創作実話怪談 「九十九折り」
九十九折り
この話は、昔付き合いのあった不動産業者のNさんから聞いたものだ。
Nさんの親戚に、Mという男がいた。
Mの実家は、代々商売を営んできた旧家で、地方の町に広い屋敷を構えていた。
しかし、その屋敷には変わった造りがあった。
門をくぐると、玄関までの道が真っ直ぐではなく
、90度に3回折れ曲がっている。道の両側には背の高い垣根が立ち並び、門から玄関の様子はまったく見えない。
Mが子どもの頃、なぜこんな構造なのかと両親に尋ねたことがあった。
両親の答えはこうだった。
「これは魔除けだ。うちは昔、憑き物を使って商売繁盛していた。しかし、先祖がそれを拝むのを怠った途端、家は傾き、一族は没落した。そして引っ越したが、憑き物も一緒についてきた。それを玄関まで辿り着けないようにするのが、この九十九折りの意味なんだ。」
Mはその話を信じることもなく、大人になるにつれ忘れていった。
そして両親が亡くなり、屋敷を相続すると、彼はすぐにリフォームを決めた。
古臭い九十九折りの道を撤去し、門から玄関まで一直線にアプローチを造ったのだ。
工事が終わったその日から、Mの周囲で異変が起こり始めた。
まず、屋敷の中で誰もいないはずの廊下を歩く音が聞こえるようになった。
夜になると、玄関の方から「トン……トン……」と、誰かがゆっくり歩いてくるような音が響く。
最初は風のせいかと思ったが、家にいる時だけ、その音ははっきり聞こえるのだという。
そして、一週間後。Mは深夜、夢とも現実ともつかない感覚の中で、ふと目を覚ました。すると、枕元に何かがいた。
それは黒ずんだ影のようなものだった。
人の形をしているが、顔がない。ただ、ぬるりとした何かがMの顔を覗き込んでいる。
Mは金縛りに遭い、声を出すこともできなかった。
影はしばらくMを見つめていたが、やがてふっと消えた。
翌朝、Mの体には無数のひっかき傷が残っていた。
その日から、Mは毎晩のように悪夢を見るようになった。
夢の中で、自分の家の玄関に立っている。
しかし、そこに至る道は九十九折りになっていた。
進もうとするのだが、必ず途中で迷い、どこにも辿り着けない。
そして背後から、誰かが近づいてくる——。
Mは精神的に追い詰められ、ついに霊能者に相談することにした。
霊能者は屋敷を見て、一言こう言った。
「あなたが壊したものは、ただの庭ではない。結界そのものだったのです。」
結局、Mは急いで元の九十九折りを復元させた。
すると、不思議なことに怪異はぴたりと収まったという。
Nさんは最後に言った。
「それ以来、Mは絶対に屋敷の造りを変えないようにしているそうだ。まるで、何かが戻ってくるのを恐れているみたいにな。」
Mの家の門をくぐると、今も、あの九十九折りの道が続いているという。
了
