見出し画像

望月麗子シリーズ第七十二話「火星の子」

ノア計画の巨大宇宙船は、静かに赤い星へ降り立った。

窓の外には、どこまでも続く赤い大地。

誰もが思った。

「ここから人類の歴史が始まる。」

歌麿は深く息を吐いた。

「やっと着いたな…。」

太一は土を手に取る。

「生命なんて、とても住めそうにない。」

しかし、その時だった。

コン…

コン…

地面の下から、小さな音が聞こえた。

椿が耳を澄ませる。

「誰かいる。」

その瞬間。

赤い砂がゆっくり割れた。

中から現れたのは、人間ではなかった。

透き通るような青い瞳。

火星の砂と同じ赤銅色の肌。

頭には小さな角のような飾りがあり、白い衣をまとっている。

その子どもは怯えた目で麗子たちを見つめた。

言葉は通じない。

だが、その瞳には恐怖だけではなく、助けを求める色もあった。

麗子は武器を下ろし、ゆっくり両手を広げた。

「大丈夫。」

もちろん言葉は伝わらない。

それでも、その一言には敵意がなかった。

子どもは一歩近づき、小さな手を麗子の手に重ねた。

その瞬間。

麗子の狐のお面が淡く輝き始める。

頭の中に、知らない言葉が流れ込んできた。

「ようこそ、地球の旅人。」

麗子は息をのんだ。

「あなた…話せるの?」

子どもは微笑んだ。

「私たちは、この星の最後の民。」

「でも、地下にはまだ多くの仲間が眠っています。」

その時、火星の地面全体がゆっくりと震え始めた。

遠くの地平線から、巨大な石の塔が一本、また一本と姿を現す。

歌麿が空を見上げる。

「歓迎じゃない…。」

椿が静かにつぶやく。

「試される。」

火星の民と地球の民。

二つの文明が初めて出会ったその日。

本当の「共存」の試練が、静かに幕を開けようとしていた。

――第七十三話「火星の守護塔」へ続く。

いいなと思ったら応援しよう!

雑学   作家目指す望月麗子 よろしければ応援お願いします。