「がん患者よ、旅に出よう!【実践編】⑩」(第10章)――「悪玉LDLコレステロールは悪くなかった!」——日本の2つの医学会が激突した、衝撃のコレステロール大論争――
① 「闇の迷宮」への入口——30年間の疑問
前章で私の血液データを32年分公開しました。
私のLDL(悪玉コレステロール)は40歳以降、一貫して140〜175の高値を維持しています。日本動脈硬化学会の基準では「高LDLコレステロール血症」——本来であればコレステロール低下薬(スタチン)を処方されるレベルです。
しかし私は——30年以上、一度もコレステロール関係で病院のお世話にならず、スタチンも飲んでいません。放置したまま。
それでも71歳の今、元気モリモリです。
さらに疑問があります。私のがん転移克服の苦しい時期(2011〜2014年)——血液は最悪の状態でした。悪玉コレステロール高値、中性脂肪高値、善玉コレステロール低値、L/H比が3.0超えで「動脈硬化がかなり危険な状態」にあったはず。
それでも私は心筋梗塞や脳梗塞・脳出血にならず、転移がんの再発も防ぎました。
ここから次の疑問が出てきます。
「ひょっとすると、高コレステロールは動脈硬化のリスク要因ではない?」「ひょっとすると、高コレステロールはがんの発生や転移の予防に寄与するのでは?」
この疑問を追求していくと——私は「コレステロールの闇の迷宮」に入り込みました。
② まず基本を確認——日本動脈硬化学会の立場
《脂質異常症の診断基準(日本動脈硬化学会)》

動脈硬化学会のHPにはこう書かれています。
「動脈硬化とは、動脈の壁にコレステロールがたまり、硬くなったり狭くなったりして血液の流れが悪くなる状態です。LDLコレステロールやトリグリセライドが高ければ高いほど、HDLコレステロールが低ければ低いほど動脈硬化が進みやすくなります。」
この基準に従えば——私は「高コレステロール血症」で、とっくに治療を受けていなければならない状態でした。しかし、30年放置しても元気です。一体どういうことなのか?
③【衝撃の第1弾】「コレステロールの欺瞞(うそ)」
最初の衝撃は次の本でした。
ワルター・ハルテンバッハ著『コレステロールの欺瞞(うそ)』(中日出版社、2021年3月)

著者はミュンヘン大学医学部教授を歴任した医学博士で、研究分野は栄養疾患・循環器系疾患。何千もの血管手術をした外科専門医でもあります。
彼は長年の研究・手術の経験を通じて、驚くべき結論に達しました。
「コレステロールは動脈硬化と無関係であることを突き止めた」
そして本書において怒りを込めてこう宣言しています。
・コレステロールは生命に必須
・悪玉コレステロールなど存在しない
・コレステロールを下げることは必要ではなく害ですらあり得る
・コレステロールは動脈硬化や心筋梗塞の発症に影響しない
さらに著者は指摘します——薬剤によるコレステロール低下治療が製薬企業・マーガリン産業・病院・医師たちの莫大なお金を稼ぐ商売になっていると。
「コレステロールは悪い、という説は嘘だったのか?」
私の頭の中が揺れ始めました。
④【衝撃の第2弾】「作られたコレステロール悪玉説」
続いて出会ったのが——
ウフェ・ダウンスコウ著『作られたコレステロール悪玉説:何が心臓疾患を本当に引き起こすのか』(西海出版、2015年5月)

本書の翻訳者・羽渕脩躬氏(大学教授・生化学研究者)の体験談が特に印象的でした。
大学定年退職時の人間ドックで「高コレステロール血症」を指摘された羽渕氏は、医師の指示に従いスタチンを服用し始めました。
ところが——服用開始から2カ月後、激しい倦怠感に襲われたのです。
生化学の研究者だった彼は論文を多数検索し、スタチンが「ミトコンドリアの酸化還元反応(電子伝達系)に悪影響を与えている」ことを突き止めました。
ミトコンドリアのエネルギー産生が妨害されれば、体はエネルギー不足に——倦怠感の原因が分かった彼は即刻スタチンをやめました。
そして本書の著者ダウンスコウ博士の主張に出会い、衝撃を受けました。
「高齢者にとって、コレステロールが高い方が長寿につながる。薬でコレステロールを低下させることが、どんなに危険なことか。」
彼は「コレステロールにまつわる間違いを正し、真実を世に知らせる必要がある」と確信し、本書を翻訳・出版したのです。
⑤【最大の衝撃】日本脂質栄養学会の「反乱」
しかし——最大の衝撃はここにありました。「日本脂質栄養学会」というれっきとした日本の医学系学会が、2010年に従来のコレステロール悪者説に真っ向から反対する「ガイドライン」を発表したのです。
奥山治美編集『長寿のためのコレステロールガイドライン 2010年版』

