「白手袋のマジック」
1000字の夢日記
オレは初めて来たBARに入ろうとしている。
真鍮の取っ手を持ち、ドアを押すとギギーッと木が擦れる音がした。入って、すぐの正面は学園祭の模擬店で見かけるようなベニヤ板を黒く塗っただけの板壁。
ここがBARなのか?
板壁の中央には小さな赤いカウンターが付いていて、その上に、人の手が、かろうじて入る程度の丸い穴が二つ並んで、空いていた。誰からの案内もなく、なんとなく、その穴を眺めていると突然、
「こんばんは~」
白手袋をした二本の手が出てきた。オレは驚いて後ずさりしたが今からマジックのショーでもはじまるのか。息を呑んで凝視していると、その白手袋は滑らかに手首を回しながら、
「いらっしゃいませぇ~」
鼻につく甲高い声を発した。おそらく声の主は、オカマ系の男だと思われるが甘さを含んだ声の余韻から、もしかしたら女なのかもしれない。オレは静かに目を閉じ、男か女かを思案していたのだけれど次に、この声は信じられない一言を発した。
「お客さん、どの本になさいますかぁ~?」
「…はああっ」オレは面を食らった。意味がわからず考え込んでいると白手袋は若干動きを速くして、
「だから、どの本になさいますかぁ~お客さん」
急かすように先ほどより強い口調の声が返ってきた。オレは男か女かの疑問は後回しにして、まず根本的な質問をしてみた。
「本って、ここは本屋なの?」すると、
「あらあら、ふざけないでね、お客さん」
別に、ふざけているわけではないけれど、何が何やら、わからない。
「・・・・・・・」
白手袋は、しばらく、こちらの出方をうかがっていたものの、しびれを切らしたのか沈黙を破り、低音とはいえ、まだ優しさの残る声で、
「ふうっ…ここがどこだか本当にわからないの?」
オレは、少し恐いのに、またいつもの癖でカッコをつけて、
「まあまあ、そんなにムキにならなくても。落ち着いて、落ち着いて」
偉そうに相手を諭すような言い方をしてしまった。
白手袋が一瞬、ピクッと動き、小刻みに震えだした。怒ったのか。それから凄みのあるドスの効いた声に変わり、
「なんだぁ~、冷やかしかぁ、このガキゃ~!」
ビビった。やはり男だ。
そのうちに穴から出ている二本の白手袋が、にゅ~と轆轤(ろくろ)首のように伸びてきた。そして、指をイソギンチャクの触手のように、へらへらと動かしはじめた。変な話だが、それがサンバのリズムに乗って情熱的にダンスをしているみたいで楽しく愉快に感じられた…

