北尾吉孝という経営者。SBIを大きくした実行力と、摩擦を生む手法
SBIホールディングス(8473)は、2026年3月期の連結最終利益が前期比2.6倍の4,275億円と、4期ぶりに過去最高益を更新しました。13期連続増収という実績も持っています。
この会社を現在の金融グループへ育て上げた中心人物が、会長兼社長の北尾吉孝氏です。今回は、北尾氏がどのような手法でSBIグループを成長させてきたのか、その手法にはどんな評価と懸念があるのか、そして関連する銘柄をどう見ればいいのかを整理します。
結論
北尾氏は、野村證券、ソフトバンクを経て1999年にSBIの前身を設立し、証券、銀行、保険、暗号資産まで手がける一大金融グループへと育て上げました。M&Aや事業提携を積極的に仕掛け、時には敵対的な手法もいとわないスタイルが特徴です。
このスタイルは、業績という結果には確かに表れています。2026年3月期は、住信SBIネット銀行株式の譲渡益なども寄与し、親会社所有者帰属利益が4,275億円と大きく伸びました。一方で、対立や強い言葉を使う交渉スタイルは、必ずしも一貫して市場や株主から支持されているわけではありません。実際、2025年にフジ・メディア・ホールディングスの経営改革案を発表した際には、その後の株主総会で、北尾氏を取締役に選ぶ株主提案が、賛成3割にも届かず否決されています。
つまり、北尾氏の経営手法は「業績を伸ばす実行力」と「摩擦を恐れない強引さ」が表裏一体になっているといえます。どちらか一方だけを見て評価するのではなく、両方を踏まえたうえで、SBIグループを見ていく必要があります。
どんな経歴の経営者か
北尾氏は1951年生まれ、慶應義塾大学卒業後に野村證券に入社し、その後英国ケンブリッジ大学に留学しています。野村證券では、企業のM&Aや株式公開を手がける部署で経験を積みました。
1995年、孫正義氏に招かれてソフトバンクに移り、常務取締役としてソフトバンクグループの急成長を支えました。1999年、ソフトバンクの金融部門としてソフトバンク・インベストメント(現SBIホールディングス)を設立し、代表取締役社長に就任。2006年にはソフトバンクグループとの資本関係を完全に解消し、独立した企業グループとしての道を歩み始めました。
野村證券での実務経験、ソフトバンクでの急成長企業の経営経験。この2つを土台に、北尾氏は独立後、金融とインターネットを組み合わせた事業モデルを一貫して追求してきました。
具体的な成功事例:新生銀行の買収
北尾氏の手法を象徴する出来事として、2021年の新生銀行(現SBI新生銀行)に対する買収があります。
SBIホールディングスは、事前の通告なしに新生銀行への株式公開買付け(TOB)を仕掛けました。日本の金融業界では極めて異例とされる、事実上の敵対的買収です。この過程で、北尾氏は当時の新生銀行の社長を「信義にもとる男」などと公の場で繰り返し批判しました。
ただし、最終的には態度を変え、新生銀行の社長を自社に招いて丁重に迎え、TOBを成立させています。買収防衛策が撤回された背景には、大株主である国(預金保険機構など)の賛同が得られなかったことも大きく影響したとされていますが、結果として新生銀行はSBIグループの一員となりました。
その後の歩みも、この事例を理解するうえで欠かせません。2023年、SBIは新生銀行を完全子会社化し、いったん上場廃止としています。非上場化によって意思決定のスピードを上げ、経営再建と、長年の懸案だった公的資金の返済に集中する狙いがあったとされています。そして2025年、再上場の申請を経て、東証プライム市場への再上場を果たし、公的資金約2,300億円の完済にもこぎ着けました。
敵対的買収から始まり、いったん市場から姿を消し、経営を立て直したうえで再び市場に戻ってくる。この一連の流れそのものが、北尾氏の交渉スタイルと実行力を映し出す、代表的な事例だといえます。
もう1つの取り組み:地銀連合構想
北尾氏は、経営が厳しい地方銀行に出資し、業務提携を進める「地銀連合構想」も掲げています。地方銀行にSBIグループのノウハウやシステムを提供することで、地域金融機関の立て直しを図るという構想です。
ただし、この構想もすべてが順調に進んでいるわけではありません。2026年5月の決算会見で、北尾氏は資本業務提携を解消した筑邦銀行について、「業務を進める中で、うまくいっていることについてコミュニケーションがなかった」「筑邦銀行には何一つしてもらうことはなかった」と、公の場で名指しで批判しています。
提携がうまくいく銀行もあれば、関係が解消される銀行もある。この構想も、新生銀行のケースと同様に、対立を辞さない姿勢が伴っていることがうかがえます。
手法への懸念:フジテレビ改革案と、株主による否決
