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🎹【小5本選編最終話】暴走する王女と鋼のメンタル ほろ苦い小5の夏休み

​​夏休みのすべてをピアノに捧げた日々。
週末ごとにグランドピアノをレンタルし、文字通り「諭吉を盛大に飛ばして」仕上げてきました。

「一音一音が、未来の扉を開いていく。」

曲の完成度については……正直、胸を張って「完璧!」とは言えませんが、それでも「やるだけのことはやった」という確信だけを抱いて、本選の朝を迎えました。

​会場の空気は、予選とは比べものにならないほど重く、鋭いものでした。
本日、全国大会への切符を掴めるのは、わずか2〜3人。
その狭き門をこじ開けるため、血の滲むような努力を重ねてきた猛者たちが放つオーラに、娘は完全に萎縮していました。
​「……無理。怖い。震えが止まらない」
​ガタガタと震え、ついには涙までこぼし始めた娘。かける言葉が見つからない私に代わって、父親が娘の肩をしっかりと抱き寄せました。
​「大丈夫。お前がどれだけ一生懸命頑張ってきたか、お父さんとお母さんが一番よくわかってる。今日は上手くいく。必ず大丈夫だ。俺たちがずっと見てるから、安心して行ってこい」
​その言葉に、娘は何かを覚悟したように「……わかった」と頷き、舞台袖の闇へと消えていきました。

「大丈夫。ひとりじゃないよ。」


​そして、運命の演奏が始まります。
​ステージに現れた娘。客席から見ても足が震えているのがわかります。
一曲目、クラシック期のドゥシーク
……弾き始めた瞬間、私は心の中で叫びました。
​「速い! 速すぎる!!」
​あんなに追求した「優雅なお辞儀をする王女」は、そこにはいませんでした。
そこにいたのは、制御不能の「暴れ馬にまたがり、必死にムチを打って爆走する王女」。
緊張でテンポ感がバグり、止まれない、戻れない、まさにノンストップ・ソナチネ!
再現部でカットのベルが鳴り響き、続くメリカントのワルツへ。
​こちらもやはり、テンポは走りに走っています。
必死で歌おうとしているのは伝わります。でも、ワルツの優雅な3拍子が、もはや短距離走のピッチに聞こえてくる……。 

「気合い入れたら、テンポまでスパートかけた件。」

でも、不思議なことに。

その走りすぎた演奏の奥に、以前はなかった「音をつなごうとする意志」が見えました。ただ指を動かすだけだった頃とは違う。今は、自分の音楽を探し始めている。

母はそれだけで、胸がいっぱいになるのです。
​客観的に見れば、本選の舞台にはそぐわない、稚拙で荒い演奏だったかもしれません。
けれど、緊張に押し潰されそうになりながらも、一人でステージに立ち、手探りで精一杯難曲に食らいつく娘の姿。
私は、そんな娘がたまらなく誇らしく、視界が滲んで止まりませんでした。

「たとえ結果がどうであっても、 お父さんとお母さんにとって、 あなたはいつだって一番。」


​演奏を終えて戻ってきた娘の目には、涙が浮かんでいました。
「走っちゃった……訳わかんなくなった……」
​その悔しそうな顔を見て、私は精一杯の笑顔で答えました。
「大丈夫。とっても良かったよ。お父さんとお母さんにとっては、あんたが世界一だったよ」

「やりきったね。抱きしめるしかない一日。」


​ネットで発表された結果に、当然娘の名前はありませんでした。
後日レターパックで届いた審査得点も、通過ラインを下回る厳しい現実を突きつけていました。
​こうして、私たちの「ほろ苦い小5の夏」は幕を閉じました。

​「お疲れ様! 夏休みもあと少し。明日からは思いっきり遊ぼう!」
そう明るく声をかけた私に、娘は真剣な顔でこう返してきたのです。
​「お母さん。……今年は、本当に力不足だった。だから今から一生懸命頑張る」
「来年も挑戦するよ。来年は、本選で絶対に入賞してやるんだから!」
​……え。
来年も、やるの!?
​あんなに震えて、あんなに泣いて、あんなに「暴れ馬」だったのに!?
挫折をエネルギーに変える、娘の鋼のメンタル……というか「ピアノ愛」というか「負けず嫌い」というか……。
母の心配をよそに、彼女はもう、1年後のリベンジへと走り出していました。

​あっぱれ、11歳。
諭吉はまた旅立っていくことになりそうですが、この「鋼の王女」の挑戦を、私はまた全力で支える覚悟を決めたのでした。

「涙も緊張も全部乗り越えて、ようやく迎えた家族の夏休み。」

ここまで「小5のピティナ奮闘記」を読んでくださり、本当にありがとうございました。
泣いて、走って、悔しがって、それでもまた鍵盤に向かう娘の姿は、親の私にとっても忘れられない宝物になりました。
ピティナの小5編はひと区切り。
でも、ピアノの旅はまだ続きます。これからも ゆるゆる更新しながら、小6、そして中学生になってからのピティナ奮闘 も書いていく予定です 🎹
またふらっと読みに来ていただけたら嬉しいです。
これからもよろしくお願いします 🌸

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