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人事の「事」とは何か?

おつかれさまです。坪谷邦生です。

人を生かして事をなす」。私は人事という営みを、この言葉で捉えています。では、ここでいう「事」とは何でしょうか。

「事」は身近な言葉です。仕事、事業、出来事、物事、大事。しかし、あらためて考えてみると、「事」が何を意味するのかは意外と明確ではありません。探ってみましょう。


「事」とは何か?

「事」は、「物」と対比するとわかりやすくなります。「物」が、そこに存在するものを指すのに対して、「事」は、起こること、行うこと、なされることを指します。

雨が降る、人と出会う、会社が生まれる。これらは「起こること」です。一方、話す、つくる、働く、誰かを助けるといった、人が意図をもって「行うこと」もあります。

つまり「事」とは、広く捉えれば、この世界で「起こること」と人が意図をもって「行うこと」です。

人がなす「事」にはレベルがある

「事」の中でも、人が意図をもって「行うこと」に注目すると、そこには大きさの違いがあります。

行為 → 仕事 → 事業

最も小さな単位が「行為」です。話す、考える、つくる。一つひとつの「すること」「したこと」です。

複数の行為が、ある目的のもとにまとまると「仕事」になります。たとえば、求人票を書く、応募者に連絡する、面接する、合否を決める。それぞれの行為が「人を採用する」という目的によって、一つの仕事になります。

さらに、さまざまな仕事を組み合わせ、組織として継続的に価値を生み出していく営みが「事業」です。商品をつくる、販売する、顧客を支援する、人を採用する。多くの仕事が組み合わされることで、一人ではなし得ない大きな「事」が実現します。

目の前の小さな事は、より大きな事の一部です。そして大きな事は、一つひとつの小さな事によってしか実現しません。

西洋哲学から見る「事」――存在から生成へ

西洋哲学には、世界を「存在するもの(物)」から理解しようとする長い伝統があります。その中で、20世紀の哲学者アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドは、世界を固定した「物」の集まりではなく、出来事が絶えず生成するプロセス(事)として捉えました。

会社にあてはめて考えてみましょう。会社という固定した「物」があって、その中で仕事が行われているように見えます。しかし実際には、人が集まり、話し、決め、つくり、売り、雇い、辞める。そうした無数の「事」が起こり続けることで、会社は会社であり続けています。

この視点から見れば、世界は「物」でできているというより、「事」が絶えず生成することで成り立っていると見ることができます。

東洋哲学から見る「事」――独立から関係へ

東洋にも、「事」を考える手がかりがあります。仏教の基本的な考え方の一つが「縁起」です。あらゆるものは、それだけで独立して存在するのではなく、さまざまな原因や条件との関係によって生じる、と考えます。

一つの「事」も同じです。採用面接は、面接者だけでは成立しません。応募者がいて、募集する企業があり、そこに至る経緯があり、採用したいという事業上の必要があります。さらに、それぞれの人が過去に経験してきた無数の出来事も、その場に影響しています。

「事」は孤立して起こるのではありません。さまざまな人や出来事との関係の中から生まれます

西洋哲学から得た「生成」と、東洋哲学から得た「関係」。二つの方向から眺めると、「事」は固定された対象ではなく、動き続け、つながり続けるものとして見えてきます

人が事をなし、事が人をつくる

ここで「人」と「事」の関係を考えてみます。
普通は、人がいて、その人が仕事をすると考えます。つまり「人→事」です。

しかし、人は仕事をすることで変わります。難しい仕事を任され、悩み、失敗する。誰かに助けられ、協働し、ときには何かを成し遂げる。そうした「事」を経験することで、新しい能力を身につけたり、考え方を変えたり、自分が何を大切にする人間なのかを知ったりします。

人が事をなすだけではありません。事もまた、人をつくっています。「人 ⇄ 事」この関係は双方向なのですね。

一人ではなし得ない「事」のために、人は組む

そして「事」が大きくなれば、一人ではなし得なくなります。

一人ではつくれないものをつくる。一人では届けられない価値を届ける。一人では解決できない問題を解決する。そのために、人は人と組み、組織が生まれます。

組織を「人を管理するための箱」と静的かつ物と見るのではなく、一人ではなし得ない事をなすために、人が組んでいる動的な事と捉えることもできます。

あらためて「人事」とは何か?

ここまで考えると、人事という言葉も少し違って見えてきます。

人事は「人」だけを扱うものではありません。人がどのような「事」をなし、その「事」によって人がどう生かされ、育ち、変わっていくのか。その関係を扱っています。

だから私は、人事を「人を生かして事をなす」と捉えています。

人が事をなし、事が人をつくる。
よい事は人を生かし、生かされた人が、またよい事をなす。

人事とは、この「人」と「事」のよりよい関係をつくり続ける営みであり、またそのための技術なのです。

私のお伝えしたことは、以上です。
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