その冒頭に高らかに宣言されていた言葉が衝撃的です。
緊急!"コレステロール低下医療に警鐘"
コレステロール値は高い人の方が癌や脳卒中に罹りにくく、そして長寿であることが解った。間違ったコレステロール低下医療の危険性を示し、医療の改善をめざす。
このガイドラインの主な主張:
・総コレステロール値あるいはLDLコレステロール値が高いと総死亡率は低下する
・総コレステロール値は高い方が長生きする
・高コレステロール血症でもコレステロール低下医療(スタチン投薬)を勧めない
・血清コレステロールの善玉・悪玉説は、その根拠が崩れた
さらに2014年の続編「続・長寿のためのコレステロールガイドライン」でも同様の主張が強化されました。

「日本の正式な医学系学会が、従来のコレステロール悪者説に正面から反論する"ガイドライン"を出していた——これは驚きでした。」
⑥ 2つの学会が激突——決着のつかない大論争
日本脂質栄養学会のガイドライン発表に対し、日本動脈硬化学会から猛烈な声明が出ました。
【日本動脈硬化学会・理事長 北 徹氏の声明(2010年10月14日)】
「日本動脈硬化学会は、科学的根拠なく、必要な患者の治療を否定するような標記『ガイドライン』を断じて容認することはできないことを表明する。」
これに対し日本脂質栄養学会・理事長 浜崎智仁氏が2010年11月9日付けで反論しました。
「混乱が起こるのは、総コレステロールで220mg/dL以下を目標とする動脈硬化学会のガイドラインに原因があると考えるべきでしょう。日本のほとんどの疫学調査で、総コレステロール値240〜259mg/dL(LDLコレステロールなら160〜180mg/dL)の時、総死亡率が一番低いという報告がなされています。」
両学会を巻き込んだコレステロールのバトルが始まりました。そして——いまだに決着はついていません。
⑦ 「スタチン」は本当に安全なのか?
ここで改めて問い直します。コレステロール低下薬「スタチン」とは何か?
スタチンは「HMG-CoA還元酵素」を“阻害する”ことでコレステロールの合成を抑制する薬です。日本では年間数千億円規模の市場があります。
しかし羽渕氏が指摘したように、スタチンはミトコンドリアの電子伝達系に悪影響を与える可能性があります。
ミトコンドリアはすべての細胞のエネルギー(ATP)を産生する「発電所」です。その発電所の機能が阻害されれば——
・全身の倦怠感
・筋肉痛・筋力低下(横紋筋融解症)
・認知機能の低下
・糖尿病リスクの上昇
これらがスタチンの副作用として報告されています。
前章(第7章)で学んだ長寿遺伝子(サーチュイン)の活性化には、ミトコンドリアのエネルギー産生が不可欠です。スタチンでそのミトコンドリアが阻害されるとすれば——長寿遺伝子の起動も妨害されることになります。
これは見逃せない問題です。
⑧ もともとコレステロールは体に必須の物質
そもそも——コレステロールとはどんな物質なのか、改めて確認します。

コレステロールの主な役割は以下の 3 つです :
細胞膜の材料:体全体の 60 兆個の細胞膜を構成し、丈夫にして栄養素の出入りをコントロール
ホルモンの材料:性ホルモン(男性・女性ホルモン)や副腎皮質ホルモンなど、体の調節に不可欠なホルモンを作る
胆汁酸の材料:脂肪の消化・吸収を助ける胆汁酸を作り、ビタミン A・E の吸収もサポート
コレステロールは「悪者」と思われがちですが、生命維持に必要不可欠な物質です 。これほど重要な物質が不足するとむしろ体調不良になるのでは?——これが私の率直な疑問でした。
そして、コレステロールを悪者と決めつけ、薬で強制的に下げることが本当に正しいのか——私にはどうしても納得できません。
この答えを求めて、次回はいよいよ「コレステロールの真実」に迫ります。
次回(⑪):第11章「コレステロールの真実」 ——動脈硬化のメカニズムを完全解剖。LDLには「善玉の大型LDL」と「超悪玉の小型LDL」の2種類があった!中性脂肪が増えるとLDLが小型化する驚きのメカニズム。そして私の血液が「動脈硬化しない」ことが証明された——。
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ライター・舟橋栄二
