世界最安のiPhoneが、日本人には高い理由
iPhoneは、日本で買うのが世界で最も安い。
東京で3LDKの部屋を借りる費用は、ニューヨークの4分の1ほど。
そんな調査結果が出ました。
世界最安。
なんだか、お得な国になったように聞こえます。
でも、iPhoneの価格を見て、
「日本、安いなあ」
と感じる人は、それほど多くないはずです。
スーパーへ行けば、食品は値上がりしている。
電気代やガソリン代も安くない。
海外旅行へ行けば、ホテルも食事も買い物も高く感じる。
世界から見ると安いのに、日本で暮らす私たちには安くない。
少し変な話です。
このズレを読み解く鍵が、東京の月収世界39位という数字です。
結論:世界最安は、日本人向けのセールではない
結論から言えば、日本のiPhoneが世界最安になったのは、日本人が豊かになったからではありません。
日本の商品が海外から安く見えるようになった一方で、海外通貨へ換算した日本人の給料も安くなっています。
ドイツ銀行が世界69都市を比べた2026年の調査では、東京の税引き後月収は世界39位でした。
首位のチューリヒの賃金は、東京の約3.5倍です。
もちろん、チューリヒは物価も高いため、給料が3.5倍なら暮らしも3.5倍楽になるという話ではありません。
それでも、iPhone、パソコン、海外旅行、留学費用など、世界で価格が決まるものを買う場面では、給料の差が効いてきます。
つまり、世界最安は日本人向けの大セールではありません。
海外から見た日本の値札が下がったという話です。
iPhoneの価格だけなら、確かに日本は安い
今回の調査では、税金を含めても、日本は世界で最も安くiPhoneを買える国とされました。
日本で販売されているiPhoneも、決して気軽に買える金額ではありません。
それでも、ドルやユーロへ換算して各国と比べると、日本の販売価格は安くなります。
ここで大事なのは、価格の安さと買いやすさは別だということです。
たとえば、同じiPhoneが日本では15万円、海外では20万円だったとします。
価格だけなら、日本のほうが5万円安い。
ところが、日本の月収が30万円で、海外の月収が80万円ならどうでしょうか。
日本では月収の半分です。
海外では月収の4分の1です。
15万円と20万円だけを並べれば、日本の勝ちです。
給料まで並べると、話は変わります。
商品を無理なく買えるかは、値札だけでは決まりません。
手取り収入の何%を使うのかまで比べる必要があります。
月収40万円は、ずっと40万円のまま。でも
円安による購買力の変化は、給与明細には書かれません。
月収40万円の人は、来月も40万円なら、数字上は変わっていないように感じます。
しかし、海外通貨へ換算すると価値は変わります。
1ドル100円なら、40万円は4,000ドルです。
1ドル160円なら、2,500ドルです。
40万円は40万円のままです。
ただし、世界の商品やサービスと交換できる力は弱くなっています。
国内で家賃を払い、日本のスーパーで買い物をするだけなら、普段はあまり意識しません。
ところが、海外旅行へ行く。
輸入品を買う。
海外のサービスを契約する。
子どもを留学させる。
こうした場面になると、円の弱さが急に前へ出てきます。
給料は下がっていないのに、海外が遠くなった。
そう感じる理由です。
日本の商品だけでなく、日本人の給料も安くなった
日本が安くなった背景には、円安と、海外より低かった物価上昇があります。
ドイツ銀行によると、2012年以降、円は対外的に約51%下落しました。
一方、日本の物価上昇は同じ期間で約20%にとどまっています。
海外では物価と賃金が上がり、日本では物価と賃金の上昇が比較的ゆっくりだった。
そこへ円安が重なりました。
その結果、ドルやユーロを持つ人からすると、日本のホテル、外食、住宅、商品が安く見えます。
日本人からすれば、昨日まで普通に営業していた店です。
外国人旅行者からすれば、街全体がセール会場のように見える。
少し複雑です。
日本の住宅やサービスの質が急に下がったわけではありません。
日本企業がiPhoneを安く製造できるようになったわけでもありません。
海外から見た日本円の価値が下がったことで、日本の値札が割安に見えるようになりました。
そして、給料も預金も円で受け取る日本人は、その反対側にいます。
日本の物価が安いことは、悪いことなのか
日本の物価が安いこと自体を、すべて悪い話にする必要はありません。
ニューヨークやチューリヒのように、家賃や外食費が高い都市と比べれば、日本は生活しやすい面があります。
治安や交通網、接客、飲食店の質まで含めると、東京の割安感は海外から高く評価されます。
観光客が増えれば、ホテル、飲食店、小売店、鉄道会社などへお金が流れます。
海外へ商品を販売する企業にとっても、円安が追い風になることがあります。
問題は、日本の物価が安いことではありません。
