Apple税が下がっても、決済の通行料は消えない。次に儲かる「新しい料金所」はどこか
スマホゲームで、1,000円のアイテムを買う。
このとき、利用者が支払った1,000円が、そのままゲーム会社へ入るわけではありません。
従来の仕組みでは、Appleが代金を受け取り、手数料を差し引いた残りをゲーム会社へ渡していました。
この手数料が、一般に「Apple税」と呼ばれています。
2025年12月18日、スマホソフトウェア競争促進法、通称「スマホ新法」が全面施行されました。
これにより、アプリ会社はAppleやGoogleの決済だけでなく、別の決済会社を使ったり、自社のWebサイトで代金を受け取ったりする選択肢を持てるようになりました。
「最大30%だったApple税が、決済会社へ払う数%だけになる」
そう受け取った人もいるかもしれません。
ただし、実際の仕組みはそこまで単純ではありません。
外部決済に切り替えても、Appleへの手数料が必ずゼロになるわけではありません。
別の決済会社への手数料も発生します。
返金、不正利用、サブスク、税務、問い合わせへの対応も、アプリ会社側へ移ってきます。
無料の道路ができたのではありません。
一つにまとまっていた料金所が、複数の料金所へ分かれていく。
今回は、もともとの決済の仕組みから整理し、Appleの外へ出た仕事と利益が、次にどこへ移るのかを押さえます。
そもそも、Apple税とは何なのか
Apple税という名前ですが、国へ納める税金ではありません。
アプリ内でデジタル商品やサービスを販売した会社が、Appleへ支払う手数料の通称です。
対象になるのは、主にアプリの中で使うデジタル商品です。
ゲーム内のアイテム。
漫画を読むためのコイン。
動画や音楽のサブスク。
AIサービスの有料機能。
広告を非表示にする機能。
こうした商品をiPhoneアプリの中で販売すると、Appleの課金システムが使われてきました。
一方、Amazonで買う服や家電、フードデリバリーの料理、タクシーの乗車料金は、アプリの外で受け取る商品やサービスです。
Amazonのアプリで1,000円の商品を買ったからといって、Appleがその売上から約3割を受け取るわけではありません。
Apple税の対象として問題になるのは、主にアプリの中で消費するデジタル商品です。
これまでは、Appleがレジを担当していた
iPhoneのゲームで、1,000円のアイテムを購入する場面を考えてみます。
利用者は、ゲーム会社へ直接カード番号を渡しません。
Appleに登録しているクレジットカードなどを使い、Appleの購入画面で支払います。
流れを単純にすると、次のようになります。
利用者が1,000円を支払う
↓
Appleが決済を処理する
↓
Appleが手数料を差し引く
↓
残った金額をゲーム会社へ渡す
これまでAppleの手数料は、一般に「最大30%」と表現されてきました。
スマホ新法への対応後に示された現在の日本向け条件では、標準的なデジタル商品について、App Storeの手数料21%と決済処理手数料5%がかかります。
合計は26%です。
税金や個別契約などを省き、1,000円の商品で単純計算すると、次のようになります。
利用者の支払い:1,000円
Appleへの手数料:260円
アプリ会社に残る金額:740円
ただし、Appleが担当していたのは、代金の受け取りだけではありません。
カード情報を管理する。
購入履歴を残す。
領収書を発行する。
サブスクの契約や解約を管理する。
返金に対応する。
アプリ会社へ売上を送金する。
利用者からすると、どのアプリでも同じAppleの画面から購入できます。
アプリ会社からすると、自社で決済の仕組みを一から作らなくても商品を販売できます。
Apple税は高い一方で、レジと販売管理をまとめて任せる料金でもあったわけです。
スマホ新法で、何が変わったのか
スマホ新法によって、アプリ会社はApple以外の決済手段も選べるようになりました。
売り方は、大きく3つあります。
1つ目は、これまでどおりAppleのアプリ内課金を使う方法です。
