電力株、利回りだけで選ぶと痛い目に。10社を分ける「原発」と「配当継続力」
電力株は、地域独占に近いビジネスモデルという安心感から、高配当株の候補として名前が挙がることがあります。ただ、実際に10社を並べてみると、原発の稼働状況や燃料費の負担の仕方、そして配当を出し続けられるかどうかによって、状況にはかなりの差が出ています。
今回は、電力10社を比較しながら、業績を左右する2つの仕組み(原発の稼働状況、燃料費調整制度)を整理し、高配当株として見たときにどう位置づけられるかを見ていきます。
結論
大手電力10社のうち、2026年3月期に最終赤字となったのは東京電力ホールディングスだけです。福島第一原発事故に関連する災害特別損失9,138億円などを計上したことが主因で、親会社株主に帰属する当期純損益は4,542億円の赤字となりました。配当は2011年から見送りが続いており、2027年3月期も中間・期末とも0円という予想がすでに示されています。
東電を除く9社は、2026年3月期も最終黒字を確保しています。ただし、電力各社の実績を見ると、燃料費調整額や販売量の減少などを背景に、多くの会社で減収となっており、会社によって増益・減益の差がはっきり分かれています。たとえば関西電力は、2026年3月期の経常利益が前期比2.5%減となる一方、2027年3月期はさらに44.1%減という厳しい見通しを示しています。燃料価格の先行きが不透明なこともあり、業績予想を未定としている会社もあります。
原発を多く稼働させている会社ほど、火力燃料費の負担が軽くなる傾向がありますが、それだけで業績が決まるわけではありません。実際、原発を再稼働させた会社でも、地域の販売競争が激しければ、その効果が販売減で相殺されてしまうケースも出ています。
業績を左右する2つの仕組み
まず、電力会社の業績を理解するうえで欠かせない、2つの仕組みを押さえておきます。
1つ目は、原発の稼働状況です。
電力会社は、原油やLNG(液化天然ガス)、石炭を燃やす火力発電に頼る割合が大きいほど、燃料費の負担が重くなります。原子力発電所を稼働できれば、その分火力発電に頼る割合を減らせるため、燃料費を抑えられます。
なお、原発の運転状況は、定期検査による一時停止や、新たな再稼働によって、時点ごとに変わります。最新の状況は、原子力規制委員会の発表や各社のIR情報で確認するのが確実です。足元では、関西電力が国内最多の原発を稼働させており、東京電力の柏崎刈羽原発も、2026年に6号機が営業運転を再開したばかりという段階です。
2つ目は、燃料費調整制度です。
これは、火力発電の燃料価格の変動を、2〜5か月ほどのタイムラグを置いて、毎月の電気料金に自動的に反映させる仕組みです。燃料価格が上がれば電気料金も上がり、下がれば電気料金も下がります。
ただし、家庭向けなどの規制料金には、この反映幅に上限が設けられています。燃料価格が急騰して上限を超えた場合、その超えた分は電気料金に転嫁されず、電力会社が自ら負担する「逆ザヤ」の状態になります。過去に燃料価格が高騰した局面では、この逆ザヤによって電力会社の業績が大きく圧迫された時期もありました。
この2つの仕組みが組み合わさることで、同じ「電力会社」でも、原発をどれだけ稼働できているか、燃料調達をどう工夫しているかによって、業績に差が生まれます。
東京電力は、なぜ突出して厳しいのか
10社の中で、東京電力だけが最終赤字となっている背景を、もう少し詳しく見ておきます。
東京電力は、福島第一原発事故に関連する災害特別損失9,138億円、原子力損害賠償費827億円などを計上しました。この事故関連の費用負担は、震災から10年以上経った今も続いています。
配当については、2011年3月期以降、継続して見送られており、2027年3月期についても、中間・期末とも0円という予想がすでに示されています。柏崎刈羽原発の再稼働が進めば、火力燃料費の圧縮を通じて収益改善が期待されるものの、それが配当の再開に直結するかどうかは、まだ見通しにくい段階です。
東電以外の9社も、一様ではない
東電を除く9社は最終黒字を確保していますが、内容にはばらつきがあります。
原発の再稼働が進んでいる会社では、燃料費の圧縮という追い風があります。ただし、その効果がそのまま増益につながるとは限りません。地域によっては、新電力との販売競争が激しく、原発再稼働による燃料費の節約分が、販売電力量の減少によって相殺されてしまうケースも見られます。
