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種の壁を超えた魂の共鳴

 人間と猿の境界線を曖昧にし、
アイデンティティと社会の期
待の間で揺れ動く主人公たち
の奇妙な関係を描いた小説・
 小砂川チト著の『猿の戴冠式』
       を読みました。
この作品は、第170回芥川
賞候補作にも選ばれた作品で
            す。


猿の戴冠式
小砂川 チト (著)

いい子のかんむりは/ヒトに
もらうものでなく/自分で/自
     分に/さずけるもの。
ある事件以降、引きこもって
いたしふみはテレビ画面のな
かに「おねえちゃん」を見つ
け動植物園へ行くことになる。
言葉を機械学習させられた過
去のある類人猿ボノボ”シネノ”
と邂逅し、魂をシンクロさせ
       交歓していく。
――”わたしたちには、わたし
たちだけに通じる最強のおま
じないがある”。”女がいます
ぐ剥ぎ取りたいと思っている
ものといえば、それは〈人間
 の女の皮〉にちがいなかった。
女は人間の〈ふり〉をして、
ガラスの向こう側にたってい
 る” ”女とシネノは同じだった。
シネノのほうはそのふるまい
こそ完璧ではあったけれど、
 それでも猿の〈ふり〉をして、
 あるいは猿の〈姿をとって〉、
こちら側にいる” ねえ、なに
もかもがいやなかんじなんで
     しょう。ちがう?

猿の戴冠式
小砂川 チト (著)
Amazonより

あらすじ

競歩選手のしふみは、ある事
 件をきっかけに活動を休止し、
引きこもりの日々を送ってい
            た。
ある日、テレビ画面に映った
動物園の中継で、「おねえち
 ゃん」のような存在を見つけ、
  思わず動植物園へ足を運ぶ。

そこで出会ったのは、シネノ
  という名のボノボだった。
シネノは過去に言葉を機械学
習させられた経験を持つ特別
        な類人猿だ。
しふみは、シネノを見た瞬間
「これは私だ」と感じ、魅せ
られるように毎日通い詰める
        ようになる。

日々の面会を重ねるうちに、
しふみはシネノと自分を同一
        視し始める。
二人の魂がシンクロするかの
ように、奇妙な交流が始まっ
          ていく。

しふみは幼い頃から「わるい
 子」のレッテルを貼られ続け、
シネノは人間に捕獲され研究
 施設で育てられた過去を持つ。
社会の期待に押しつぶされそ
うになりながらも、二人は互
いに共鳴し合い、強く結びつ
         いていく。

物語の中で、しふみとシネノ
は「猿の戴冠式」と呼ばれる
    特別な手話を交わす。
これは自分で自分に王冠をか
ぶせるジェスチャーで、他人
に評価されるのではなく、自
分で自分の価値を認めるとい
  う意味が込められている。

人間と動物の境界線が曖昧に
なり、社会の期待と個人のア
イデンティティが交錯する中
で、しふみとシネノは自己肯
    定の道を探っていく。
奇妙でありながら深遠な物語
が、読者を不思議な世界へと
           誘う。

感想

私は『猿の戴冠式』を読み終
えた後、しばらく呆然として
           いた。
小砂川チトの紡ぐ言葉の魔法
に魅了され、人間と類人猿の
境界線が溶けていく様を目の
    当たりにしたからだ。

この物語は、引きこもりの女
性アスリート・しふみと、言
葉を機械学習させられたボノ
ボ・シネノの奇妙な交流を描
         いている。
二人の魂が共鳴し合う様子は、
まるで鏡に映った自分自身を
見つめているかのようだった。

私は、しふみとシネノが交わ
す「猿の戴冠式」という手話
に、深い意味を感じました。
自らの頭上に王冠を掲げるこ
の仕草は、他者からの評価で
はなく、自分自身の価値を認
      める行為だった。
この仕草は、人間社会の価値
観に縛られない、新たな尊厳
の在り方を示しているように
        思いました。

物語を通じて、私は人間と動
物の関係性について、これま
でにない視点を得えた様に思
         いました。
類人猿研究の歴史を振り返る
と、人類は常に自分たちと類
人猿の違いを探ろうとしてき
          ました。
しかし、この小説は逆に、私
たちの共通点や繋がりを浮き
     彫りにされました。

しふみとシネノの交流を通じ
て、私は人間と他の動物との
間に、友情や深い理解が存在
し得るのではないかと考えて
       しまいました。
それは単なる擬人化ではなく、
種の壁を超えた魂の共鳴のよ
       うなものです。

この物語は、私たちに問いか
         けている。
 人間とは何か、動物とは何か、
そして私たちはどこからきた
           のか。
その答えは、おそらく私たち
が想像するよりもずっと複雑
で、そして美しいのかもしれ
           ない。

『猿の戴冠式』は、私の中で
長く余韻を残す作品となりま
           した。
それは、人間と動物の新たな
関係性の可能性を示唆し、私
たちの世界観を優しく、そし
て大胆に広げてくれる物語で
           した。


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