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「水に浮かぶ寺」

1000字の夢日記


 目の前に広がる池は子どもの頃、まだ若かった両親と手をつなぎ、歩きながら眺めたものと同じなのか。

池には蓮の花が咲き乱れ、そこに木の桟橋で結ばれた寺院があり、あたかも水に浮いているように見えた。特に格式が高いわけでもなく、どこにでもあるような寺だったが絶えず参拝者がいて、本堂の格子扉の奥には、ぱっと見、冴えないけれど愛嬌のある仏様がいた。「蓮の花と冴えない仏」とが、どういうわけか強烈なインパクトとして脳の奥底に刻み込まれている。池のほとりに広がる雑木林の向こうには数軒の家の屋根が見え、畔道(あぜみち)のような草木の茂った小道を通る。そこには粗末な土壁の集落があり、牛か豚の家畜小屋があった。裏手に小川が流れていて、上流側の脇には朽ち果てたトタン家の壁にオロナミンCや女優さんが笑う蚊取り線香の看板があった・・

そんな、昔の風景が、どうしても頭から離れない。

この蓮池には運命的な何かを感じる。ところが、今、池を見渡しても雑木林はあるものの、寺が見当たらない。オレの思い違いなのか。いやいや、では、蓮の花と仏の記憶は何なんだ。やはり、ここで間違いないはずなのだが。

まずは当時あった、あの小道を探そう。

オレは昔の微かな記憶をたどりながら近辺を探してみた。しかし時代と共に景観が一変していて小道そのものがなく、あるのは今時の住宅街。せめて当時の痕跡だけでも見つけようと老練の刑事と、鼻の利く警察犬を足したくらいに、しつこく嗅ぎまわってみたが、やはりない。

そうだ、雑木林の向こうに土壁の家が残っているかもしれない。少々、遠回りになるけれど、そこに通じていそうな道があったので行ってみることにしよう。

オレは期待に胸膨らませ、勢いをつけるためにスキップしながら軽快に走ってみた。下り坂のせいか、どんどん加速する。周りの景色が列車の窓から見えるような速さで、びゅんびゅん通り過ぎる。いくらなんでも、こんなに急ぐ必要はないだろう。それでもスキップのスピードは止まらない。というより止められない。

自分の意思とは別に、足だけが他の生き物になったように勢いよく動く。これでは目的の、土壁の家があっても通り過ぎてしまうではないか。いったい、どうすればいいのだ。やむをえない、ここは、もっと速度を上げ、足がもつれたあと転倒させて止める作戦しかない。

それでも、獣のような走りを得た足は、もつれるどころか正確な高速回転で動き続ける…

Photo by SeñorA

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