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望月麗子シリーズ 許嫁続編10

婚約から三か月後。

結婚式の準備は順調だった。ドレスも決まり、式場も決まり、春樹は毎日そわそわしていた。

「あと九十二日」

「数えてるの?」

「当然だ」

もはやカウントダウンアプリと化していた。

そんなある朝。

望月邸に、一通の招待状が届く。

差出人は――海外。

封を開けた蒼真の表情が固まった。

「……厄介だ」

「何?」

麗子が覗き込む。

そこには、美しい筆記体でこう書かれていた。

神代麗子様
ぜひ、我が息子との正式な縁談についてお話ししたい。

春樹がフリーズした。

「……また?」

黒崎は吹き出した。

「人気者だな」

蓮は静かに紅茶を置く。

「今度は国外勢ですか」

送り主は、ヨーロッパ有数の名門貴族、アルフォンス公爵家。

しかも、その息子は若き侯爵、レオナルト・アルフォンス。

「断ればいいだろ!」

春樹が即答する。

だが、蒼真は首を振った。

「神代家とアルフォンス家は、長年の友好関係がある。無下にはできない」

「面倒な家だな!」

「全面的に同意する」

麗子はため息をついた。

数日後。

レオナルト本人が日本にやって来た。

金髪碧眼。

身長190センチ。

完璧な燕尾服。

歩くだけで映画のワンシーンである。

「お会いできて光栄です、レディ・麗子」

優雅に手の甲へキス。

春樹の顔が、面白いほど引きつる。

「キスした」

「手です」

蓮が冷静に訂正する。

レオナルトは微笑んだ。

「婚約者がいると聞いています。しかし、愛に国境はありません」

「あるよ!」

春樹が即答した。

黒崎が肩を震わせて笑う。

レオナルトは麗子を見つめる。

「あなたが幸せなら、私は身を引きましょう」

意外にも、紳士だった。

だが、その夜。

レオナルトは春樹に言った。

「一つだけ、条件があります」

「何だ」

「私と一勝負」

「やっぱり来たか」

勝負内容は――フェンシング。

春樹は絶望した。

「ボクシングじゃないのか?」

「残念ながら」

特訓が始まる。

黒崎はコーチ役、蓮は戦略担当、蒼真は精神指導。

なぜか元ライバルたちが全力で協力していた。

そして決戦の日。

春樹は見事に一本取られた。

開始十五秒だった。

「早い!」

だが、レオナルトは剣を下ろした。

「十分です」

「え?」

「あなたの目には、一切の迷いがなかった」

彼は春樹へ手を差し出す。

「麗子をお願いします」

春樹は、その手を強く握った。

こうして、国外からの刺客も去った。

麗子は呆れながら笑う。

「本当に、次から次へと」

春樹は彼女を抱き寄せた。

「もう誰にも渡さない」

「そうして」

……と、その時。

執事が新たな封筒を持ってきた。

春樹は青ざめる。

「また?」

麗子が開ける。

中には一枚の紙。

そこには――

結婚式の余興について、ご相談があります。
黒崎・九条・神代蒼真

春樹は胸を撫で下ろした。

「そっちか」

黒崎が不敵に笑う。

「安心するのは早いぞ」

結婚式当日、彼はその意味を思い知ることになる。

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