KDDI、株主総会の賛同率が語ること。2つの不正から見る「信頼の値段」
KDDIは、25期連続増配という実績を持ち、高配当株として名前が挙がることの多い会社です。
ただ、この半年、KDDIグループでは大きな問題が相次いで発覚しました。子会社の巨額不正会計と、大規模な情報漏えいです。「優良な高配当株」というイメージは、もう崩れてしまったのでしょうか。
今回は、印象論ではなく、会社側の対応と株主自身の評価という、客観的に確認できる事実を積み上げて考えます。
結論
2つの事件は、性質が異なります。1つは子会社の従業員が主導した「内部の不正」、もう1つは外部からの「サイバー攻撃の被害」です。
ただ、今回さらに重要な事実が見えてきました。KDDIは2015年にも、海外子会社の不正会計を経験しています。つまり今回の不正会計は、初めての出来事ではありません。この「再発」という事実は、ガバナンスを評価するうえで、最も重く見るべき点です。
一方で、KDDIは今回、190社を超える連結子会社を横断的に監視する新しい組織を実際に立ち上げ、取引に関わった企業への提訴も始めています。対応のスピードと具体性という点では、評価できる動きも出ています。
2026年6月の株主総会では、会長・社長の取締役選任案への賛同率が、前年の9割超から62.34%・77.67%まで落ち込みました。これは、株主自身が「まだ完全には信頼していない」と、数字で示した結果です。「信頼が崩れた」と結論づけるより、「株主から仮免許を与えられている状態」というのが、今の実態に近いと考えます。
1つ目の事件:子会社の巨額不正会計
2026年1月、KDDIの連結子会社ビッグローブと、その子会社ジー・プランで、巨額の不正が発覚しました。
手口は「循環取引」です。実在しない広告主を装い、複数の代理店の間で発注と受注を繰り返すことで、実体のない売上を作り出していました。2017年度から約7〜9年間続き、広告代理事業の売上のうち99.7%が架空だったと認定されています。累計の売上高取り消し額は2,461億円、営業利益の下振れは累計1,508億円、外部への流出額は329億円にのぼります。
特別調査委員会は、不正を主導したのは元従業員2名で、経営陣の組織的な関与はなかったと結論づけています。動機は、事業が振るわず撤退の恐れがあったなかで、赤字の穴埋めと売上目標達成のためだったとされています。
この件を受け、ビッグローブとジー・プランの社長は辞任し、関与した元社員2人は懲戒解雇となりました。松田浩路社長も月額報酬の30%を3か月間、自主的に返納しています。KDDIは6月17日、取引に関わった21社のうち数社を相手に損害賠償を求める訴訟を提起したことを明らかにしました。
2つ目の事件:大規模な情報漏えい
2026年6月、KDDIがインターネット接続事業者(ISP)向けに提供しているメールシステムで、不正アクセスが発生しました。
対象は、ニフティ、ビッグローブ、J:COMなど6事業者のメールサービスで、最大1,422万件のメールアドレスとパスワードが漏えいした可能性があるとされています。原因は、システムで使われていた外部製ソフトウェアの脆弱性を悪用されたことです。
こちらは社内の不正ではなく、外部からの攻撃による被害です。KDDI自身が運営するau・UQ mobileのメールサービスは別基盤で管理されており、直接の影響は受けていません。
この不正は「初めて」ではなかった
ここが、今回の評価で最も重要なポイントです。
KDDIは2015年にも、海外子会社であるDMX(シンガポール上場、システムインテグレーション事業)で、不適切な会計処理が発覚しています。当時も外部調査委員会が設置され、子会社管理の甘さが原因の一つとして指摘されました。
つまり、今回の不正会計は、KDDIグループにとって「初めての子会社不祥事」ではありません。2026年6月の株主総会でも、株主から「2015年の件を受けたグループのガバナンス体制はどうなっていたのか」と、名指しで問いただす声が出ています。