2つ目は、アプリの中に別の決済会社を組み込む方法です。
3つ目は、アプリから自社のWebサイトへ利用者を移動させ、そこで支払ってもらう方法です。
Google Playでも外部決済を使う選択肢が用意されていますが、基本的な構造はAppleと同じです。
外部決済を選んでも、プラットフォームへの手数料が必ずゼロになるわけではありません。
この記事では、違いが最も伝わりやすい、
Appleのアプリ内課金
自社Webサイトでの外部決済
の2つを比べます。
Webサイトで売れば、Appleへの支払いはなくなるのか
結論から言うと、アプリ内のリンクからWebサイトへ誘導しても、Appleへの手数料は残ります。
現在の日本向け条件では、アプリ内のリンクを押してから7日以内にWebサイトで購入した場合、標準的な手数料は15%です。
これに加えて、Webサイト上でカード決済を処理する会社への手数料も必要になります。
決済代行会社とは、店やアプリ会社に代わって、クレジットカードなどの支払いを処理する会社です。
たとえばStripeでは、国内カードによる通常のオンライン決済について、成功した取引の3.6%を標準手数料としています。
先ほどと同じ、1,000円の商品で比べます。
Appleのアプリ内課金
利用者の支払い:1,000円
Appleへの手数料:260円
アプリ会社に残る金額:740円
アプリからWebサイトへ移動して購入
利用者の支払い:1,000円
Appleへの手数料:150円
決済会社への手数料:約36円
アプリ会社に残る金額:約814円
Web決済のほうが、アプリ会社に残る金額は約74円多くなります。
ただし、これは「26%が3.6%になった」という話ではありません。
Appleへ15%。
決済会社へ約3.6%。
合わせると約18.6%です。
Appleへの支払いは減りましたが、料金所そのものが消えたわけではありません。
支払先がApple一社から、Appleと決済会社の二社へ分かれたのです。
なぜAppleは、決済をしなくても15%を取るのか
ここが、初心者には分かりにくい部分です。
Appleの説明では、手数料はカード決済だけの料金ではありません。
App Storeという売り場を提供する料金も含まれています。
ショッピングモールをイメージすると、構造が分かりやすくなります。
モールは、店を出す場所を提供します。
客を集めます。
施設を管理します。
安全性を確保します。
一方で、商品の代金を受け取るレジは、モールとは別の会社へ任せることもできます。
レジを別会社へ変えても、モールの場所や集客を使っている以上、モールへの支払いがすべてなくなるわけではありません。
App Storeも、これに近い構造です。
アプリを掲載する。
利用者へ配信する。
審査を行う。
アプリを更新する。
検索やおすすめを通じて、利用者に見つけてもらう。
セキュリティの仕組みを提供する。
決済を外へ移しても、こうしたApp Storeの機能は引き続き使います。
Appleは、その対価として手数料を受け取るという立場です。
15%という金額が高いか安いかは、別の議論です。
ただし、決済を外へ出しただけで、売り場を使う料金までゼロになるわけではありません。
外部決済へ移すと、アプリ会社の仕事が増える
Web決済で増えた約74円が、そのまま利益になるとも限りません。
これまでAppleへ任せていた仕事を、アプリ会社側が引き受けるからです。
Webサイトを運営する。
決済画面を用意する。
不正なカード利用を防ぐ。
返金に対応する。
サブスクの契約や解約を管理する。
税金を計算して納める。
購入者からの問い合わせを受ける。
代替決済を利用した取引を記録し、Appleへ報告する作業も発生します。
Appleの決済を使っていれば、利用者はiPhoneの設定画面からサブスクを管理できます。
Webサイトで契約した場合は、契約したWebサイトへログインし、そこで解約するのが基本です。
返金や購入履歴に関する問い合わせも、Appleではなく、サービスを運営する会社が対応します。
