防災の前に知っておきたい、雨量「ミリ」のはなし
天気予報で「1時間に50ミリの雨」と聞いて、その雨がどれくらいすごいのか、すぐにイメージできる人は少ないと思います。
正直に言えば、私も以前はそうでした。さっきまでそうでした。
南小国町は、これまで何度も豪雨災害を経験してきた町です。
いま私たちは防災士の育成にも力を入れていますが、いざというときに身を守る第一歩は、まず「雨量の数字が何を意味するのか」を、みんなで分かっておくことだと感じています。
そこで今日は、雨の「ミリ」を、できるだけ身近なものに置き換えて説明してみます。
雨量1ミリは「牛乳パック1本分」
そもそも雨量のミリとは何か?
ひとことで言えば、降った雨が流れも染み込みもせず、その場にたまったと仮定したときの、水の深さのことです。
これだけだと分かりにくいので、面積で考えてみます。
1平方メートル、だいたい玄関マットを少し大きくしたくらいの広さに、1ミリの雨が降ると、たまる水はちょうど1リットル。
牛乳パック1本分です。
2ミリならペットボトル1本、10ミリなら牛乳パック10本分、というわけです。
たった1ミリでも牛乳パック1本。
そう考えると、雨というのは思っているよりずっと重たいものなのだと分かります。
駐車場で考えると、もっと実感がわく
もう少しスケールを上げてみます。
車1台分の駐車スペースは、だいたい2.5メートル×5メートルで12.5平方メートルほど。
ここに「激しい雨」とされる1時間30ミリの雨が降ると、落ちてくる水はおよそ375リットル。
家庭のお風呂、湯船にためるとおよそ200リットルですから、その2杯近くにあたります。
車1台分の広さに、1時間でお風呂2杯。
それが道路全体に、町全体に降り注いでいると想像すると、なぜ道路があっという間に川のようになるのか、腑に落ちると思います。
10リットルのバケツでいえば、車1台分のスペースに、1時間で37杯ぶんが降ってくる計算です。
見るべきは「1時間あたり」かどうか
ここで一つ、見落としやすい大事なポイントがあります。
天気予報で出る「何ミリ」は、多くの場合「1時間に降る量」を指します。
そして気象庁が示す目安も、その強さの雨が1時間降り続いたらこうなる、という前提で作られています。
つまり同じ「10ミリ」でも、1時間で一気に降るのか、1日かけてゆっくり降るのかで、意味はまるで変わります。
数字を見るときは、必ず「どれくらいの時間で」とセットで捉えることが大切です。
ふだんの雨は、何ミリくらい?
強い雨の話の前に、ふだん私たちが浴びている雨の感覚もそろえておきます。
1時間に1ミリくらいの雨は、ポツポツと降る小雨で、傘をさそうかどうか迷うくらい。
1時間に5ミリ前後になると、ふつうに傘が必要な、よくある雨です。
買い物や送り迎えのときに「あ、降ってきたな」と感じるのは、だいたいこのあたりです。
ここから1時間に10ミリを超えてくると、空気が変わります。
傘では足元が濡れ、長靴がほしくなる。
その先が、これから紹介する気象庁の区分です。
気象庁の区分を、体感で並べてみる
気象庁は1時間の雨量で、雨の強さを5段階に分けています。身近な感覚と一緒に並べると、こうなります。
10〜20ミリは「やや強い雨」。ザーザーと降り、地面に水たまりができ始めます。
屋内でも、雨音で話し声が聞き取りにくくなるくらいです。
20〜30ミリは「強い雨」。
いわゆるどしゃ降りで、傘をさしていても濡れます。
車のワイパーを速くしても見づらくなります。
30〜50ミリは「激しい雨」。
よく言う、バケツをひっくり返したような降り方で、道路が川のようになります。
50〜80ミリは「非常に激しい雨」。
滝のように降り、傘はまったく役に立ちません。
玄関マット1枚ほどの広さに、1時間でお風呂4分の1ほどの水が落ちてくる計算です。
そして80ミリ以上は「猛烈な雨」。
息苦しいほどの圧迫感があり、大規模な災害の危険が一気に高まります。
本当に怖いのは「降り続く雨」
ここまで1時間あたりの強さを見てきましたが、災害は強い雨が一度に降るときだけ起きるわけではありません。
「やや強い雨」程度でも、何時間も降り続けば、地盤はゆるみ、川の水は少しずつかさを増していきます。
だからこそ、1時間の雨量だけでなく、降り始めからの合計、いわゆる総雨量を見ることがとても大切です。
たとえば総雨量が400ミリに達すると、1平方メートルあたり400リットル。
玄関マット1枚分の上に、お風呂2杯分の水が落ちてきた計算です。
田んぼ1枚、およそ1,000平方メートルで考えれば、お風呂500杯分にもなります。
学校にある25メートルプールでさえ、何枚かの田んぼに降った雨で満杯になってしまう。
そう考えると、山に降った大量の雨が谷あいに集まっていく怖さが、少し想像できるのではないでしょうか。
南小国のように山に囲まれた地形では、降った雨が低いところへ一気に集まります。
自分のいる場所では小降りに見えても、上流の山ではもっと激しく降っていることがある。
これだけの水が山や川に集まれば、土砂崩れや川の氾濫が起きてもおかしくありません。
そして覚えておきたいのは、注意報や警報は、雨量そのものではなく、土や川の状態まで加味した指数をもとに、市町村ごとに発表されるということです。
数字とあわせて、自分の住む地域の警報を確認するのが、いちばん確実です。
数字を、自分ごとにする
雨量のミリは、ただの天気予報の数字ではありません。
牛乳パックやお風呂に置き換えてみると、それが自分の暮らしにどれだけの水を運んでくるのか、急に自分ごとに変わります。
そして数字が自分ごとになると、行動が変わります。
「今日は1時間に50ミリの予報か。これは滝のような雨だから、早めに用事を済ませておこう」。
そんなふうに、ニュースの数字と自分の一日が、自然につながっていきます。
防災というと特別な準備のように聞こえますが、その入口は、案外こういう小さな「読み替え」なのだと思います。
雨の数字を正しく読めるようになることは、その小さな、けれど確かな一歩だと思います。
家族や近所の人と「あの雨、お風呂何杯分だったんだろうね」と話してみる。
それだけでも、いざというときの備えは少し前に進みます。
南小国は、豊かな自然に恵まれた町です。
同時に、その自然と向き合いながら生きてきた町でもあります。
備えを重ねながら、これからもこの美しい里山で、安心して暮らし続けられるように。
そんな風に思った雨の夜でした。
