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睡眠時無呼吸症候群と診断されるまで

 どうも夜に息が止まっているようだ。

 なんだかものすごい勢いで腕を引っ張られていると思って、気がついたら隣で寝ている妻が、
「息止まってるよ」
と心配そうに教えてくれた。

 このところ、昼間無性に眠い。特に車の運転を一人でしている時などは、完全に意識が飛ぶことがある。

 トドメを刺したのは睡眠時無呼吸症候群を調べようと買ったスマートウォッチからの、『中等度もしくは重度の睡眠時無呼吸症候群です』との通知だった。さらに、たまたま見たテレビ番組の、『睡眠時無呼吸症候群を治療しない人の10年後の死亡率は10%から20%だ』、という情報に驚いた。

 そういうわけで諦めて近くの睡眠外来に行くことにした。

 病院の診察室で一通り症状を話すと、ベテランのというより長くベテランやっていますという感じの女性の医師が、無呼吸について説明してくれる。先生は最初、僕に熱心に説明してくれていたと思うのだが、途中から説明そのものに夢中になってしまった。徐々に僕に話しているのか独り言を言っているのか分からなくなり、僕は相槌を打つのが馬鹿らしくなった。そしてだんだんと今のシチュエーションが可笑しくなってきて、いよいよ話に飽きてきたところで先生の長い説明は終わった。結局家での簡易検査と一泊入院して検査をすることになった。

 2週間後一泊検査の日がやってきた。夕食を食べ、シャワーにも入って19時前に入院する。ビジネスホテルのような部屋に通され、19:50から装置をつけるのでそれまでに着替えて待つ。部屋は薄暗く本を読むのも大変そうなのでスマホでニュースを読む。

 時間になり看護士が二人やってきて頭、胸、足首などに計測器を付けられる。頭だろうが腕だろうがお構いなく、ヤスリのようなものでゴシゴシ皮膚を削って計測器を付けていく。看護士が本気で削るので声が出そうなほど痛かった。頭にもたくさん計測器を付けられ、そして計測器が外れないようネットを頭から被せられる。顔にネットが食い込んで、みかんもこんな気分なのかな、と思う。
 最後にネットの顔の部分に穴を開ける。接続を確認すると言われ、ベッドに横になる。看護士は計測室にいってしまい遠隔で横を向いたり、目を動かしたりして計測器チェックが行われる。

 確認が終わり、看護士が部屋に戻ってきて

「起きますか」

 と言う。まだ8時過ぎたところで寝るわけないよね、と思って看護士の顔を見たら、なんだ寝ないのか、というような顔をしていて一瞬怯んだが、

「まだ寝ません」

 と返事した。すると計測器の線を束ねて幼稚園児のカバンのように肩にかけてくれるのだが、動きづらくてあまり起きてはいられそうにない。せっかくだからとネットに収まった自分の顔を記念に撮ったりして1時間ほど過ごして、寝ることにした。

 寝る時は計測器と線を繋ぐため、トイレに行く時は接続を外すので看護士を呼ぶように言われる。トイレのために人を呼ぶのは面倒だなと思う。

 まだ早いと思っていたが、あっという間に寝てしまった。気づくと真夜中、どこかでおばさんのひどく怒っている声がして目が覚めた。どうやらひどい寝ぼけ方をする人が検査しているようだ。
 そこで、ちょっとトイレに行きたいかな、何時かな、、、と思ったのがよくなかった。検査でよく寝られるよう見えるところに時計はなく、スマホも検査に影響があるからと電源を消して手の届かないところにあり、時間がわからない。いつも簡単にわかることがわからないというのは、とても気になるものだ。どうにも寝られなくなり、悶々としていた。

 気がつくと、黒くて小さい、左右の目が血走るようにおかしな方向を向いた犬が、僕の左手の薬指に噛みついている。なんだこの犬は!と手を振り回すがさっぱり犬は離さない、と思ったら枕に左手を打ちつけていた。薬指には検査のための飽和酸素濃度計がしっかりと取り付けられていた。なんだ犬じゃなかったのか、と安心して寝てしまった。そして、名前を呼ぶ声で起こされて、寝ぼけたまま計測器を外されて、6:10退院となった。

 二週間後、僕は重度の睡眠時無呼吸症候群と診断され、CPAP(シーパップ)という機械を毎晩つけて寝ることになった。CPAPは鼻に付けるマスクから空気を送り、寝ている時に重力で垂れてくる舌の根元が気道を塞ぐのを防いでくれる機械だ。
 CPAPを付けるようになってから、睡眠時間は変わらないが、見違えて疲れが取れるようになった。なかなか慣れない人もいるそうだが、僕には合っていたようだ。これからは毎晩絶対にCPAPを離さないようにしよう。あの時夢で見た黒い犬のように。

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