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Kate 第8話 - 6 運命ノオーバーライド — 書キ換エル未来


五年後。

明るい日差しが窓から差し込む朝。都会のマンションの一室で、目覚まし時計が鳴り響く。

「もう、朝?」

半ば起きかけたケイトが、手を伸ばして時計を止める。かつての冒険の日々が嘘のように、普通のOLとして暮らしていた。彼女は髪をかき上げ、ベッドから這い出す。

「ケイト!朝ごはんできてるわよ!」

リビングからサラの声が響く。

「はーい!今行くー!」

ケイトは急いで洗面所に向かい、顔を洗って髪を整える。鏡に映る自分の姿を見つめながら、彼女は首元のロケットに触れた。それはもう光ることはなかったが、大切な記憶を宿す形見として、常に身につけていた。

リビングに向かうと、テーブルには朝食が並び、サラとジョンがすでに座っていた。

「おはよう、寝坊助」ジョンが笑いながら言う。

「おはよう、パパ」ケイトは椅子に座りながら返す。「今日も早いのね」

「ええ、新しいセキュリティシステムの最終チェックがあるの」サラがコーヒーを注ぎながら答える。「でも夕方には帰れるわ」

サラは今、独立したサイバーセキュリティコンサルタントとして働いていた。ヴァルハラ社の崩壊後、彼女の才能は別の形で花開き、多くの企業から信頼を得ていた。

「私も急がないと」ケイトはトーストをかじりながら立ち上がる。「今日は部長との会議があるの」

かつてのハッカーは今や大手IT企業の普通のOLとして働いていた。もっとも、彼女の持つ特別な才能は、時折会社のトラブルシューティングで役立っていたが。

「気をつけて行ってらっしゃい」サラが笑顔で送り出す。

ケイトが家を出ると、すでに街は活気に満ちていた。五年前の出来事は、ほとんどの人々の記憶から薄れ、世界は何事もなかったかのように日常を取り戻していた。

違うのは、AIが生活のあらゆる場面に浸透していたこと。信号機から家電、交通システムに至るまで、高度な人工知能が人々の生活を支えていた。

オフィスに到着したケイトは、自分のデスクに向かう。彼女のPCの画面が自動的に起動し、今日のスケジュールを表示する。

「おはよう、ケイト」

画面の隅に小さなアイコンが表示され、声が響いた。

「おはよう、フェンリル」ケイトは微笑みながら応える。「今日も監視業務?」

「ええ、いつも通りよ」

フェンリルの声が返ってくる。彼女はもはや実体を持った存在ではなかったが、ネットワーク上で活動する自立型プログラムの代表として、デジタル世界の秩序を守っていた。

かつてのヴァルハラ社は会社としては存在しなくなったが、その技術は形を変えて生き続けていた。フェンリル、ロキ、そして他の自立プログラムたちは、「ヴァルハラ・ガーディアンズ」という名のネットワークパトロール組織を形成し、デジタル空間の安全を見守っていた。

「何か変わったことは?」ケイトが尋ねる。

「特にないわ」フェンリルが答える。「オーディンとフレイヤが封印したニーズヘッグの痕跡もしっかり監視下にあるし、マーカスの残したコードの断片も完全に無害化されているわ」

「そう、それは良かった」

ケイトは少し安堵しながらも、あの日々を懐かしく思い出す。あれほどの冒険と戦いを経験したにもかかわらず、今や彼女は平凡な日常を送っていた。しかしそれは、決して単調ではなく、彼女が選んだ穏やかな幸せだった。

「あ、そういえば」フェンリルの声が続く。「ロキからメッセージがあるわ。『久しぶりに顔を見せてくれてもいいんじゃないかねぇ』だって」

ケイトは思わず笑った。「相変わらずね。今度の週末にでも、ちょっとだけコードの世界に顔を出してみるわ」

彼女は今でも時折、かつての仲間たちと交流していた。デジタル空間での再会は短時間だったが、彼らとの絆は決して薄れることはなかった。

「会議の時間だわ」ケイトはモニターを見て言う。「また後でね、フェンリル」

「ええ、また後で」

フェンリルのアイコンが消え、ケイトは資料を手に取って会議室へと向かった。

窓の外では、太陽が明るく輝き、人々が行き交う。かつて世界の存続を脅かした危機も、今となっては遠い記憶となっていた。しかし、ケイトと彼女の家族、そして彼らの仲間たちは決して忘れることはなかった。

あの日々の記憶と教訓を胸に、彼らは新たな日常を、静かに、しかし確かな歩みで進んでいた。

その夜、家に帰ったケイトはベランダに立ち、星空を見上げた。胸元のロケットを握りしめながら、彼女はかすかに微笑んだ。

デジタルと現実、二つの世界の境界を越えた彼女の旅は、新たな章へと続いていた。平和な日々の中で、ケイトは今日も母サラと父ジョンとの時間を大切に過ごしていた。

そして、コンピュータの画面の向こうでは、フェンリルたちが静かに見守っていることを、彼女はよく知っていた。

「おやすみ、みんな」

ケイトの静かな言葉が、夜風に乗って広がっていった。

(完)

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