手数料が下がる代わりに、費用と責任がアプリ会社側へ移る。
外部決済が得かどうかは、手数料率だけでは決まりません。
増える業務や、利用者が購入途中で離脱するリスクまで含めて判断する必要があります。
新しい料金所は、一つではない
外部決済が広がると、これまでAppleやGoogleがまとめていた仕事が、複数の会社へ分かれていきます。
最初の料金所は、AppleやGoogleです。
アプリを配信する売り場として、手数料を受け取ります。
次の料金所は、決済代行会社です。
利用者のカードから代金を受け取り、手数料を差し引いてアプリ会社へ送金します。
アプリ会社からは、決済代行会社へ支払う一つの手数料に見えます。
ただし、その手数料の中には、VisaやMastercardなどのカードブランドや、カードを発行した会社などへ支払われる費用も含まれています。
さらに、不正利用を見つける会社。
本人確認を行う会社。
サブスクの請求を管理する会社。
税務処理を支援する会社。
海外通貨や複数の決済方法へ対応する会社。
決済を外へ出すほど、必要になる仕組みは増えていきます。
投資テーマとして浮かぶのは、決済代行会社だけではありません。
不正利用対策、本人確認、サブスク管理、税務対応までをまとめて提供する企業です。
決済の外部化が進むほど、Appleの外へ出た仕事を引き受ける企業へ、手数料と取引データが集まりやすくなります。
次に強くなるのは、カードを通すだけの会社ではない
ここからが、投資家として面白い部分です。
決済会社が提供する価値は、カードから代金を引き落とすことだけではありません。
たとえば、クレジットカードの有効期限が切れ、月額料金の支払いに失敗したとします。
そのまま放置すれば、企業の売上は止まります。
決済会社がカード情報を更新したり、適切なタイミングで再請求したりして支払いを成功させれば、売上を取り戻せます。
不正なカード利用を見つけて止めることも重要です。
手数料が0.5%安くても、不正利用や支払い失敗による損失が増えれば、企業にとって得とは限りません。
サブスクでは、さらに多くの管理が必要です。
無料期間がいつ終わるのか。
プランを変更したとき、料金をいくらにするのか。
月の途中で解約した場合、日割りにするのか。
支払いに失敗した顧客へ、いつ再請求するのか。
毎月安定して料金を回収するには、1回カードを通すだけでは足りません。
私は、こうした仕組みを「決済のOS」に近いものだと捉えています。
公式な業界用語ではありません。
ただ、企業の決済、請求、顧客管理、不正対策を裏側でまとめて動かす役割を考えると、単なる決済代行より実態に近い表現です。
次に強くなるのは、手数料が一番安い会社ではありません。
企業が決済に関する面倒な仕事を、まとめて任せられる会社です。
外部決済で得をする会社、しない会社
外部決済の恩恵は、すべてのアプリ会社に同じように及ぶわけではありません。
固定客の多い大手企業
人気ゲームや動画配信サービスなら、利用者を自社サイトへ移動させても、購入してもらえる可能性があります。
Webサイトで購入すれば、アプリ内より多くのポイントを付ける。
アプリ内より価格を安くする。
浮いた費用を、新しいゲームやコンテンツの開発へ回す。
こうした使い方ができます。
自社で決済システムや問い合わせ窓口を用意できる大手ほど、外部決済の効果を取り込みやすくなります。
個人開発者や小規模な会社
個人開発者や小規模な会社では、事情が変わります。
決済画面を作る。
不正利用に対応する。
返金を処理する。
サブスクの解約を管理する。
利用者からの問い合わせを受ける。
こうした仕事には、人件費がかかります。
アプリからWebサイトへ移動する途中で、利用者が購入をやめることもあります。
1,000円の売上で約74円多く残っても、管理費用や売上の取りこぼしが74円を超えれば、外部決済へ移す意味は薄れます。
小規模事業者にとっては、手数料を払ってでもAppleやGoogleへまとめて任せるほうが合理的な場合もあります。
スマホ新法によって選択肢は増えました。
ただし、その選択肢を使いこなせる企業と、使いこなせない企業の差も広がります。
