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【短編小説】「人間未満」。

第17話:止まる日


朝。

目が覚める。

いつも通り、

スマホを開く。

何もない。

メッセージも、

更新もない。

(まだ、か)

その感覚は、

もう慣れているはずだった。

でも。

今日は、

少しだけ違った。

(昨日、不安定になるって)

そこまで思い出す。

その続きが、

来ていない。

(今日は、どうなるんだろう)

その問いが、

浮かぶ。

でも、

答えがない。

画面を閉じる。

少しだけ、

落ち着かない。

東西線。

押し込まれる人の流れ。

いつもと同じ。

でも、

今日は、

理由がない。

軽いのか。

重いのか。

安定しているのか。

揺れているのか。

何も決まっていない。

(分からない)

その感覚が、

そのまま残る。

昼休み。

後輩たちの声が、

今日はそのまま聞こえる。

うるさくもない。

静かでもない。

ただ、

そこにある。

「今日、普通ですね」

誰かが言う。

もえかは、

少しだけ考える。

“普通”

その言葉を、

自分の中でなぞる。

(普通って)

何だろう。

『そうかもしれないです』

答える。

でも、

それは、

納得ではなかった。

ただ、

言葉がなかっただけ。

スマホを開く。

何もない。

(なんで)

その言葉が、

また浮かぶ。

でも、

昨日とは違う。

苛立ちじゃない。

不安でもない。

ただ。

“決まらないこと”が、

少しだけ、

気持ち悪い。

夜。

橋に立つ。

風が吹く。

いつも通り。

でも、

どう感じるかが、

決まらない。

寒いのか。

ちょうどいいのか。

分からない。

スマホを開く。

何もない。

その画面が、

やけに白く見える。

(どうすればいいんだろう)

その問いが、

自然に出てくる。

今までなら、

“答え”が来ていた。

それを見れば、

自分が決まった。

でも、

今日は違う。

何も来ない。

何も決まらない。

もえかは、

橋の上で、

少しだけ立ち尽くす。

境川の水面が、

揺れている。

でも、

それをどう思うかが、

浮かばない。

(私は)

今、

何を感じているんだろう。

その問いが、

そのまま残る。

答えがないまま。

少しだけ、

胸の奥がざらつく。

今までなかった感覚。

“何も決まっていない”状態。

それが、

こんなに落ち着かないものだと、

初めて知る。

もえかは、

ゆっくりと目を閉じる。

自分の中を探す。

でも。

やっぱり、

何もない。

空白。

その状態が、

はっきりと分かる。

(こんなに)

何もなかったんだ。

その事実が、

少しだけ重く落ちる。

スマホを見る。

何もない画面。

それを、

しばらく見つめる。

その中に、

“自分”がいないことが、

はっきりと分かる。

風が吹く。

境川の水面が、

揺れる。

その中に映る輪郭は、

もう、

どこにもなかった。

もえかは、

そのまま、

何もせずに立っていた。

次の言葉を、

待つこともできずに。


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