一方で、北尾氏の手法が、いつも市場や株主から支持されているわけではないことを示す、より明確な事例があります。
2025年4月、北尾氏はフジ・メディア・ホールディングス(FMH)の取締役候補として、同社の経営改革案を発表する緊急記者会見を開きました。会見でFMHの現体制を「不十分だ」と批判し、「敵対するなら徹底的に勝負する」「(FMH株を)5%ぐらい買うのはわけない」とまで発言しています。会見の開催が伝わった午前中、FMHの株価は思惑的な資金流入で急上昇しましたが、会見の内容自体にはサプライズ感が乏しいと受け止められ、後場は利益確定売りが優勢となって伸び悩んでいます。
そして、より重要なのはその後です。2025年6月25日に開かれたFMHの定時株主総会で、大株主のダルトン・インベストメンツが提案した、北尾氏を含む取締役選任の株主提案が採決にかけられました。結果は、賛成が3割にも届かない大差での否決でした。会見での強い発言や、株式取得までちらつかせた交渉姿勢にもかかわらず、株主の大多数は北尾氏を取締役として迎えることを選ばなかったということです。
強い言葉や大胆な手法で存在感を示すことと、それが実際に株主の支持を得て目的を達成することは、必ずしもイコールではありません。この一件は、その両面をはっきりと映し出す事例だといえます。
経営スタイルをどう評価するか
ここまでの事例を踏まえると、北尾氏の経営スタイルには、評価できる点と、懸念として見ておくべき点の両方があります。
評価できる点
野村證券、ソフトバンクでの実務経験を土台に、独立後もM&Aや事業提携を積極的に仕掛け、実際に会社を大きく成長させてきた実行力
直近の決算でも4期ぶりの最高益、13期連続増収という、実際の数字に裏付けられた成果
対立が生じても、最終的には関係を修復し、目的を達成する場面もある(新生銀行の事例)
懸念として見ておきたい点
交渉相手を公の場で強い言葉で批判し、株式取得までちらつかせる姿勢は、必ずしも相手や市場からの信頼につながるとは限らない(フジHDの事例では、株主提案が3割にも満たない賛成で否決されている)
地銀連合構想のように、すべての提携がうまくいくとは限らず、解消に至るケースもある
業績予想や配当額を「非開示」「未定」とすることが多く、株式市場等の変動要因の影響が大きいという事業特性はあるものの、先行きの見通しを立てにくい面がある
高配当株や成長株として銘柄を見るとき、経営者個人の手法や実績を評価することは大切ですが、それだけで投資判断をするのではなく、実際の業績や開示姿勢もあわせて確認する必要があります。
関連する銘柄
最後に、SBIグループに関連する銘柄を、簡単に触れておきます。
SBIホールディングス(8473):グループの持株会社本体。証券、銀行、保険、資産運用、暗号資産事業など、金融事業全般を統括しています。2026年3月期は最終利益4,275億円と、住信SBIネット銀行の株式譲渡益なども寄与し、大幅な増益となりました。ただし、次期の業績予想や配当額は非開示・未定とされており、金融市場の変動要因による影響が大きい事業特性がある点には注意が必要です。
SBI新生銀行(8303):2021年の敵対的TOBを経てSBIグループ入りし、2023年9月にいったん完全子会社化に伴う上場廃止となりました。その後、2025年7月に再上場を申請し、東証プライム市場への再上場を果たしています。この再上場によって、長年の懸案だった公的資金(約2,300億円)も完済しています。地銀連合構想の中核として位置づけられており、非上場を経て再び個人投資家が売買できる銘柄に戻った、という経緯自体が、新生銀行TOBという取り組みの1つの区切りを示しているといえます。
提携先の地方銀行群:地銀連合構想のもとで、SBIグループが出資・業務提携している複数の地方銀行があります。ただし、今回取り上げた筑邦銀行のように、提携が解消されるケースもあるため、個別の提携関係がどう推移しているかを、その都度確認する視点が必要です。
まとめ
北尾吉孝氏は、野村證券、ソフトバンクでの経験を土台に、独立後は一貫してSBIグループを大きな金融コングロマリットへと育て上げた経営者です。M&Aや事業提携を積極的に仕掛け、時には敵対的な手法もいとわない実行力は、実際の業績にも表れています。
一方で、対立を辞さない強い交渉スタイルは、必ずしも市場や株主から一貫して支持されているわけではなく、フジHDの一件のように、強い発言の割に株主投票では明確に拒絶された場面もあります。
SBIグループを見るときは、この「実行力」と「摩擦を恐れない強引さ」という両面を踏まえたうえで、実際の業績や開示姿勢とあわせて、継続的に確認していくのがよいと思います。
