員が多いか。服装は自由か。会議室にはどんな名前がついているか。
ある企業では、会議室に歴代の主力商品の名前がついていました。商談の冒頭で「会議室の名前が、全部歴代商品なんですね。御社らしいですね」と伝えると、相手はうれしそうに商品の歴史を話してくれました。そこから、会社が大切にしている価値観まで見えてきました。
営業に必要なのは、ウケる雑談ではありません。
相手の会社への敬意が伝わる観察です。
ただし、やりすぎて探偵のようになってはいけません。知っていることを全部披露する必要もありません。準備は「俺はこれだけ調べたぞ」と見せつけるためではなく、相手をより深く理解し、よい問いをつくるために行うものです。
6.「ですです」「なるほどなるほど」を封印する
言葉遣いは、想像以上に年齢と力量を伝えます。「ですです」「なるほど、なるほど」「一応」「多分」「みたいな感じで」「ぶっちゃけ」「〇〇っすね」「よろしかったでしょうか」。こうした表現が重なると、商談が一気に軽くなります。

確信犯的に口語を使うのは別です。
しかし、大型商談では、その親しみやすさが幼さとして伝わることがあります。
反対に、少し大人びた接続語を使うだけで、印象は変わります。「整理しますと」「一方で」「前提を置かせてください」「少し違う角度から申し上げると」「私の理解では」「ここまでの理解に相違はありませんか」「先ほどの話に重なるのですが」「ご容赦ください」。
難しい言葉を使う必要はありません。むしろ、カタカナを並べて煙に巻こうとする営業の方が舐められます。大切なのは、考えが整理されて聞こえる日本語を使うことです。
相手から「お若いですね」と言われたときも、必要以上に謙遜してはいけません。「いえいえ、まだ全然でして」と繰り返せば、本当に指導される側になります。
例えば、「まだまだ若輩者ではございますが、このテーマについては会社からも責任と挑戦の機会を与えていただきました。本日は、その体験も含めて情報提供出来れと考えております」と返せばいい。
若さは認める。しかし、専門性まで譲らない。
若く見られること自体は問題ではありません。問題は、「若い=頼りない」という相手の解釈を、そのまま受け入れてしまうことです。
7.質問されたら、反射的に答えない
営業は質問されると、すぐに答えたくなります。沈黙が怖いからです。
「できますか」「はい、できます」。「いくらですか」「〇〇円です」。「他社との違いは何ですか」「弊社はサポートが手厚くて……」。
回答が速いほど優秀に見えると思っている人もいます。
しかし、コンサルティングセールスではそうとは限りません。
前提を確認せず、何でも即答する人は浅く見えます。
「できますか」と聞かれたら、「できます。ただ、どの状態を実現できれば、今回のご期待を満たしたと言えるでしょうか」と聞き返す。「いくらですか」と聞かれたら、「平均すると●●円が相場です。しかしその前に、どこまでの範囲を弊社に期待されているか、認識を合わせてもよろしいでしょうか」と返す。
質問に答えないのではありません。正しく答えるために、問いを整えるのです。
少し間を取ることも有効です。「少し整理します」「二つの観点があります」「今のご質問には、短期と中長期で回答が変わります」。この数秒が、思考している人という印象をつくります。
ただし、何でももったいぶればいいわけではありません。簡単な確認にまで腕を組み、難しい顔で黙る必要はない。すぐ答えるべきことは、パッと答える。深く考えるべきことだけ、一呼吸置く。そのメリハリが、余裕になります。
8.迎合しない。ただし、反論から入らない
舐められたくないからといって、何でも否定する営業は三流です。
「それは違います」「その考え方は古いです」「御社の課題はそこではありません」。これは対等なのではなく、ただ失礼なだけです。
一方で、「おっしゃる通りです」「まさにそうですね」「よく分かります」と、すべてを肯定する営業も信用されません。相手は途中で気づきます。
この人は自分の意見を持っていない。嫌われないことを優先している。
売るために同意しているだけだ、と。