また、前期に猛暑や厳冬で電力需要が伸びた反動、物価高による経費の増加なども、各社の業績に影響しています。関西電力のように、2026年3月期は経常減益にとどまったものの、2027年3月期はさらに大きな減益を見込む会社もあり、燃料価格や電力需要の先行きが不透明なことから、業績予想そのものを示していない会社もあります。
つまり、東電以外の9社をひとまとめに「黒字だから安心」と見るのではなく、原発の稼働状況、地域の販売競争、財務の健全性を、会社ごとに分けて確認する必要があるということです。
10社それぞれの立ち位置
ここで、10社それぞれに、ひと言ずつ触れておきます。あくまで、これまで確認してきた事実からの位置づけであり、買う・買わないの判断ではありません。
東京電力ホールディングス:配当は長期にわたって見送りが続いており、震災関連費用の負担も重い。柏崎刈羽の再稼働は収益改善の材料だが、それが配当再開につながるかはまだ見通せない。高配当株としては、当面は対象外の会社。
東北電力:女川原発の再稼働が進み、燃料費の圧縮という追い風がある。原発再稼働のプラス効果が、業績にどこまで表れてくるかを確認したい会社。
中部電力:自己資本比率の高さなどを理由に、電力株の中でも財務の安定感を評価する見方がある。長期で腰を据えて持つタイプの投資家に、選択肢として挙がりやすい会社。
北陸電力:志賀原発は、能登半島地震を受けた再点検を経て審査が再開された段階。再稼働までの道のりはまだ長く、原発による収益改善効果はこれから先の話になる会社。
関西電力:国内最多の原発稼働基数を持ち、燃料費の負担という面では他社より有利な立場にある。ただし、2027年3月期は大幅な減益見通しも出ており、原発の強みだけでは業績の下振れを避けきれない局面もあることが分かる会社。
中国電力:島根原発の再稼働があったものの、法人向け販売の競争激化が響き、減益となった。原発再稼働の効果が、販売競争によって相殺されうることを示す会社。
四国電力:伊方原発の稼働日数は増えたが、それでも販売競争の影響で減益が続いている。中国電力と並んで、「再稼働だけでは業績を守れない」ケースにあたる会社。
九州電力:原発の稼働率低下という逆風がありながらも増益を確保し、配当も維持している。逆風下でも踏ん張れている会社として、事業体質を確認する価値がある会社。
北海道電力:泊原発の再稼働に向けた手続きが進行中で、再稼働後には規制料金の値下げ方針も示されている。今後の再稼働の進展そのものが、業績と料金の両方に直結する、変化を控えた会社。
沖縄電力:原発を持たず、火力発電が中心。燃料価格の影響を受けやすい構造そのものが、他の9社との一番の違いになる会社。
こうして並べると、同じ「原発再稼働」という好材料が出ても、それがそのまま業績に結びつく会社と、販売競争などで打ち消されてしまう会社があることが分かります。1社だけを見て判断するより、この10社の違いを踏まえたうえで、自分がどの要素(財務の安定感、再稼働の進捗、配当の継続力)を重視するかを、まず決めておくとよいと思います。
高配当株として見たとき、どう位置づけられるか
ここまでの内容を踏まえて、高配当株という目線で電力株をどう見るかを整理します。
まず、東京電力は、高配当株の候補から外れます。配当が長期にわたって見送られているうえ、震災関連費用の負担が重く、株主還元の再開時期も読みづらいからです。
残る9社の中では、単純に配当利回りの数字だけで選ぶのではなく、財務体質、原発稼働の状況、燃料費調整の影響、販売競争の激しさを、それぞれ分けて見る必要があります。証券アナリストの中には、財務の健全性(自己資本比率の高さ)を理由に、電力株の中でも特定の1社を長期の高配当候補として評価する見方もあり、配当利回りの高さだけで判断しないという視点は参考になります。
まとめ
電力10社は、地域独占という共通点を持ちながらも、原発の稼働状況、燃料調達の仕組み、地域の販売競争の激しさ、そして震災関連費用の有無によって、状況にはっきりとした差が出ています。
東京電力は、震災関連の費用負担から抜け出せておらず、当面は配当も見込めません。他の9社は配当を継続しているものの、原発の再稼働が業績や配当にどこまで結びついているかは、会社ごとに濃淡があり、来期の見通しを示していない会社もあるほど、先行きには不透明さも残っています。
電力株を高配当株として検討するなら、配当利回りの数字だけを見るのではなく、その利回りが実際の利益に裏付けられているか、財務体質は安定しているか、そして今後の業績見通しがどこまで明らかになっているかまで確認したうえで判断することが大切だと思います。