Appleから自由になっても、カード会社から自由にはならない
外部決済を使っても、クレジットカードで支払うなら、VisaやMastercardなどのカード網を通ります。
カード網とは、利用者、店、カード会社、銀行をつなぎ、代金を動かす仕組みです。
Appleが販売を認めても、カードブランド側が決済を認めるとは限りません。
次の3つは、それぞれ別の判断です。
アプリストアが掲載を認めるか。
決済代行会社が取り扱うか。
カードブランドが支払いを通すか。
法律上は販売できる商品でも、決済代行会社やカードブランドの基準によって、カードを使えなくなる場合があります。
Appleから決済を外へ出しても、別の会社のルールに従うことになります。
決済会社やカードブランドは、手数料を取るだけの存在ではありません。
どの商売を市場へ通すのかを決める、門番でもあります。
消費者は、本当に安くなるのか
アプリ会社の手数料負担が下がっても、その分がすべて値下げへ回るとは限りません。
企業には、いくつかの選択肢があります。
価格を下げる。
価格は変えず、利益を増やす。
浮いた分を広告や開発へ回す。
Webサイトで購入した人だけに、追加ポイントを付ける。
たとえば同じサービスでも、
アプリから契約すると月額1,200円
公式Webサイトから契約すると月額1,000円
という価格差が広がるかもしれません。
利用者としては、アプリ内の購入ボタンをそのまま押す前に、公式Webサイトの料金も比べる意味が出てきます。
ただし、安さだけで決めるのも危険です。
どこから契約したのか。
どこで解約するのか。
返金は誰に依頼するのか。
AppleやGoogleの購入履歴に表示されるのか。
外部決済が増えるほど、利用者自身が契約先を管理する必要があります。
スマホ新法によって始まるのは、一律値下げの時代ではありません。
買う場所によって、価格、返金、解約方法が変わる時代です。
投資家として、何を追うのか
決済関連企業を投資対象として捉えるとき、手数料の安さだけで判断するのは早計です。
最初に押さえたいのは、取扱高です。
取扱高とは、その会社の決済システムを通った支払いの総額です。
ただし、取扱高が増えていても、値下げ競争によって利益が残らなければ意味がありません。
次に押さえるのは、決済以外の機能です。
不正利用対策。
サブスクの請求管理。
本人確認。
税務処理。
海外決済。
こうしたサービスまで利用されている会社ほど、顧客企業との関係が深くなります。
一度導入した企業が使い続けているか。
決済件数だけでなく、利用する機能が増えているか。
不正利用や支払い失敗を減らし、顧客企業の売上を増やせているか。
投資家として追うのは、カードを何回通したかだけではありません。
企業の売上を支える仕組みとして、どこまで深く入り込めているかです。
まとめ
Apple税とは、国へ納める税金ではありません。
アプリ内でデジタル商品を販売する会社が、決済やアプリ配信の対価としてAppleへ支払う手数料です。
スマホ新法によって、アプリ会社はAppleやGoogle以外の決済手段を選べるようになりました。
ただし、外部決済へ移せば、手数料が決済会社へ払う数%だけになるわけではありません。
利用方法や契約条件によっては、AppleやGoogleへのストア手数料が残ります。
決済代行会社への手数料も発生します。
返金、不正利用、サブスク、税務、問い合わせへの対応も、アプリ会社側へ移っていきます。
無料の道路ができたのではありません。
一つの大きな料金所が、複数の料金所へ分かれたのです。
次に利益が集まりやすいのは、単にカードを通す会社ではありません。
決済、不正対策、継続課金、税務、顧客管理までをまとめ、企業が安心して売上を作れる仕組みを提供する会社です。
Apple税が消えるのではありません。
決済の料金所が、プラットフォームの外側へ広がっていく。
次の利益がどこへ移るのか。
投資家として押さえるのは、ここです。
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