対等な営業は、まず相手の背景を理解します。その上で、必要なら異なる見方を提示します。
「そのお考えに至る背景は理解できます。一方で、現場で同様のケースを見てきた経験から申し上げると、別のリスクもあります」「確かに短期的にはその方法が速いと思います。ただ、中長期では現場に別の負荷が残る可能性があります」「耳障りのよくない話かもしれませんが、ここはお伝えした方がよいと思っています」。
舐められない営業は、強い言葉を使う人ではありません。
言いにくいことを、相手への敬意を失わずに伝えられる人です。
9.何でも「できます」と言わない
舐められる営業は、できないと言えません。
「明日までに資料を作ってください」「分かりました」。「この機能も追加できますか」「確認します」。「もう少し安くなりませんか」「社内で頑張ります」。
相手の要望に応えることは大切です。しかし、何でも引き受けると、それはサービス精神ではなく、境界線のなさになります。
大型商談では、できることとできないことを明確にする必要があります。「明日までにすべてをまとめると精度が下がります。論点整理までを明日、正式な提案を金曜日という進め方でいかがでしょうか」「その機能を追加すると、今回の目的に対して運用負荷が大きくなります。なぜ必要だとお考えか、背景を伺わせてください」「価格だけを下げることはできません。ただ、範囲を再設計して投資額を抑えることは可能です」。
断るのではなく、条件を再設計する。相手の要求に反射的に従うのではなく、目的に立ち返る。それがプロの態度です。
何でもやってくれる営業は便利です。しかし、便利な人が、必ずしも尊敬されるわけではありません。
10.値引きを頼まれたら、柔和な表情で黙る
値引き交渉は、営業が最も舐められやすい場面です。
「他社はもっと安いですよ」「もう少し何とかなりませんか」「この価格では社内を通せません」。そう言われた瞬間、焦って話し始める営業がいます。「もちろん検討します」「どれくらいなら可能でしょうか」「上司に相談してみます」。
一番最悪なのは、営業側から勝手に「勉強しますので言ってください」と価値を下げることです。
その瞬間、相手は理解します。押せば下がる、と。
値引きを求められたら、すぐに答えなくていいのです。
いったん相手の目を見て、静かに受け止める。数秒の沈黙で十分です。
怖い顔をする必要はありません。優しい笑顔のまま、落ち着いていればいい。
その上で、「率直にありがとうございます。価格そのものが論点なのか、投資対効果に確信を持ち切れていないことが論点なのか、どちらでしょうか」と聞く。あるいは、「価格を下げること自体は議論できます。ただ、何を削るかも同時に決める必要があります」と伝える。
値引きを拒否することが目的ではありません。
価格だけを切り離して交渉させないことが重要です。
安くするなら範囲を変える。期間を変える。体制を変える。条件を変える。ただ利益だけを削るのではなく、取引全体を再設計する。
笑顔は失わない。しかし、簡単には折れない。
このバランスが、舐められない営業をつくります。
11.「いつでも大丈夫です」を封印する
日程調整で、「私はいつでも大丈夫です」と伝える営業がいます。
親切な装いかもしれません。しかし、相手には「私は忙しい、相手は暇だから合わせられる」と潜在的に優位に立たれてしまいます。
忙しいふりをする必要はありません。予定を隠す必要もありません。
ただし、自分の時間にも価値があることは、自然に伝えた方がいい。
「火曜日の午後か、水曜日の午前であれば調整可能です」「今週ですと木曜日の16時以降、来週であれば月曜日に余裕があります」。候補を出せば十分です。
直前の予定変更が複数回にわたって繰り返される場合も、何でも受け入れない方がいい。
「承知しました。今回は変更いたします。次回以降、当日の変更ですと関係メンバーの再調整が難しい可能性がありますので、前日までにご連絡いただけると助かります」。
柔らかく、しかし境界線を示す。対等な関係は、最初から自然にできるものではありません。こちらの振る舞いによって、少しずつつくられていきます。
12.小さな約束を、異常なほど守る
