【応募作品】『線香花火が落ちる前に』(夏休み) SKY様 虹色創作部
その夏、私は十四歳になった。
毎年、家族で訪れていた母の実家の小さな港町。
その年の母の実家は、何もかもが違って見えた。
空の色も、波の匂いも。
風の囁きさえも。
そして、ふたつ年上の従兄・蒼の笑い声も。

蒼くんは高校一年生。
去年まで一緒にスイカを食べて、タネを飛ばして遊んでいた彼が、今年はどこか大人びて見えた。
焼けた肌、細く伸びた手首、低くなった声。
目が合うたび、胸がざわついた。
言葉が喉に引っかかって、顔が熱くなる。
「どうしたの? また日焼けしたの?」
からかうように笑うその顔が、くやしくて、でも少し嬉しくて。
私の中に、見たことのない感情が芽生えていった。
ある晩、海辺で花火をした。
家族が先に帰って、ふたりだけが残った。
小さな線香花火に火をつけた蒼くんが、私の手をとって、そっと火を移す。
その指が触れた瞬間、何かが弾けた感じがした。
「……おまえ、手、小さいな」
「当たり前でしょ。子どもなんだから」
「……子ども、か。じゃあさ…」
蒼くんは、言いかけてやめた。
代わりに、私の髪に指を入れて、ひと房すくった。
「これ、潮風で絡まってる」
その言葉に、身体が硬くなる。
彼の指が髪から首筋へ、そっと触れた。
火照った肌に、かすかな熱が移る。
「……ドキドキしてる?」
彼の囁きに、心臓が跳ねる。
「してない」と言おうとして、声が出なかった。
沈黙の中、ふたりの線香花火だけが勢いよく火花を飛ばす。
牡丹玉が落ちるまでの数秒。
緊張の時間。
ひどく長く感じる。
「動いたら……」
そのとき
彼の唇が、私の耳の下に、ほんのわずか触れた。
「……また来年、会えるかな」
「会えるよ。毎年来てるもん」
「そっか。でもさ、来年のおまえ、きっと全然違う顔してる」
言葉の意味がすぐにはわからなかった。
でも、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
線香花火の余韻とともに、ふたりは無言で家へ戻る。
私は何もなかったような顔で、あの海辺の火照りをずっと抱いたまま、ちょっと後ろをついていく。

八月の夜風は、髪をほどいていく。
あのとき触れられた部分だけが、ずっと夏の温度を残し続ける。
作者紹介!
SKYさんの描く人間描写はいつもやさしく丁寧で、線香花火の切ない描写と合わさってきゅんとしてしまいます。
「月2回の恋人たち」連載中!初々しい2人の関係のゆくえは!?
編集部より
2歳年上の従兄ってそれ絶対好きになっちゃうやつじゃん。
口数少ない彼と、素直になれない主人公にキュンとさせられてしまいました。
勢いよく火花をあげる線香花火に二人の気持ちをのせられていますでしょうか?しのぶ
おまけ


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