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真っ赤なジャンパーの夫へ

病院で、いちばん目立っていた人がいました。

ロン毛を後ろで結び、
真っ赤な新日本プロレスのジャンパーを着て、
毎日病室へやって来る男性です。

その人は、私の夫でした。

夫と私は、プロレスが好きだ。

格闘技という
新しいカテゴリーができる前。
まだ馬場選手がご存命だった頃までが、
私の知るプロレスのピークである。

華麗な技を決める選手も好きだ。

けれど私は、
愚直に相手の技を受け止める選手にも惹かれる。

技をかける側より、
受ける側のほうが、
じつは体力もセンスも必要だったりする。




全日本プロレスか、新日本プロレスか。

どちらにも好きな選手はいるけれど、
強いて言えば、私は全日派だ。

それなのに、周囲からは
私たち夫婦は『新日びいき』だと
思われているかもしれない。

なぜなら、
私が入院していた病院へ面会に来るとき、
夫がいつも
新日本プロレスの真っ赤なジャンパーを着ていたからだ。




夫は画家で、会社勤めではない。

だから仕事の時間に縛られない。

面会時間が始まると同時にやって来て、
終わるギリギリまで病室にいた。

ロン毛を後ろで一本に縛り、
背が高く、
骨太で、がっしりした体格だ。

しかも、いつも真っ赤なジャンパー。

特徴が多すぎて、
初対面では少し身構えられるかもしれない(笑)

けれど、その外見からは想像できないほど、
夫は穏やかな人だ。

私のベッド脇の椅子に座り、
静かに過ごしている。

それほど社交的ではないけれど、
話してみると自分の考えをしっかり持っている。

そして案外、おもしろい。




毎日やってきて、
婦人科病棟をうろうろしている、
真っ赤なジャンパーの男。

そんな夫は、やがて有名人になった。

「だんなさん、来てるわよ」

先に病室まで
教えに来てくれる患者仲間も現れた。

看護師さんからも、

「こんにちは」

と、私より先に挨拶されるようになった。




ただし、ときどき看護師さんから、

「ご主人は、外で待っていてもらえますか?」

と言われることもあった。

夫は一度、病室で倒れたことがある。

私が採血されている様子を見て、
崩れ落ちたのだ。

血が苦手なのである。

私は知っていた。

けれど治療で頭がぼんやりしていて、
看護師さんにそのことを伝える力がなかった。

見なければいいのに、と思った。

でも本人なりに、頑張ってみたらしい。

結果、撃沈。

「皿」という字を見ただけで
「血」を想像し、
真っ青になるほど苦手な人なのに。

無謀なことを(笑)




毎日、毎日。
猛暑日も。
雪がちらつく日も。
ゴールデンウィークも。

どうしても
仕事で来られない日をのぞいて、
夫は病院へ通ってくれた。

やがて私は、
遠くから聞こえる足音で
夫がわかるようになった。

「今日も来てくれた」

それだけで、元気が出た。

また今日も、
治療に耐えられると思えた。

あらゆる治療を、
病室の椅子から、夫は見守っていてくれた。

真っ赤なジャンパーを着て。




数日前、私は子宮頸がんの
寛解6年目を迎えることができた。

手術を受けられないほど病状が進んでいたところから、
ここまでたどり着けたのは、
奇跡としか思えない。

支えてくれた家族、
医療スタッフの皆さん、
そして大勢の方の応援があってこそ。

そして何よりも、
私の脳裏に焼き付いているのは。

真っ赤なジャンパーで、
毎日病室の椅子に座り続けてくれた夫の姿だ。

あらためて、
ありがとうございました。




※闘病中の暮らしや食事については、こちらのマガジンにまとめています。













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