ここまで、髪型、服装、言葉遣い、所作、値引きについて書いてきました。しかし、結局一番舐められないのは、約束を守る営業です。
「今日中に送ります」「来週の月曜日に確認します」「次回までに事例を探します」「水曜日に回答します」。こうした小さな約束を、確実に守る。
特に重要なのは、相手に催促される前に動くことです。月曜日に連絡すると言ったら、月曜日の夕方ではなく、午前中に送る。資料を送ると言ったら、ファイルを添付するだけではなく、「何ページを誰に見てほしいか」「社内で転送するとき、どう説明すればよいか」まで添える。
議事録も、会話を時系列に並べるだけでは足りません。「決まったこと」「残った論点」「双方の宿題」「次回確認すること」に分ける。相手がそのまま上司へ転送できる状態にする。こちらから次回日程の候補も添える。
ここまでやると、「もう整理されているんですね」「仕事が丁寧ですね」と言われます。そして相手の中に、「この人には、こちらもきちんと対応しなければ」という気持ちが生まれます。
人は、自分より丁寧な人を雑には扱いにくいものです。
舐められない営業は、威圧感で相手を動かしているのではありません。仕事の精度が、相手にもほどよい緊張感を生んでいるのです。
13.忙しそうに見せるのではなく、「基準がある」と思わせる
少し邪道な話もします。
営業では、相手に「この人は多くの案件を見ている」「この会社は仕事を選ぶ基準を持っている」と感じてもらうことが、信頼につながる場合があります。
ただし、忙しい自慢は逆効果です。「最近すごく忙しくて」「昨日も商談が詰まっていて」「多くのお客様から相談をいただいていて」。そんなことを言えば、かえって小さく見えます。
伝えるべきなのは、忙しさではなく基準です。
「弊社としても、どの企業様でもご支援できるわけではありません。今回のテーマで、双方が同じゴールを目指せるかを大切にしています」「成果に必要な体制が組めない場合は、無理にお受けしないこともあります」「御社にとっても弊社にとっても、中途半端なプロジェクトにはしたくありません」。
こう伝えると、相手は初めて、「こちらも選ばれる側なのかもしれない」と感じます。
もちろん、本当に断る基準を持っていなければ使ってはいけません。見せかけの強気は、すぐに見抜かれます。必要なのは、自分たちの商品を高く見せる演出ではありません。引き受ける仕事に責任と基準を持つことです。
舐められない営業が実践していること、ベスト3
ここまでの内容を整理すると、舐められない営業が実践していることは、大きく三つに集約できます。
第3位は、「隙をなくすこと」です。髪型、服のサイズ、ネクタイ、靴、ペン、ノート、机の上、言葉遣い、入室の所作。一つひとつは小さくても、隙は細部から生まれます。隙がないとは、完璧に見せることではありません。相手に余計な不安を与えないことです。
第2位は、「準備量で驚かせること」です。ホームページを読むだけでは、その他大勢です。相手の発信を読む。現地を見る。周辺環境を調べる。知人に聞く。受付で観察する。そして商談の冒頭で、「そこまで準備してきたんですか」と言わせる。準備量は、無言の敬意です。
第1位は、「自分の基準を持つこと」です。何でも同意しない。何でも引き受けない。何でも値引きしない。分からないことを分かったふりで答えない。必要なことは、相手に嫌われる可能性があっても伝える。
舐められない営業の中心にあるのは、テクニックではありません。自分の基準です。ただし、それは自分勝手なこだわりではない。お客様の成功に必要なことを、正しくやり切るための基準です。
最後に。舐められない技術は、真摯さと誠実さの上に振りかけるスパイスである
ここまで「舐められない営業」について書いてきました。
前髪を上げる。黒いペンを使う。服のサイズを整える。ハキハキと話す。すぐに答えない。迎合しない。値引きで簡単に折れない。予定を何でも合わせない。相手が驚くほど準備する。
こうした行動だけを切り取ると、強く見せるための演出に聞こえるかもしれません。
しかし、絶対に勘違いしてはいけません。
