連載『それゆけ!重さん19』~餃子
餃子
結婚して私たちは小金井市に住み始め、
何年か経った頃のこと、
朝、9時くらいだったろうか。
その日、私が一人で家でゆっくりしていると、
庭にガサガサと人の気配を感じ、
直後に窓を叩く音がした。
きゃっ、誰?
当時の私たちの家は、
木造平屋の古民家のような家だった。
玄関でも勝手口でもなく、
さらに、サッシでもない窓を叩いている黒い人影が見える。
普通は、人が絶対に入ってこない場所なのだ。
私がドキドキしていると、
「麺棒ある?」
と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
窓を叩いたのは、自転車にまたがる重さんだった。
えええええ???
どこから来るのよ! しかも自転車??
しかも、今、麺棒って言った??
一体なんのために?
頭の中に10個以上のハテナがついたが、
私は、冷静を装って、
「麺棒はないですけど、”すりこぎ棒”ならあります。」
と言った。
すると、重さんは家に入ってきて、
洗濯機の上で、何かをやり始めている。
・・・なんと、餃子の皮を伸ばしていた!
あまり安定していない白い洗濯機の上に
木製のまな板を置いて、粉を振るっている。
そして、がたがたと音をさせながら、次々と手際よく
餃子の皮ができていく。
想像してみて欲しい。
朝、いきなりやってきて、おもむろに餃子の皮を伸ばす義父。
なんでも、急に餃子を作りたくなったらしく、
材料を買い込んで、池袋から自転車でやってきたのだという。
あ、ありがとう・・
狭い我が家で一時間以上かけて、
丁寧に皮を作り、種を詰め、
21個の餃子を作って
「早めに食べてね」と言い残して帰って行った。
重さんの料理は初めて食べたと思う。
美味しい餃子だったよ。
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次の日、重さんは、今度は自分の実家に向かった。
自転車で片道5時間は余裕でかかる北関東だ。
10時、スーパーが開くと同時に、店中の豚ひき肉を買い占め、
そして、
親戚中をまわって、例のごとく餃子を作りまくり、
配りまくったのだという。
行く先々で、私が味わった思いを、皆さんも味わったのだろうか。
この日、作った餃子は100個どころではなかったと思われる。
お店をやっていた頃の重さんは、こうやって、
きっと毎日のように餃子を作っていたのだろう。
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難病を抱えているのに、
ペースメーカーなのに、
切断する危機だった足だというのに、
重さんの”やりたい”という思いは、
すべてを凌駕した。
ホントにすごいよ、重さん。
20に続く
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