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手取りが増えても、保障は減る。「社保逃れ」で見る利益の中身

生命保険や損害保険を扱う販売代理店で、社会保険料を不適切に抑えていた疑いが報じられました。

名前が挙がったのは、保険代理店のオールワンエージェントです。

社員である保険募集人の給与を固定給と歩合給に分け、歩合給を社会保険料の計算に含めていなかった疑いがあります。

現時点では疑惑の段階であり、個別企業が違法な行為をしたと断定はできません。

ただ、同じような疑いはほかの保険代理店にも広がっており、業界団体は会員各社へ自主点検を求めています。

社会保険料は、毎月の給与から引かれます。

金額も小さくありません。

給与明細を見て、

「こんなに引かれるのか」

と思ったことがある人も多いはずです。

保険料が安くなり、手取りが増えるなら、社員にとっても悪い話ではないように見えます。

ただ、社会保険料が下がれば、得をするのは社員だけではありません。

会社が負担する金額も減ります。

そして、減るのは毎月の負担だけではありません。

将来受け取る厚生年金や、病気で働けなくなったときの保障まで小さくなることがあります。

今回のニュースは、給与計算の問題だけでは終わりません。

会社の利益は、何を削って作られているのか。

投資家が問うべきなのは、その中身です。

結論から言うと

社会保険料を低く計算すれば、社員の手取りは一時的に増えます。

会社が負担する人件費も減ります。

一方で、給与に見合った保険料が納められていなければ、将来の年金や休業中の給付も低くなる方向に働きます。

会社の利益は増えても、その裏側で社員の保障が削られているかもしれません。

仕事の進め方を改善したわけでも、商品力を高めたわけでもありません。

本来負担するコストを社員の将来へ移し、利益を大きく見せただけなら、長く続く強さとは言えません。

利益率の高い会社を見つけたときは、数字だけで評価しない。

売上を伸ばして利益を増やしたのか。

仕事を効率化してコストを下げたのか。

社員や取引先へ負担を移したのか。

同じ利益でも、作り方はまったく違います。

社会保険料は、基本給だけで決まらない

会社員が加入する健康保険や厚生年金の保険料は、「標準報酬月額」をもとに計算されます。

標準報酬月額とは、毎月の給与を一定の幅で区切ったものです。

基本給だけでなく、残業手当、通勤手当、住宅手当などを含めた税引き前の給与が計算の土台になります。

歩合給も同じです。

契約件数や売上に応じて支払われる給与でも、社員が働いた対価として受け取るなら、原則として社会保険料の対象になります。

今回報じられたのは、固定給だけを計算対象とし、歩合給を含めていなかった疑いです。

たとえば、毎月50万円を受け取っていても、固定給の15万円だけをもとに保険料を計算すれば、社員と会社が支払う金額は大きく下がります。

社員の手取りは増えます。

会社の負担も軽くなります。

目の前の数字だけなら、両方に得があるように見えます。

手取りと会社の負担は減る。保障も減る

健康保険料と厚生年金保険料は、基本的に社員と会社が半分ずつ負担します。

会社からすれば、給与を1万円増やしても、人件費が1万円だけ増えるわけではありません。

会社負担の社会保険料も増えます。

歩合給の多い営業社員を抱える会社では、負担も大きくなります。

だからこそ、社会保険料を低く抑えれば、会社の利益には効きます。

社員数が多ければ、年間ではかなりの金額になるでしょう。

ただし、標準報酬月額は、保険料の計算だけに使われる数字ではありません。

将来受け取る厚生年金にも関係します。

厚生年金には、働いていた期間と給与水準に応じて金額が決まる部分があります。

標準報酬月額が実際の給与より低く記録されれば、将来の年金も低くなる方向に働きます。

影響は老後だけではありません。

病気やけがで会社を長く休んだときに受け取る傷病手当金も、標準報酬月額をもとに計算されます。

出産のために会社を休んだときの出産手当金も同じです。

社会保険料を低く計算すれば、

現在の手取りは増える。

会社の負担も減る。

その代わり、老後の年金や、病気・出産で休んだときの給付が減る。

こういう関係になります。

手取りだけを切り取れば得に見えます。

ただ、将来受け取るはずだったお金が減るなら、本当に得をしたとは言い切れません。

保険を売る会社だからこそ、矛盾が際立つ

保険代理店は、顧客へ将来のリスクに備える大切さを説明する仕事です。

病気になったとき。

働けなくなったとき。

老後の収入が不足したとき。