同じ種類の問題が10年の間隔を置いて繰り返されたという事実は、「今回だけの不運な出来事」ではなく、「子会社を管理する仕組み自体に、構造的な弱さがある」可能性を示しています。これは、単発の不祥事よりも重く受け止めるべき点です。
会社側は何を変えようとしているか
一方で、今回の対応には、具体的な動きも見られます。
KDDIは2026年6月1日付で、社内に「ガバナンス推進本部」を新設しました。これまで分散していた財務ガバナンスやリスクマネジメント、グループ会社支援の機能を一元化し、190社を超える連結子会社の財務状況を横断的に監視する体制を整えたとされています。ビッグローブの管理体制についても、主担当1名に依存していた状態から、大幅に人員を増強したという説明がされています。
特別調査委員会が提言した再発防止策は、取引先管理の強化、購買業務での権限分離、新規事業のリスク管理強化、監査機能の強化など、7項目にわたります。あわせて、財務報告に係る内部統制について「重要な不備」があったことを認め、過年度の内部統制報告書を訂正するという、通常はなかなか踏み込まない対応も取っています。
なお、KDDI本体の通信事業(au、UQ mobileなど)は、今回のどちらの事件でも直接の影響を受けていないと説明されています。連結決算への影響はありますが、事業の稼ぐ力そのものが損なわれたわけではありません。
市場は実際にどう評価したか
ここで、印象ではなく、実際に株主がどう判断したかを見てみます。
2026年6月17日の定時株主総会で、取締役選任案への賛同率が公表されました。高橋誠会長の選任への賛同は62.34%、松田浩路社長は77.67%。報道によれば、これはともに前年の9割超から大幅に低下した数字です。
株主総会での賛同率は、実際にその会社の株を持っている人たちが、経営陣にどれだけの信任を置いているかを示す数字です。ただし、ここで注意したいのは、選任案そのものは可決されているという点です。株主は「経営陣を退場させるべきだ」とまでは判断していませんが、「無条件で信頼する」という状態からは、明確に後退しています。いわば、株主から条件付きの信任、仮免許のようなものを与えられている状態だと言えます。
それでも投資対象として見ていけるか
ここまでの事実を踏まえると、KDDIの現状は、単純な「安全」でも「危険」でもない、中間的な評価になります。
懸念材料として重く見るべき点
同種の子会社不祥事が2015年、2026年と、10年の間隔で2度発生している
情報漏えいも含め、半年の間に性質の異なる問題が連続して発覚している
株主総会での賛同率低下は、株主自身が抱く懸念を数字で示したものである
評価できる点
ガバナンス推進本部の新設など、具体的な組織的対応が取られている
取引に関わった企業への提訴など、法的な回収努力も進めている
KDDI本体の通信事業そのものは、今回どちらの事件でも直接の損害を受けていない
選任案は可決されており、株主の大多数は経営体制の即時刷新までは求めていない
高配当株・連続増配株としての実績は、あくまで過去の実績です。「優良な高配当株」というイメージだけで判断を止めず、今後、次の点を継続して確認していく必要があります。
次回以降の株主総会で、賛同率が回復するか、さらに下がるか
新設されたガバナンス推進本部が、実際に機能しているか(次の不祥事が起きないかどうかで判断される)
通信事業本体の業績や配当方針に、実際の影響が及ぶかどうか
まとめ
KDDIに起きた2つの事件は、性質は異なるものの、子会社を含めたグループ全体の管理体制の甘さを浮き彫りにしました。しかも、同種の問題が2015年にも起きていたという事実は、「今回限りの不運」ではなく、構造的な課題である可能性を示しています。
一方で、通信事業本体は無傷であり、会社側も具体的な組織改革に着手しています。株主総会での賛同率低下は、株主自身がこの状況に下した、条件付きの評価です。「優良な高配当株」というイメージは、今は保留の状態にある。次の株主総会と、再発防止策が実際に機能するかどうかが、このイメージを取り戻せるかを決める分岐点になると考えます。