物価の安さ以上に、給料と円の購買力が下がっていないかです。
国内の外食が安くても、エネルギー、食料、原材料、半導体などを海外から買う力が弱くなれば、いずれ国内価格にも影響します。
給料が物価上昇に追いつかなければ、額面が増えても生活は楽になりません。
賃金が上がり、物価上昇が落ち着けば、実際に買える量は増えます。
反対に、給料が上がる流れが止まれば、購買力の回復も止まります。
私たちの家計は、思っている以上に円へ偏っている
このニュースを読んで、
「円は危ない。すぐドルを買おう」
と動くのも少し違います。
為替が今後どう動くかはわかりません。
1ドル170円になるかもしれませんし、130円へ戻るかもしれません。
すでに円安が進んだところで一気に外貨へ替えれば、そのあと円高になったときに損失が出ます。
為替を当てることと、資産を分散することは別です。
ここで点検するのは、家計全体がどこまで円へ依存しているかです。
給料は円。
預金も円。
将来受け取る年金も円。
持ち家や不動産も日本。
投資先まで日本株だけ。
こうして並べると、私たちの家計は思っている以上に円一本です。
日本で生活している以上、これはある程度仕方がありません。
ただ、長期資産まですべて円へ寄せる必要があるかは、別に整理できます。
生活費は円。長期資産は世界へ分ける
毎月の生活費や、数年以内に使う予定のお金は円で持つ。
これは基本です。
税金、住宅費、教育費、車の買い替えなど、日本で支払う予定のお金を外貨へ移すと、必要な時期に円高となり、金額が減っている可能性があります。
一方、10年、20年先に使う資産まで、すべて円預金へ置く必要はありません。
全世界株式や米国株式のインデックスファンドには、世界中で売上と利益を作る企業が含まれています。
日本株でも、海外売上比率の高い企業や、外貨で稼ぐ企業があります。
海外資産を持つのは、円安が続くと予想するためではありません。
自分の給料、預金、年金、投資資産を、すべて一つの通貨へ集めないためです。
私は日本株では高配当株を中心にしています。
それでも、投資資産を日本株だけにはしていません。
収入も生活費も年金も円だからこそ、長期資産の一部を海外へ置く意味があります。
円安メリット株なら、何でもよいわけではない
円安になると、自動車、機械、電機などの輸出企業が注目されます。
ただし、海外売上が多いだけで、必ず利益が増えるとは限りません。
海外で商品を売っていても、原材料や部品を海外から仕入れていれば、コストも上がります。
為替換算だけで一時的に利益が増えても、円高へ戻れば逆回転します。
投資家として押さえるのは、円安で一度だけ利益が増える企業ではありません。
海外で継続的に売上を作れる。
原材料高を販売価格へ反映できる。
ブランドや技術があり、安売り競争になりにくい。
為替が動いても、利益とキャッシュを残せる。
稼いだ資金を成長投資や株主還元へ回せる。
こうした会社です。
「円安だから上がりそう」で選ぶと、為替が反対へ動いた瞬間に前提が崩れます。
円高でも円安でも、事業そのもので稼げるか。
長く持つなら、こちらのほうが重要です。
「安い日本」は、買い場なのか
日本が海外から安く見えれば、外国人観光客だけでなく、海外の投資資金も入ってきます。
日本の不動産が買われる。
日本企業が買収される。
日本株の割安感が注目される。
これは日本経済や株式市場にとって、追い風になる場合があります。
ただし、「日本は安い」だけでは、長期的な成長にはつながりません。
安い人件費を目当てに企業が進出しても、給料が上がらなければ、日本人の購買力は改善しません。
日本企業が安く買われても、利益を伸ばせなければ、安いままで終わります。
必要なのは、円安で値札を下げることではありません。
企業が生産性を高め、利益を増やし、その利益を賃金、成長投資、株主還元へ回すことです。
投資家にとっても、「日本株は安いから買う」だけでは足りません。
安い企業の中から、利益を伸ばせる会社を分ける必要があります。
まとめ:世界最安でも、喜んでばかりはいられない
iPhoneが世界で最も安く買える国になった。
でも、私たちの給与明細に、世界最安割引は付いていません。
海外から見た日本の価格が下がる一方で、海外通貨へ換算した日本人の給料も下がりました。
東京の月収世界39位という数字は、その現実をわかりやすく示しています。
日本で暮らす以上、円は必要です。
生活費や近い将来に使うお金は、円で確保する。
一方、長期資産まで円だけに偏らせず、海外資産や外貨を稼ぐ企業へ分散する。
これは円安へ賭ける投資ではありません。
家計全体を円一本足から少しずつ広げるための分散です。
世界最安のiPhoneから押さえるべきなのは、安く買えるかどうかだけではありません。
自分の給料と資産が、世界の商品やサービスに対して、どれだけの購買力を持っているかです。