万一のことが起きたとき。

今は必要性を感じにくい保障へ、毎月お金を払う意味を伝えます。

その保険代理店が、自社で働く社員の公的保障を小さくしていた疑いを持たれている。

事実であれば、単なる給与計算のミスでは済みません。

顧客には将来への備えを勧めながら、社員の将来を支える負担は抑えていたことになります。

保険代理店は、顧客から長期の契約を預かります。

家族構成、収入、健康状態など、重要な個人情報にも触れます。

その会社が制度や法律を守る組織なのか。

社員に対しても誠実なのか。

会社への信用が、そのまま事業の土台になります。

販売件数や手数料収入が伸びていても、信用を削って作った成長なら長くは続きません。

利益率が高い会社は、何を削っているのか

投資家は、利益率の高い会社を評価します。

同じ売上なら、多くの利益を残せる会社のほうが強い。

この考え方自体は間違っていません。

ただし、利益率だけでは、会社の中身までは分かりません。

技術力が高く、他社より高い価格で売れているのか。

仕事を効率化し、少ない人数で事業を回しているのか。

仕入れや物流を見直し、無駄な費用を減らしたのか。

社員の賃金や社会保険料を抑えているのか。

取引先へ値下げを迫り、負担を移しているのか。

同じ営業利益でも、作り方は違います。

商品力や業務改善から生まれた利益なら、会社の競争力として積み上がります。

一方で、本来負担するコストを社員や取引先へ移しただけなら、どこかで問題が表に出ます。

過去の保険料を追加で求められる。

社員との争いが起きる。

採用しても人が集まらなくなる。

顧客や取引先から信用を失う。

利益に見えていたものが、後から大きな費用へ変わることもあります。

投資家が追うのは、利益の金額だけではありません。

その利益を、誰が負担しているのかです。

成果主義は、売上の作り方まで追う

保険代理店では、契約件数や手数料収入に応じて報酬が増える歩合制が使われることがあります。

成果を出した人へ多く報いる仕組み自体が悪いわけではありません。

営業力のある人は、年齢や勤続年数に関係なく収入を増やせます。

会社側も、売上に応じて報酬を支払えます。

ただ、成果主義が強い会社では、数字を作るための無理も起きやすくなります。

顧客本位より、手数料の高い商品を優先していないか。

売上を増やす一方で、社員教育や管理が追いついているか。

報酬の支払い方が、社会保険や税金の制度に沿っているか。

売上が伸びているという結果だけでなく、どうやって売上を作ったのかまで追います。

特に金融や保険は、商品が目に見えません。

顧客が買っているのは、将来の保障と会社への信用です。

短期的な販売件数を増やした会社より、適切な管理を続けながら顧客との関係を積み上げられる会社のほうが、長期では強いはずです。

自分の年金記録も確認できる

このニュースは、投資家だけの話ではありません。

会社員として、自分の給与が正しく社会保険へ反映されているかを知るきっかけにもなります。

日本年金機構の「ねんきんネット」では、各月の厚生年金の標準報酬月額を確認できます。

給与が大きく変わったのに、標準報酬月額が不自然に低い。

収入に比べて、給与明細の社会保険料が極端に少ない。

そんな場合は、給与明細と年金記録を一度比べたほうがよいでしょう。

社会保険料は、払えば終わりの負担ではありません。

現在の医療制度を支え、自分の将来の年金や、働けなくなったときの保障にもつながります。

負担が重いのは事実です。

だからといって、低ければ無条件に得というものでもありません。

まとめ

社会保険料が低くなれば、社員の手取りは増えます。

会社が負担する人件費も減ります。

ただし、その代わりに将来の厚生年金や、病気・出産で休んだときの給付まで小さくなることがあります。

今回報じられた疑いが事実なら、会社の利益は増えても、社員の保障を削って作った利益だったことになります。

私が企業を分析するとき、利益率の高さは重視します。

ただ、数字が高いだけでは投資先にしません。

商品力を高めた利益なのか。

仕事を効率化して生まれた利益なのか。

社員や取引先が受け取るものを削って作った利益なのか。

利益の作り方まで掘ります。

一時的に手取りが増えることと、長く安心して働けることは同じではありません。

利益が増えることと、会社が強くなることも同じではありません。

必要なコストを正しく負担し、それでも利益を残せる会社を選ぶ。

「社保逃れ」の疑いから考えるのは、利益の金額ではなく、その中身です。

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