見出し画像

奥日光のタヌキ

タヌキ(狸・ホンドタヌキ、北海道はエゾタヌキ)は昔話や伝承で馴染み深く、山奥や山里に棲む動物ではあるが、市街地にも適応して繁殖しているし、標高1200mを超える奥日光にも生息している。
タヌキは夜行性で、奥日光では見る機会は少ない。奥日光では生息数が限られているのかもしれない。雪上に残された足跡を観察しても、シカを初めキツネやテンがほとんどで、タヌキと思われる足跡は少ない。
北海道のエゾタヌキは、厳しい冬に備えて脂肪を蓄え、キタキツネが掘った巣穴などに入ったまま、極寒の冬は余り活動しないで過ごすようだ。冬眠するわけではないから、穏やかな夜には巣穴から出ることもあるだろうが、奥日光のタヌキも同じような生活をしているのだろう。

タヌキの毛皮は暖かく、捕らぬ狸の皮算用と言われるほど、かつては珍重され、乱獲で数を減らしたこともあったようだ。他の動物よりも綿毛が綿密で、濡れても倒れない保温性に優れた刺毛もたくさん生えているから、奥日光の寒さにも十分に耐えられるだろう。

雪が解け始めた暖かい日、餌を探して鼻を地面に近づけながら歩くタヌキに出会った。 ©nishiki atsushi
冬毛がふさふさしている。私が動かないでいると、こちらを不思議そうに見た。 ©nishiki atsushi


私が見た奥日光のタヌキは光沢のある毛並みで、奥まった小さな瞳が光っていた。奥日光の豊かな植物や果実、昆虫、ミミズなど何でも食べて逞しく生きて来たのだろう。
こちらを見る瞳には野生を感じた半面、足の短いふんわりとした体型には親しみを覚え、これからも見守りたいと思った。タヌキが去ったあと、タヌキを見た場所の近くに足跡があったので記録に残し、奥日光で命を繋ぐ厳しさに思いを巡らせたりした。

タヌキの足跡だろうか。大きさ3〜4cm、掌球の先に指球が4つあり爪の跡が見られる。 ©nishiki atsushi


不思議なことに、タヌキをムジナと呼ぶ地域があれば、別の地域ではアナグマをムジナと呼んでいたりする。
例えば、北海道なら、ムジナと言ったらタヌキを指すことになる。北海道にはアナグマはいないからだ。また、長野県ではムジナはアナグマのことだ、と聞いたことがある。
奥日光にはムジナクボという地名があり、地図上に「狸窪」と表記し〈むじなくぼ〉とルビが振ってある。不思議な地名だが、この地域は「ムジナ=タヌキ」としていることが分かって面白い。奥日光にタヌキがたくさん棲んでいたのだろう。タヌキが棲むような窪みがあったのだろうか。


〝ムジナ(貉)〟という言葉には独特な響きがあり、不思議な生き物の気配を感じてしまう。ムジナのイメージは幅広く、新潟県の「真人(まっと)むじな」や山形県の「むじなの御所」「むじな御所」と呼ばれる岩穴や洞の場所が伝説とともに実際にあったり、日本各地に伝承された民話が残っている。また、人をだます妖怪としても描かれ、小泉八雲が著した『怪談』に「むじな」が載っているのも興味深い。
なお、夜道で小魚を置いた荷物がいつの間にか消え、それはムジナ(アナグマやタヌキ)の仕業、という俗話がある。それは、動物の俊敏さから判断した場合、ムジナ(アナグマやタヌキ)よりも、テンかイタチ、あるいはキツネが適合するのだが、ムジナという獣の仕業にしている。「ムジナ」は、単にアナグマやタヌキではなく、謎の獣という意味合いが含まれて人々に伝っている。

奥日光のアナグマ。姿や大きさはタヌキと同じようで、どちらも動きが穏やかな印象がある。タヌキは目の周りが黒くてアナグマは上下に黒い。 ©nishiki atsushi


ゆめのtan! へ

体型が似ていても、タヌキ(Japanese badger)はイヌ科、アナグマ(raccoon dog)はイタチ科だから、違う仲間。

イヌの前足の指は、地面に接する場所に4本。加えて、離れた場所に1本の指(狼爪・ろうそう)がある。
後足の指は4本。(種類によっては1本の狼爪が加わる)
──犬を飼っているから、わかるよね。

イヌと同じ仲間のタヌキは、前足の指は5本で、親指が地面につかないため、足跡は4本になる。後足の指は4本。
──イヌと同じだね。

一方、アナグマの足跡は、5本の指が並ぶ。タヌキやキツネより横幅が広く爪が長く鋭い。上手に土を掘り長い巣穴を作るよ。
アナグマは本州、四国、九州に棲んでいる日本固有種で、北海道には棲んでいない。


いいなと思ったら応援しよう!