🎹【小5予選編第6話】音楽の神様からのご褒美——予選当日の大逆転劇
ついに、運命の予選当日がやってきました。
本番直前のレッスンで、先生が娘にかけてくれた言葉はシンプルでした。
「今までやってきたことを信じて、本番を楽しんでおいで」
「楽しむ」……。そう、あんなに練習したんだもの。
隣県の会場へ向かう車中、いつもはお喋りな娘が、見たこともないほど静かです。
(あぁ、緊張してるんだな……)
そんな娘の横顔を見ながら、私は心の中で、旅立っていった数多の諭吉たちの背中を思い出していました。
会場に到着し、プログラムを確認して驚きました。
娘の出番は、なんと演奏順の一番最後。
「最後の方が審査員の印象に残りやすい」なんて噂も聞きますが、待ち時間が長い分、心臓のバクバクも長引くというものです。
いよいよ審査が始まりました。
客席で聴いていると、他のお子さんたちが全員「天才」に見えてきます。完璧な指の動き、美しい音色。
そんな中、出番を待つ娘がポツリと言いました。
「お母さん、私、今日は練習したこと全部出し切るよ。どうせ私が一番下手なんだから、もう何も怖くないし!」
その開き直り、最高です。
「そうだね、欲張らなくていい。あなたが積み上げたバッハとドビュッシーの世界を、出し切っておいで」

そして、ついに娘の番が来ました。
緊張で少し強張った面持ちでステージに現れ、丁寧にお辞儀。
鍵盤に手が置かれ、静寂の中にインベンションの第一音が響きました。
……聴こえる。
左右の手が対等に、けれど優しく絡み合う旋律。
あの地獄の「10回ノック」と「弾き歌い」の末に辿り着いた、教会で祈りを捧げているような清らかな響きが、ホールを満たしていきます。
続いて、ドビュッシーの『小さい黒人』。
一転して、歯切れの良いリズムが弾けました。
モネの画集を眺め、楽譜を塗り絵だらけにして追求した、あの「色彩」と「自由」。
あぁ、見える……。
広場でダンスをする子供たちの明るいオレンジ色、そして、モワモワとした煙の中から不敵に笑うピエロの手品。
技術的にはまだまだ稚拙で荒削りかもしれません。でも、そこには確かに、娘が自分自身で作り上げた「世界観」が奇跡のように立ち上がっていました。

ステージを降りてきた娘の第一声は、満面の笑みでの
「すごーく楽しかった!」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸はいっぱいになりました。
結果なんてどうでもいい。この「楽しい」という一言だけで、これまでの苦労も諭吉の旅立ちも、すべて報われた気がしたのです。
時はコロナ禍。
会場での結果掲示はなく、発表はすべてネット上。
私たちは落ち着かない気持ちのまま車に乗り込み、帰路につきました。
高速道路を走る車内、スマホを持つ私の手が震えます。
「……そろそろ、出たかな」
ピティナのサイトを更新した、その時。
「……あった」
「えっ!?」
「ある! あるよ! 予選優秀賞に、あんたの名前があるよ!!」
「えーーーっ!?」と叫ぶ娘。
「嘘だろ!?」と驚愕する夫。
あまりの衝撃に、夫がハンドル操作を誤りかけて車が蛇行し、車内は感動とパニックが入り混じる大騒ぎに!

ピアノ歴2年。
「無謀」と言われたC級への挑戦。
真っ直ぐに鍵盤に向き合い続けた娘に、音楽の神様は、最高に眩しい「本選への切符」をご褒美にくれたのでした。

★親子で迷いながら進む
ピティナC級への道。
次回も、どうぞ見守ってください🎹
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