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【応募作品】『ぼくは川のさかな ― 納涼の夜に』 SKY様 虹色創作部


 ぼくは川のさかな。名前は、まだ決まっていないけれど、冷たい流れが背びれをくすぐるたび、「ここにいるよ」と川が呼んでくれる。昼間の強い陽ざしが去り、夜風がそっと水面を撫でるころ、川の中はふわりと涼しくなる。人間はそれを“納涼”って言うらしい。

 橋の上から灯る提灯が、水の上で赤い波模様をつくる。ぼくは腹びれでそっと押し返しながら、その光のゆらぎをくぐり抜ける。少し上では、浴衣の子どもたちが氷菓子をかじって「冷た~い!」と笑っていた。味はわからないけれど、その声だけで、ぼくの鱗までひんやりする。

 チリン、と風鈴が鳴った。水を通して届くその揺れは、ごく小さな波紋になって、ぼくの側線をトントンと叩く。思わず尾びれが揺れて、泡が星みたいに立ちのぼる。音に誘われるように、仲間の稚魚たちも集まり、ゆっくり円を描きはじめた。まるで水底のダンスホール。みんな、ただ泳いでいるだけなのに、涼しさが重なって、胸びれの動きまで軽くなる。


 ふと、白いものがひとつ、橋の上からポトリと落ちてきた。少女が落とした小さな氷のかけら。ぼくは衝動的に近寄り、頬に触れてみる。つめたくて、すぐに溶けてしまうけれど、その一瞬で昼の熱がすうっと消えていく。冷たさって、こんなに優しいんだね。

 氷が溶けきるころには、風鈴の音もゆっくり遠ざかり、川面に映る月が静かに伸びていた。ぼくは深いほうへ戻りながら、胸びれで水を抱き寄せる。涼しさは外から来るだけじゃない。こうして夜の水を吸い込むたび、体の奥に小さな風が吹きこむみたいに、熱がほどけてゆく。

 明日はまた暑い日が来るだろう。でも、夜になれば川はきっと涼しい呼吸を思い出す。だから大丈夫。ぼくたちは流れといっしょに、涼しさのリズムを何度でも繰り返す。――それが、ここで生きるぼくの“納涼”だ。


編集部より

魚目線の納涼作品でした!夏の昼間は水も生ぬるかったりしますよね。優しい冷たさという表現が心に残りました。
可愛らしい魚のイラストって難しいですね。子供と絵本を読んで勉強しようと思いました。デジタルぽくしても面白いかもしれません。
ぜひまたよろしくお願いします。しのぶ


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