これらはすべて、真摯さと誠実さの上に成り立つスパイスです。
中身がないのに強そうに見せる。準備していないのに堂々と振る舞う。相手の事情を理解していないのに反対意見を言う。価値を提供できていないのに値引きを拒む。それは、舐められない営業ではありません。ただ感じが悪いだけです。
土台に必要なのは、相手の成功を本気で考えること。分からないことを誤魔化さないこと。約束を守ること。見えないところでも準備すること。自分の都合より、相手にとって必要なことを優先すること。
その真摯さと誠実さがあって初めて、所作や言葉遣いが意味を持ちます。
愛嬌はある。話しやすい。相談もしやすい。それでも仕事には基準がある。簡単には誤魔化せない。適当に扱うことはできない。提案を聞く価値がある。
そんな営業が、コンサルティングセールスや大型商談では選ばれます。
営業における品とは、高級品ではありません。自分の好き嫌いでもありません。目的のために、自分を律することです。
そして、舐められない営業とは、威圧感のある人ではありません。自分を律し、相手に敬意を払い、仕事の細部まで責任を持つ人です。
その姿勢が、最終的に「この人の話は、きちんと聞こう」「この人との約束は、こちらも守ろう」「この人には、重要な相談をしてみよう」という関係をつくります。
舐められないことは、相手に勝つための技術ではありません。
相手と対等に向き合い、よりよい意思決定を一緒につくるための技術なのです。
お知らせ
書籍『Sales is』『Sales is 2』
営業は、才能やセンスだけで決まる仕事ではありません。お客様を理解し、適切なプロセスを設計し、一つひとつの行動を磨くことで、再現性のある技術に変えていくことができます。
『Sales is』では、成果を生み出す営業の考え方とセールスプロセスを体系的に解説しています。そして『Sales is 2』は、セールスプロセスの中でも最重要とされるファクトファインディング™に特化した書籍です。おもしろいほど成果の出る「究極の問いの技術」を解説しています。
今回の記事でご紹介した「お客様の言葉を額面どおりに受け取らず、その背景まで理解する」という考え方も、営業を単なる話術ではなく、顧客と前に進むための技術として捉えるうえで欠かせないものです。
おかげさまで、『Sales is』『Sales is 2』はシリーズ累計約13万部となりました。営業を基礎から学び直したい方はもちろん、マネジメントや営業組織づくりに携わる方にも、ぜひ手に取っていただきたい2冊です。
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書籍を読むだけで終わらせず、営業の現場で使える技術として身につけたい方に向けて、全3回のオンライン講座「セールス・イズ アカデミア2」を開催します。
本講座では、私自身が営業の現場で培ってきた知識や技術を、具体的な商談場面や実践例を交えながら直接解説します。営業について対外的に考え方やトレンドをお伝えする機会は多くありますが、実際の現場で使えるノウハウを、公開講座として体系的にお伝えする機会はほとんどありません。
営業を改めて学び直したい方、自分の商談をもう一段磨きたい方、チームに共通言語と再現性のある営業技術を持ち帰りたい方におすすめです。
個人でも法人でもお申し込みいただけます。営業を「なんとなくできる仕事」から、「意図して成果を生み出せる技術」へ変えたい方は、ぜひご参加ください。
今井晶也について
取締役 執行役員 CMO
市場開発本部長
兼 セレブリックス営業総合研究所® セールスエバンジェリスト

セレブリックス営業総合研究所®のセールスエバンジェリストとして、法人営業・法人購買・AIを活用した営業手法など、セールスの最前線で実践的な研究活動や情報発信を行っている。
2021年に出版し、営業本のベストセラーとなった『Sales is 科学的に「成果をコントロールする」営業術』。その待望の続編として、2026年、渾身の最新作『Sales is 2:ファクトファインディング おもしろいほど成果が出る、究極の「問いの技術」』を出版。著作累計発行部数は13万部を超える。現場に即したわかりやすい解説と実践的なノウハウで、多くの営業パーソンやマネジメント層から圧倒的な支持を集めている。
現在は取締役 執行役員CMOとして、全社のマーケティング戦略を主導するとともに、新規事業の立ち上げや推進に注力。
最重要ミッションはビジネスポートフォリオの進化。
これまでセールスアウトソーシング事業や、営業コンサルティングで培った、経験、ノウハウ、ナレッジ、データ、メソッドを、データアライアンスやノウハウアライアンス事業として、ブランド・IP・ライセンス事業へと昇華させることに注力している。
営業情報プラットフォーム『YEALE』や日本最大級の営業エンターテインメント『Japan Sales Collection』など、数々の注目プロジェクトを監修・プロデュースにも関わる。
また、Everything DiSC®認定トレーナーとしての専門性を活かし、営業力の強化やプレゼンテーション技術の向上、コミュニケーションスタイルの改善指導まで幅広く活動している。
登壇講演依頼はこちらから
講演、カンファレンス、イベント等への登壇依頼を受け付けています。
大変ありがたいことに多数のご依頼をいただいているため、スケジュールや企画内容によってはお受けできない場合がございます。また、出演クレジットの表記、登壇料・出演料、各種条件について一定の基準を設けております。企画概要や開催目的、想定される参加者などを添えて、お気軽にお問い合わせください。
https://www.eigyoh.com/company_member/masaya_imai#62415b7d4f83e10a6fda7631-2c735b1499553dfb6c86f5a7
セレブリックスについて
セレブリックスは、「セールスといえばセレブリックス」と呼ばれる存在を目指し、営業という属人的になりやすい仕事を“技術”として捉え、企業の営業変革を支援している会社です。
営業は、成果を出している本人でさえ「なぜうまくいったのか」を説明しきれないことが少なくありません。経験や勘、個人の工夫に閉じやすい営業のノウハウやナレッジを、誰もが再現できるプロセスや行動、型へと変えていく。セレブリックスは、約29年間にわたり、業種・業界を問わず営業の最前線に立ち続けてきた経験から、そうした営業の原理原則を体系化してきました。
昨今では、継続的に成果を生み出せる営業組織をつくる「セールスイネーブルメント」への注目が高まっています。また、既存顧客や紹介、インバウンドを待つだけではなく、自ら仮説を立て、まだ取引のない顧客に働きかけ、大型商談や新たな提案機会を生み出す力も、これまで以上に求められています。
セレブリックスでは、独自の営業フレーム「コンサルティングセールスプロセス(CSP®)」「BLUE MODEL™」をはじめとする体系的なノウハウを活用し、特定のトップ営業だけに依存せず、組織として新規商談や提案を生み出せる仕組みづくりを支援しています。
その方法は一つではありません。営業アウトソーシングという形で、私たち自身がお客様の最前線に入り、実際に営業活動を行いながら変革を牽引することもあれば、コンサルティングやトレーニングを通じてノウハウを移植することもあります。さらに、営業の知識や判断基準をAIに学習させるためのデータや、営業ツール・アプリケーションに組み込むことで、日々の業務プロセスそのものにセレブリックスの知見を実装していく支援も行っています。
また、その対象は法人営業だけではありません。個人営業、リテール・流通領域における販売支援、人材紹介、営業力やコミュニケーション力を活用した各種BPOなど、「売る」「伝える」「人を動かす」という技術を起点に、さまざまな事業を展開しています。
外側から正解を語るだけではなく、お客様の内側に入り、最前線で一緒に実践しながら、営業の技術や仕組みを実装していく。そして企業の収益向上を生み出すエンジンになる。
セレブリックスは、そんな「セールス エンジニアリング」を追求している会社です。
https://www.eigyoh.com/
